
楽曲の概要
「Give It Away」は、Red Hot Chili Peppersが1991年に発表した楽曲である。5作目のスタジオアルバム『Blood Sugar Sex Magik』に収録され、同作からの先行シングルとしてリリースされた。作詞・作曲はAnthony Kiedis、Flea、John Frusciante、Chad Smithの4人、プロデュースはRick Rubinが担当している。
曲の中心はFleaの太く跳ねるベースとChad Smithの強烈なドラムである。そこへJohn Fruscianteが音数を絞ったギターを差し込み、Anthony Kiedisは旋律をきれいに歌うより、ラップに近い言葉の連打でリズムへ食い込んでいく。ファンク、ロック、ヒップホップ、パンクを一つのグルーヴへまとめた曲だ。
『Blood Sugar Sex Magik』はバンドが世界的な成功へ進む転機となった作品で、「Give It Away」はその新しいサウンドを最も直接的に示した一曲だった。1993年にはグラミー賞のBest Hard Rock Performance With Vocalを受賞し、Red Hot Chili Peppersにとって初のグラミー受賞曲となった。
歌詞の概要
「Give It Away」の中心にある考えは、タイトル通り「自分が持っているものを人に与える」ことである。ただし、単純に物を寄付しようという歌ではない。愛情、知識、エネルギー、自分が得たものを抱え込まず、他人へ渡すことで循環させるという考え方が歌われている。
この発想にはAnthony Kiedisとドイツ出身の歌手Nina Hagenとの交流が関係している。Kiedisは自伝『Scar Tissue』で、Hagenのクローゼットを見て気に入ったジャケットについて話したところ、彼女がその服をそのまま譲ってくれた経験を振り返っている。
Kiedisが高価な服を簡単に手放すことに驚くと、Hagenは物を持ち続けるより、必要としている人に渡すことが大切だという考えを説明した。この経験がKiedisの中に残り、「Give It Away」の中心となる発想につながった。
そのため、タイトルには一見すると反対の意味が同居している。何かを「give away=手放す」と、自分の所有物は減る。しかし歌詞では、与えることでむしろ精神的な豊かさが生まれると考える。所有することより循環させることに価値を置いているわけだ。
一方、歌詞全体はこの哲学を順序立てて説明する文章ではない。性的な言葉、身体感覚、ポップカルチャーを思わせる断片、即興的な言葉遊びが高速で入り混じる。明確な主張を中心に置きながら、その周囲をKiedisらしい自由な連想で埋めた歌詞になっている。
制作背景・時代背景
『Blood Sugar Sex Magik』以前のRed Hot Chili Peppersは、すでにファンクとパンクを混ぜた独自の音を作っていた。特に1989年の『Mother’s Milk』はバンドの知名度を大きく上げたが、演奏やプロダクションには1980年代後半らしい硬さと密度もあった。
次作ではプロデューサーにRick Rubinを迎える。録音は通常のスタジオだけで完結させず、ロサンゼルスの大きな邸宅に機材を持ち込んで行われた。バンドが長時間同じ場所で過ごしながら演奏することで、ライブに近い一体感を録音へ持ち込む方法だった。
Rubinの重要な仕事の一つは、バンドの音を必要以上に飾らなかったことである。Fleaのベース、Chad Smithのドラム、John Fruscianteのギターという基本的な組み合わせをはっきり聞かせ、各楽器が動ける空間を残した。
「Give It Away」はその考え方と非常に相性が良かった。曲の核はFleaとSmithが作るグルーヴであり、Fruscianteはそこへ大量のコードを重ねない。Kiedisの声も歌唱力を見せる方向ではなく、もう一つの打楽器のようにリズムを作る。
この時期は、アメリカのオルタナティヴ・ロックがメインストリームへ急速に進んだ時期でもある。『Blood Sugar Sex Magik』と同じ1991年にはNirvanaの『Nevermind』なども登場した。Red Hot Chili Peppersはグランジとは異なる音楽だったが、従来のハードロックとは違うスタイルのバンドが広く受け入れられていく流れの中にいた。
