
発売日:2015年11月13日
ジャンル:Pop / Dance-Pop
概要
Haizは、俳優としてすでに知名度を得ていたHailee Steinfeldが、歌手として本格的な活動を始めるにあたって発表したデビューEPである。オリジナル版は4曲、約13分という短い作品で、タイトルは本人のニックネームから取られている。2015年夏に先行した「Love Myself」を軸に、ダンス・ポップからギターを使ったポップ・ロックまでをコンパクトに収め、まずSteinfeldの声とキャラクターを提示することに重点を置いた内容だ。
サウンドの基本にあるのは、2010年代半ばのメインストリーム・ポップらしい明瞭なビートと、サビをすぐ覚えられるように設計されたメロディである。ただし、4曲を同じ方向へ揃えるのではなく、電子音を前面に出す「Love Myself」、ギターの比重が高い「You’re Such A」、ミドルテンポの「Rock Bottom」、軽快な「Hell Nos and Headphones」と少しずつ性格を変えている。Steinfeldの歌唱も大声で押し切るタイプではなく、低めの音域ではやや乾いた声を生かし、サビでは多重録音されたボーカルによってスケールを広げる方法が中心となっている。
歌詞では恋愛を扱いながらも、相手への依存より自分自身の判断を優先する語り手が繰り返し登場する。「Love Myself」の自己肯定から、関係を断ち切る「You’re Such A」、離れられない二人を描く「Rock Bottom」まで、恋愛に対する距離の取り方は曲によって異なる。俳優から歌手へ移るための作品という事情を考えても、壮大なコンセプトを掲げるより、声、メロディ、態度を短時間で覚えてもらうことを優先したデビュー作である。
全曲レビュー
1. 「Love Myself」
太い電子ベースと手拍子のようなビートを土台に、ヴァースではSteinfeldの声を近く聞かせ、サビでコーラスとシンセを一気に広げる。題名通り中心にあるのは、他人の承認がなくても自分を肯定できるというメッセージだが、歌詞には性的な意味にも取れる言葉が意図的に重ねられている。その二重性によって単純な応援歌にはならず、自立をかなり身体的な感覚として歌っているのが面白い。サビの「自分には自分がいる」という発想を反復する構成も明快で、デビュー曲として歌手Hailee Steinfeldの強気なイメージを最短距離で作った曲である。
2. 「You’re Such A」
電子音中心だった冒頭曲から、ここでは歪ませたギターと力強いドラムへ重心が移る。歌詞の語り手は別れた相手を振り返りながら、未練を引きずるより、その相手の振る舞いを切り捨てる方向へ進んでいく。Steinfeldもヴァースでは言葉をやや突き放すように置き、サビになると声を重ねて感情を大きくするため、苛立ちがそのままポップな高揚感へ変換される。ロックの荒さを本格的に追求する曲というより、ギターの勢いを使って彼女の歯切れのよい歌い方を引き立てたポップ・ソングであり、1曲目とは異なる声の表情を見せている。
3. 「Rock Bottom」
DNCEが参加した「Rock Bottom」は、別れた方がよいと分かっていながら何度も元に戻ってしまう関係を描く。タイトルの「どん底」という言葉に反して曲調は極端に暗くなく、ギターを含む軽快な伴奏と滑らかなメロディによって、危うい関係そのものに引き寄せられる感覚が表現されている。SteinfeldとJoe Jonasの声を交互に置くことで、一方だけが相手を責める歌ではなく、互いに抜け出せない関係として聞こえる点も効果的だ。「Love Myself」や「You’re Such A」の自立した語り手とは違い、頭で理解していても感情を制御できない人物を置くことで、EPの恋愛観に少し複雑さを加えている。
4. 「Hell Nos and Headphones」
