アルバムレビュー：Harvest Moon by Neil Young

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1992年11月2日
ジャンル: フォーク・ロック、カントリー・ロック、アコースティック

あの秋の続きへ——Neil Youngが“優しさ”に還った夜の音楽

『Harvest Moon』は、Neil Youngが1992年に発表した18作目のスタジオ・アルバムであり、1972年の名作『Harvest』の精神的続編として、穏やかで内省的なアコースティック・サウンドを丁寧に編み上げた一枚である。

20年前の『Harvest』と同じく、ベン・キース、ティム・ドラモンド、ケニー・バットレイらお馴染みのミュージシャンたちが再集結し、自然、愛、家族、老いといったテーマを、月明かりのような柔らかさで描いている。

エレクトリックな衝動を一度手放し、人生の“静かな瞬間”を見つめることに全神経を注いだような本作は、90年代初頭という激動の時代において異例の“やすらぎ”を提供するアルバムとなった。

1. Unknown Legend
アルバムの幕開けにふさわしいロードソング。バイクに乗る伝説の女性を描く物語は、静かな尊敬と人生への感謝に満ちている。

2. From Hank to Hendrix
カントリーの神Hank Williamsとロックの革新者Jimi Hendrixを並べた歌詞で、愛と時代の変遷を描く、メタフォーに満ちた名バラード。

3. You and Me
過去の記憶を反芻しながら、“あなたとわたし”という親密な関係性を語る。ギターのアルペジオが優しく心を包み込む。

4. Harvest Moon
アルバムの核となるタイトル曲。満月の夜、長年の伴侶と再び踊る——そんな“変わらぬ愛”への賛歌が、ハーモニカとギターの音に乗って深く沁みる。

5. War of Man
唯一社会的なトーンを持つ楽曲。人間による破壊と自然の怒りをテーマにしながらも、その語り口はあくまで静かで寓話的。

6. One of These Days
疎遠になった人々へのメッセージ。「いつか手紙を書こう」という誠実な後悔が、人生の脆さと時間の重みを伝える。

7. Such a Woman
オーケストラを用いた壮麗なバラード。ヤングには珍しいロマンティックな愛の表現が、アルバムに彩りを添える。

8. Old King
亡き愛犬エルビス（Old King）へのトリビュート。軽快なバンジョーとユーモアが光る異色曲だが、愛と喪失を見つめるまなざしは変わらない。

9. Dreamin’ Man
夢と現実の境界で揺れるような幻想的な一曲。“夢見がちな男”というキャラクターに、ヤング自身の内面が投影されている。

10. Natural Beauty
10分超のエンディング・トラック。自然の美しさと人間の愚かしさを対比しながら、アコースティックなミニマリズムで深い余韻を残す。

『Harvest Moon』は、ロックの荒野を歩き続けたNeil Youngが、ひととき立ち止まり、“愛する者と過ごす日常”に眼差しを向けたアルバムである。

激しい時代の波のなかで、ヤングがこの作品に託したのは、“叫ばない強さ”“消えない温もり”といった、日常という名の静かな祝福だった。

それは若さを否定するのではなく、年を重ねたからこそ見える世界を、感傷ではなく真摯なまなざしで描ききった音楽でもある。

“Harvest”の続編としてだけでなく、人生の後半に差しかかるすべての人々への贈りものとして、今もなお優しく輝き続けている。