「Give It Away」はその後のバンドの方向を決める重要なヒットとなった。同じアルバムの「Under the Bridge」が内省的でメロディアスな側面を広く知らしめたのに対し、「Give It Away」は彼らが以前から持っていたファンクの身体性を、より整理された音で世界規模へ届けた曲だった。
歌詞の抜粋と和訳
“Give it away now”
和訳:今、それを与えろ
曲の中心となる言葉は非常に単純である。何を与えるのかを一つに限定しないため、物だけでなく、愛情や知識、善意、自分の持つエネルギーまで含めて解釈できる。
このフレーズは何度も繰り返されることで、説明というより掛け声に変わっていく。Kiedisが短く強く発音し、バンドが同じグルーヴを維持するため、思想を静かに語るのではなく、身体で覚えさせるようなサビになっている。
サウンドと歌詞の考察
「Give It Away」で最初に注目したいのは、曲がほとんど一つの強力なグルーヴによって前へ進むことである。大きな転調やドラマチックなコード進行を使って感情を変化させるのではなく、ベースとドラムが作った流れを長く維持する。
Fleaのベースはその中心にいる。低音をただ支えるのではなく、短いフレーズを跳ねるように弾き、曲のメロディに近い役割まで担う。音を強く弾いた直後に隙間を作るため、一音一音が大きく感じられる。
ここにはファンクの考え方が強く表れている。重要なのは大量の音を鳴らすことではなく、どこで音を鳴らし、どこを空けるかである。Fleaのベースは非常によく動くが、すべての隙間を埋めてはいない。その空白があるため、Chad Smithのキックやスネアが強く飛び込んでくる。
Smithのドラムも派手なフィルを連発するより、太いビートを維持することを優先している。特にスネアの強い一打が曲の骨格を作り、Fleaの細かな動きを受け止める。ベースが跳ね回っても曲が不安定にならないのは、このドラムが大きな土台を作っているからだ。
John Fruscianteのギターは、さらに興味深い。一般的なハードロックなら、ベースとドラムがこれほど強い場合、ギターも歪んだコードを重ねて巨大な壁を作りそうだ。しかしFruscianteは逆に音数を減らしている。
短いコードや単音、ノイズに近い音を必要な場所だけへ入れるため、ベースがよく聞こえる。ギターが主役になるというより、リズムの隙間へ色を付けていく。この引き算が『Blood Sugar Sex Magik』期のFruscianteの重要な特徴である。
ギターソロも通常のロックとはかなり違う。滑らかな速弾きで盛り上げるのではなく、逆再生されたギターを使った奇妙な音が現れる。前後の向きが分からなくなるような音によって、それまで続いていたグルーヴに一時的な異物感が入る。
Anthony Kiedisのボーカルも、メロディよりリズムが中心だ。言葉を短く区切り、アクセントをビートへ合わせながら次々に送り出す。音程を追わなくても、声だけで曲のリズムが分かるほどである。
ここでヒップホップとの共通点が聞こえる。Kiedisは伝統的なラッパーと同じ方法を取っているわけではないが、文章をメロディに乗せるより、言葉の響きとアクセントからグルーヴを作る。Red Hot Chili Peppersがファンクロックだけでは説明しきれない理由の一つだ。
そして、この反復中心のサウンドは歌詞の「与える」というテーマとよく合っている。Kiedisは思想を長い文章で説明せず、短い言葉を何度も周囲へ投げる。声からバンドへ、バンドから聞き手へエネルギーが渡っていくような構造になっている。
タイトルのフレーズも、一度だけ歌えば個人的な考えで終わる。しかし何度も繰り返すことで、次第に観客も参加できる掛け声になる。ライブで強い曲になった理由もここにある。曲のメッセージ自体が、聞き手へ渡されていくように作られている。
一方で、歌詞は精神的な寛大さだけを扱っているわけではない。性的なイメージや身体についての言葉が大量に入り、かなり混沌としている。この猥雑さがRed Hot Chili Peppersらしい部分でもある。
つまり「Give It Away」は、清潔な道徳の歌ではない。欲望や身体性を否定せず、そのエネルギーを独占ではなく循環へ向けようとしている。哲学的な中心と、Kiedisの奔放な言葉遊びが同じ曲の中にある。
Rick Rubinのプロダクションは、この身体性をはっきり見せる。楽器を大量に重ねて豪華にするより、ベース、ドラム、ギター、声の距離を近く感じさせる。特にFleaとSmithの演奏には生々しさがあり、リズム隊が同じ部屋で鳴っているような感触が残っている。