最後は、大勢に合わせて騒ぐことより、自分が快適でいられる場所を選ぼうとする歌で締めくくられる。軽いギターと弾むリズムには親しみやすさがあり、クラブ向けの強い低音を使った「Love Myself」と比べると音の圧力は控えめだ。歌詞ではパーティー文化から距離を取り、無理に周囲へ同調しない姿勢を「ノー」とヘッドフォンという身近な道具に置き換えている。派手なクライマックスを作るのではなく、日常的な言葉と明るいメロディで自己決定という主題へ戻るため、4曲だけの作品ながら冒頭と終盤にははっきりしたつながりが生まれている。
総評
Haizは、歌手としてのHailee Steinfeldを一つの音楽性へ固定する作品ではない。電子的なダンス・ポップ、ギターを強調したポップ・ロック、男女の掛け合いを使ったミドルテンポなどを4曲の中で試しており、むしろ「この声でどこまで行けるか」を確かめるショーケースに近い。曲数が少ないこともあって大きな物語やサウンドの発展を作るところまでは踏み込まないが、各曲の輪郭は明瞭で、短い作品としてのテンポはよい。
特に機能しているのがSteinfeldの声質である。鋭い高音を最大の武器にするのではなく、少し低めで乾いた響きをヴァースに残し、サビでは複数の声や厚い伴奏で一気に広げる。この方法は「Love Myself」のような大きなダンス・ポップにも、「You’re Such A」のギター中心のアレンジにも対応できる。歌唱の技巧そのものを前面に出すより、言葉のリズムと声のキャラクターをポップなフックへ結びつけている点が、この時点でのSteinfeldの強みだった。
歌詞にもデビュー作らしい自己紹介の性格がある。自己肯定、別れ、共依存的な恋愛、周囲への同調の拒否と状況は異なるものの、語り手が「自分はどうしたいのか」を考える視点は一貫している。ただし「Rock Bottom」では、その意思だけでは抜け出せない関係も描かれるため、全編が単純なエンパワーメントの標語になっているわけではない。自信の強さと恋愛での迷いを同じ作品に置いたことで、ポップスターとしての人物像にも多少の幅が生まれた。
一方、4曲という短さも含め、独自の音楽世界を完成させた作品と見るにはまだ材料が少ない。プロダクションには2015年前後のラジオ向けポップに共有される要素が多く、曲によって方向性が変わることも、統一感より可能性を示すデビューEPという印象につながっている。それでも「Love Myself」を中心とした強いフックと、演技とは別の表現手段として成立するSteinfeldの声を提示した点では目的が明確である。後にダンス・ポップを軸としたシングルを重ねていく彼女の出発点として、Haizにはその後の方向を決める基本要素がすでに揃っている。
おすすめアルバム
1989 by Taylor Swift
大きなサビ、電子的なリズム、簡潔な曲構成を使いながら、歌詞では恋愛と自己認識を結びつける2010年代ポップの代表例。Haizより音楽世界は統一されており、同時期のメインストリーム・ポップが向かっていた方向も分かりやすい。
Revival by Selena Gomez
2015年発表という同時代性に加え、派手な歌唱力の誇示より声質や距離感を生かして人物像を作る点がHaizと共通する。電子的なビートの中で、自立や恋愛を比較的落ち着いた声で扱う方法にも近さがある。
Emotion by Carly Rae Jepsen
シンセを豊富に使ったポップでありながら、メロディと感情の細かな動きを中心に曲を組み立てた作品。Haizの即効性の高いフックが好きなら、より緻密なアレンジと幅広い恋愛感情へ発展させた例として楽しめる。
Demi by Demi Lovato
ポップ・ロックのギターと大規模なダンス・ポップを一枚の中で行き来する構成が、「You’re Such A」と「Love Myself」の振れ幅につながる。Lovatoの方がボーカルの力強さを前面に出しており、歌唱スタイルの違いも比較しやすい。
Sucker by Charli XCX
ギターの荒い感触と電子的なポップ制作を大胆に混ぜ、反抗的な言葉を覚えやすいフックへ変えた作品。「You’re Such A」に見られる強気な態度やポップ・ロック的な勢いを、さらに尖った方向から味わえる一枚である。

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