
発売日: 2004年11月9日
ジャンル: ピアノポップ、ポップロック、バロックポップ
より深く、よりダークに——Vanessa Carltonの成熟した2ndアルバム
Vanessa Carlton の2ndアルバム Harmonium は、デビュー作 Be Not Nobody(2002年)の成功に続く作品として、よりパーソナルでアーティスティックな方向へと進化を遂げた作品だ。
プロデューサーには当時の恋人であった Stephan Jenkins(Third Eye Blind) を迎え、ピアノを軸にしながらも、ギターやストリングスを大胆に取り入れたオーガニックなサウンド を展開。歌詞のテーマも、恋愛だけでなく アイデンティティの模索や人生の混乱、別れの痛み など、より深いものとなっている。
商業的にはデビュー作ほどの成功には至らなかったが、Carlton のソングライティングの成長を感じさせる作品 であり、ファンの間では 「彼女の最も完成度の高いアルバムの一つ」 と評価されている。
全曲レビュー
1. White Houses
アルバムを象徴するリードシングルで、青春の喜びと痛みをリアルに描いたバラード。ピアノの軽快なアルペジオと、切ないメロディが心に響く。歌詞には初恋や失恋の記憶が込められており、青春の儚さを描いたCarltonの最高傑作のひとつ。
2. Who’s to Say
ピアノとアコースティックギターが融合したミディアムテンポの楽曲。社会の価値観にとらわれず、自分の愛を貫くことの大切さを歌っている。
3. Annie
ストリングスを効果的に使用した、美しくも切ない楽曲。歌詞は病気と闘う少女について歌っており、Carlton の優しさとエモーショナルな表現力が詰まっている。
4. San Francisco
当時交際していた Stephan Jenkins との関係を反映した楽曲。ロマンティックな歌詞とドラマチックな展開 が特徴で、Carlton のピアノが特に際立っている。
5. Afterglow
恋愛の終わりと、それを受け入れる過程を描いたバラード。静かなピアノのイントロから始まり、徐々に壮大なサウンドへと広がる。
6. Private Radio
リズミカルなピアノとギターが特徴のポップロック寄りの楽曲。独特な比喩を使った歌詞が印象的で、Carlton の遊び心が感じられる。
7. Half a Week Before the Winter
アルバムの中でも最も実験的な曲の一つで、幻想的なサウンドと詩的な歌詞が印象的。ピアノのメロディが美しく、リスナーを夢の世界へと誘う。
8. C’est la Vie
「これが人生」という意味のタイトル通り、人生の不確かさや不可解さを受け入れることをテーマにした楽曲。メロディは明るいが、歌詞には皮肉が込められている。
9. Papa
父との関係をテーマにした、パーソナルなバラード。ピアノとストリングスが絡み合う、感情的な楽曲 であり、彼女の家族への思いが込められている。
10. She Floats
ジャジーな雰囲気を持つ楽曲で、Carlton のボーカルがより自由に展開されている。タイトルの通り、浮遊感のあるサウンドが特徴的。
11. The Wreckage
アルバムの締めくくりにふさわしい、静かでエモーショナルな楽曲。ピアノとボーカルのみのシンプルなアレンジが、歌詞の持つ感情をより際立たせている。
総評
Harmonium は、Vanessa Carlton のアーティストとしての成長を感じさせる作品 であり、デビュー作よりもパーソナルで、より実験的な要素が取り入れられたアルバムだ。
「White Houses」のような青春の輝きと痛みを描いた名曲から、「Annie」や「Papa」のようなパーソナルな楽曲まで、Carlton のソングライティングはより成熟し、テーマも深みを増している。また、プロデューサー Stephan Jenkins の影響もあり、ピアノポップだけでなく、ギターやストリングスを活用したオルタナティブ・ロック寄りのアプローチが目立つ。
商業的な成功には至らなかったものの、ファンの間では「最も彼女らしい作品」として高く評価されている。
おすすめのリスナー:
- Be Not Nobody よりも、よりダークで深みのあるピアノポップを求める人
- Fiona Apple や Tori Amos のような、ピアノを軸にしたアーティスティックなポップが好きな人
- シンガーソングライターのパーソナルな歌詞と、ドラマチックなアレンジを楽しみたい人
おすすめアルバム
1. Fiona Apple – When the Pawn… (1999)
よりオルタナティブなピアノポップで、Carlton の作風と共通点が多い。
2. Tori Amos – Under the Pink (1994)
クラシックの影響を受けたピアノ主体のサウンドと、パーソナルな歌詞が特徴的。
3. Sara Bareilles – Kaleidoscope Heart (2010)
ポップな要素を持ちながらも、ソングライティングの奥深さが際立つ作品。
4. Regina Spektor – Far (2009)
実験的なアレンジと個性的なピアノポップが楽しめるアルバム。
5. Michelle Branch – Hotel Paper (2003)
シンガーソングライターとしての成長を感じさせる作品で、Carlton の変化と似た軌跡をたどっている。
Harmonium は、Vanessa Carlton がよりアーティスティックな表現へと踏み出した重要なアルバムであり、デビュー作よりも深みのある楽曲が詰まった作品。ピアノポップの枠に収まらず、ロックやバロックポップの要素も取り入れたこのアルバムは、今もなお多くのファンに愛され続けている。
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