イントロダクション
ディープなスライドギターが唸り、ブラスが泥臭く合いの手を入れる。
その中心で 10 代とは思えぬ貫禄でレスポールを弾き倒すのが、カリフォルニア生まれナッシュヴィル育ちの若きギター・ヒーロー、Grace Bowers だ。
彼女が率いる The Hodge Podge は、南部ソウル、ファンク、サザンロックを“一鍋ごった煮”にしたグルーヴで、2020 年代半ばのライヴシーンを席巻しつつある。
バンドの背景と歴史
Grace は 2005 年、サンフランシスコ郊外で誕生した。
12 歳で家族とともにナッシュヴィルへ移住し、週末ごとにブロードウェイのホンキートンクへ通い詰め、飛び入りジャムで腕を磨いた。
TikTok に投稿したボトルネック・ソロが 500 万再生を超えた 2022 年、同世代のジャズ・ドラマー TJ Harrington と意気投合。
そこへバークリー帰りのベーシスト Rosa Kim、ニューオーリンズ出身のトランぺッター Antoine “Tonio” Dupré が加わり、“何でも突っ込む寄せ集め”を意味する The Hodge Podge が結成された。
2023 年秋、ナッシュヴィルのクラブ 3rd & Lindsley で行ったレジデンシー公演が口コミで話題となり、地元紙は「リル・テデスキ＋新世代 MG’s」と称賛。
2024 年 6 月、初の公式 EP『Green Room Grooves』をバンドキャンプ限定で発表し、収録曲 “Bayou Bash” が米インディチャートを駆け上がった。
同年 9 月の Bonnaroo Festival ではソウルの重鎮 Mavis Staples をゲストに迎え、観客５万人のシンガロングを誘発。
現在は 2025 年夏リリース予定のフルアルバム『Swamp School』を制作中である。
音楽スタイルと影響
The Hodge Podge の土台はニューオーリンズ・ファンク譲りのセカンドライン・グルーヴである。
Grace のギターはオールマン・ブラザーズ風スライドと Jimi Hendrix 由来のブルージーなダブルストップを行き来し、ドラムは裏拍にゴスペルクラックを忍ばせる。
ブラス隊はメンフィス・ソウルばりの短いリフで応酬し、ベースはロータリー的シンコペーションで全体を引き締める。
影響源としてバンドが公言するのは、Little Feat のクロスオーバー志向、Meters のミニマルファンク、Tedeschi Trucks のブルーズ・ジャム、そして D’Angelo のダーティなグルーヴ感だ。
代表曲の解説
Bayou Bash
EP のリード曲。
イントロのスライド・フレーズがスワンプの湿度を呼び込み、すぐさまドラムが２拍３連で跳ね始める。
サビではホーンがユニゾンで下降フレーズを吹き、Grace のリードが「泥だらけでも踊れ」と煽る。
Tell Me Why U Do That
TikTok でバズったファンク・ナンバー。
ローズピアノとギターがコール＆レスポンスを繰り返し、終盤で BPM を半分に落とすブレイクが観客の大合唱を誘う。
Golden Hour Train
バラード曲。
夕暮れの線路をイメージしたアルペジオの上で、Grace がワンテイクの泣きのギターを披露。
途中、ハモンドオルガンが教会的ハーモニーを重ね、スピリチュアルな余韻を残したままフェードアウトする。
リリースごとの進化
| 年 | 作品 | 特徴 |
|---|---|---|
| 2023 | Grace Bowers – Live at 3rd & Lindsley（自主配信） | 荒削りな録音ながら、10 分超の即興が評判に |
| 2024 | Green Room Grooves EP | 初のスタジオ録音。ブラスを本格導入し、ソウル色が濃厚に |
| 2025 | Swamp School（予定） | ワールドミュージック要素を拡張。シタールやラテン打楽器も導入し、“世界の湿地帯”を描くという |
影響を受けた音楽とアーティスト
- The Meters／James Brown：リズム隊のポケット感覚
- Allman Brothers／Little Feat：スライド・ギターとサザンジャムの流儀
- D’Angelo／Erykah Badu：ネオソウル的後ノリとコードワーク
- Santana：ラテンパーカッションとの絡ませ方
影響を与えたシーンへの波及
ナッシュヴィルでは彼らの躍進を機に、カントリー偏重だったライブハウスがファンク・ジャム枠を新設。
Z 世代のブルーズ系ギタリストたちが TikTok で Grace のフレーズ解析動画を量産し、“#SwampShred” なるタグが拡散している。
また、女性ギタリストの台頭を後押しする形で、地元高校でのワークショップ依頼が相次ぎ、Grace 自身も若手育成プログラムを立ち上げた。
オリジナル要素
- 即興“ハンドルーム”セクション
ライブ中盤、観客がスマホライトで合図するとバンドが即興でカットアップし、Jellyfish‐ライクな光の波と音が同期する。 - ペダルボード・リレー
数曲ごとにメンバー間でエフェクトボードを交換し、同じリフでもサウンドが変化。ライブ全体を“音色のストーリー”として描く試みである。 - ナッシュヴィル産スパイス“Bayou Dust”販売
ライブ物販で自家製ケイジャンスパイスを販売。音のみならず味覚でもスワンプ文化を広げるユニークなプロモーションが評判だ。
まとめ
Grace Bowers & The Hodge Podge は、南部ファンクの泥臭さと Z 世代のソーシャル感覚を高次元で融合させた“今この瞬間のスワンプ・グルーヴ”である。
ギターが唸り、ブラスが煽り、リズムが地面ごと揺らすとき、聴き手は知らぬ間にミシシッピ・デルタの夜風を感じている。
フルアルバム『Swamp School』がどのような音の景色を描くのか――その船出を目撃する準備を整え、濃密な湿度と熱量に身を委ねてほしい。
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