アルバムレビュー:Heartbeat Highway by Cannons

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発売日: 2023年11月10日
ジャンル: ドリームポップ、シンセポップ、レトロウェイヴ、インディーポップ


鼓動のように滑らかに——Cannonsが描く“恋と夜”のハイウェイ・サウンドスケープ

2023年リリースの4作目『Heartbeat Highway』は、ロサンゼルス発のドリームポップ・トリオCannonsが、自らの美学をさらに洗練させ、都市と心の夜を走り抜けるような作品へと昇華させた一枚である。
タイトルの「Heartbeat Highway(鼓動のハイウェイ)」が象徴するように、本作は恋のときめき、喪失、記憶、予感といった感情が、滑らかなビートと共に終わりなき道の上を流れていくような体験をもたらしてくれる。

サウンドは従来のドリームポップ/シンセポップ路線に加え、80年代シンセウェイヴやシティポップ、レトロR&Bのエッセンスを取り込み、より色彩豊かで艶やかに。
ヴォーカルのMichelle Joyはさらに表現力を増し、まるで耳元で語りかけるような密やかさと、時に空間を突き抜けるような開放感を両立している。


全曲レビュー

1. Heartbeat Highway

タイトル曲にしてアルバムのコンセプトを最も体現する一曲。
軽やかなシンセ、ドライブ感のあるリズム、夢と現実のあわいにいるようなヴォーカルが交差する。

2. Crush

甘酸っぱい恋の高揚感を、そのままポップソングに封じ込めたようなナンバー。
跳ねるようなビートが、感情の“高鳴り”を象徴する。

3. Sweeter

前作から続くセンシュアルなトーンを持ちながら、より洗練されたミニマルな構成に。
愛の“甘さ”が、時に危うさを伴うことを示唆するようでもある。

4. Desire

アーバンな雰囲気のミッドテンポチューン。
抑えきれない想いをストイックなトラックに乗せて歌う、夜の都会に似合う一曲。

5. Bad Tattoo

過去の傷を「タトゥー」に例えるメタファーが印象的。
記憶に刻まれた恋をクールに歌い上げる、大人の余裕を感じさせる作品。

6. Girl’s Best Friend

軽快でキュートなサウンド。
“ガールズ・ベスト・フレンド”という言葉をめぐるユーモアとアイロニーが心地よい。

7. Loving You

シンプルなタイトルが逆に印象的。
ありふれたフレーズの中に、深い感情の波が静かに広がっていく。

8. Spinning

恋のめまい、あるいは世界の回転。
ビートとシンセの揺れが、まさに“Spinning”の感覚を具現化している。

9. Desire (Reprise)

4曲目の「Desire」の再演。
より内省的なアレンジで、感情の“残り香”のような余韻を描き出す。

10. Hurricane (2023 version)

前作『Fever Dream』収録の「Hurricane」を新たな形でリワーク。
よりグルーヴィーで、ダンサブルなトーンに仕上がっている。

11. Ruthless (2023 version)

同じくリワーク版。
ヴォーカルがより前景化し、曲の持つエモーショナルな核がより明確に。


総評

『Heartbeat Highway』は、Cannonsというバンドの到達点であり、同時に新たな章の始まりを告げる作品でもある。

彼らの持ち味である夜と夢の世界観はそのままに、そこにポップスとしての普遍性と艶やかさが加わった。
“走りながら想う”という感覚、つまり動的な情感がこのアルバムの核なのだ。

静かで親密な音に身を任せながら、自分の中の記憶や感情がゆっくりと甦ってくる。
このアルバムは、単なる音楽というよりも、一夜のロードムービーに似た体験なのかもしれない。


おすすめアルバム

  • Roosevelt / Polydans
    80年代リヴァイバルと現代的ポップの融合。Cannonsのサウンド進化と響き合う。
  • Tennis / Pollen
    レトロとモダンを行き来する夫婦デュオ。艶やかなメロディとセンチメントが共通点。
  • Japanese Breakfast / Jubilee
    華やかさと内面の繊細さを併せ持つ作品。Cannonsの感情描写と親和性が高い。
  • TOPS / I Feel Alive
    ソフトロックとドリームポップの中間。恋と都市の空気を繊細に描き出す。
  • RAC / BOY
    エレクトロニックとシンガーソングライター的感性の融合。色彩とリズムの感覚が近い。

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