発売日: 1974年4月
ジャンル: プログレッシブ・ロック、クラシカル・ロック、ジャズロック
クラシックを喰らうロック——技巧と叙情の極点、Focusの美学ここに極まる
『Hamburger Concerto』は、オランダのプログレッシブ・ロック・バンドFocusが1974年に発表した4枚目のスタジオ・アルバムであり、彼らの音楽的到達点としてしばしば語られる最高傑作のひとつである。
タイトルに含まれる“ハンバーガー”は、ヨハネス・ブラームスの『ハンガリー舞曲』やクラシック音楽の伝統をもじったユーモアの産物であり、フォーマルな構成とロックの遊び心を融合させた彼らの姿勢を象徴している。
本作は、全体を通して組曲的構成を持つ「Hamburger Concerto」を中心に、短編楽曲で抒情と技巧をバランスよく展開。
バロックから現代音楽、ジャズからシンフォニックロックまでを自在に横断する音楽性は、Focusというバンドの“無国籍な知性”と“感性の普遍性”を見事に証明している。
全曲レビュー
1. Delitiae Musicae
16世紀のルネサンス音楽に着想を得た短いイントロダクション。
リュート風のアコースティック・ギターとフルートが柔らかく調和し、荘厳な空気を作り出す。
2. Harem Scarem
ジャジーでファンキーなリズムを持つアップテンポのインスト。
Jan AkkermanのギターとThijs van Leerのキーボードが陽気に競演する、Focus流ハード・フュージョン。
3. La Cathédrale de Strasbourg
タイトルが示す通り、フランスの大聖堂を思わせる荘厳で叙情的な楽曲。
レイヤーの重なったキーボードと、神秘的な雰囲気のメロディが印象的で、アルバム中もっとも内省的な一曲。
4. Birth
クラシカルなテーマから始まり、徐々にジャズ・ロック風のダイナミックな展開へと移行。
構成美とエネルギーが見事に共存しており、まさに“音楽の誕生”を描いたような意欲作。
5. Hamburger Concerto
アルバムの核となる20分超の組曲であり、Focusのキャリアの中でも屈指の大作。
ブラームスの『ハンガリー舞曲第5番』のモチーフをはじめとするクラシックの引用、バロック的な対位法、ミニマルな繰り返し、ジャズ的な即興が絶妙に融合。
セクションごとに色調を変えながら、知的な構築性と感情の起伏を巧みに行き来する構成力は圧巻。
アルバムタイトルに“コンチェルト”と冠されるにふさわしい、Focusというバンドの象徴的作品である。
6. Early Birth
「Birth」のテーマを反復・変奏したエンディング曲。
回帰と静けさの中に幕を下ろし、全体として組曲的な印象を補完する。
総評
『Hamburger Concerto』は、Focusが持つクラシック音楽への敬意、ジャズ的即興性、ロックのエネルギー、そして詩情とユーモアのすべてを、最も洗練された形で結晶させたアルバムである。
技巧はあくまで表現のためにあり、決して自己顕示ではないというFocusの美学が、静かに、しかし力強く響いてくる。
このアルバムは、知性と感性が拮抗する“音楽的建築物”とも言うべき作品であり、プログレッシブ・ロックが単なる大仰さではなく、緻密な設計と情緒的抒情の芸術であることを証明している。
繊細でありながら大胆、複雑でありながら美しい。そんなFocusの音楽の核心が、ここにある。
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