Brendan O’Brienによるミックスでも、ベースが非常に重要な位置を占める。ロックではギターが低音を覆うこともあるが、この曲ではFleaの音が常に輪郭を保っている。ギターを引き算したアレンジと合わせて、ベースが曲の主導権を握るミックスになっている。
「Give It Away」は激しい曲だが、その激しさはヘヴィなギターから来るものではない。ベース、ドラム、声が同じリズムへ集中し、それをほとんど休まず反復することで圧力を作る。だから音源で聴いても、ライブのような身体的な勢いがある。
そしてこの方法は、歌詞の内容とも矛盾しない。所有することより、エネルギーを動かし続けることを肯定する歌に対して、演奏も一か所に留まらず、メンバー同士でリズムを受け渡し続ける。「Give It Away」はメッセージとグルーヴが同じ方向へ動いている曲なのである。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「If You Have to Ask」 by Red Hot Chili Peppers
同じ『Blood Sugar Sex Magik』収録曲。FleaのファンクベースとFruscianteの隙間の多いギターがよく聞こえる。「Give It Away」よりテンポ感は落ち着いており、4人のグルーヴを細部まで追いやすい。
「Suck My Kiss」 by Red Hot Chili Peppers
同じアルバムから、より重いギターリフを前面に出した曲。KiedisのリズミカルなボーカルとFleaのベースは共通しているが、「Give It Away」の軽快さをハードロック側へ寄せたような迫力がある。
「Higher Ground」 by Red Hot Chili Peppers
Stevie Wonderの楽曲をカバーした1989年の代表曲。スラップベースと激しいロックを直接ぶつけており、「Give It Away」以前の彼らがファンクをどのようにロックへ変換していたかが分かる。
「Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)」 by Sly & the Family Stone
反復するベースラインを中心に、少ない音数で巨大なファンクのグルーヴを作る代表曲。「Give It Away」の低音中心のアレンジをさかのぼると、このような1970年前後のファンクとのつながりが見えてくる。
「Cosmic Slop」 by Funkadelic
ファンクの反復と強烈なロックギターを同じ演奏の中へ入れた曲。Red Hot Chili Peppersが強く影響を受けたGeorge Clinton周辺の音楽であり、ファンクとロックを分けずに扱う発想の重要なルーツを聴ける。
まとめ
「Give It Away」は、Red Hot Chili Peppersが初期から追求してきたファンク、パンク、ロック、ヒップホップ的な感覚を、非常にシンプルで強いグルーヴへまとめた曲である。Fleaの跳ねるベースとChad Smithの太いドラムを中心に置き、John Fruscianteはあえてギターの音数を減らす。そこへAnthony Kiedisが言葉を打楽器のように叩き込んでいく。
歌詞の中心にあるのは、持っているものを独占せず他者へ与えるという考え方だ。Nina Hagenとの交流からKiedisが受け取ったこの発想を、説教的に説明するのではなく、短いフレーズの反復と身体的なグルーヴに変えている。
『Blood Sugar Sex Magik』によってRed Hot Chili Peppersは、それまでの個性的なファンクロックをより広い聴衆へ届けることになった。「Give It Away」はその転換点を代表する一曲であり、後のバンドの大きな特徴となる「演奏技術の高さを、音数ではなくグルーヴへ使う」という方法が特にはっきり表れている。
参照元
- Red Hot Chili Peppers『Blood Sugar Sex Magik』
- Warner Records「Give It Away」楽曲クレジット
- Anthony Kiedis with Larry Sloman『Scar Tissue』
- GRAMMY.com「35th Annual GRAMMY Awards」
- GRAMMY.com「Red Hot Chili Peppers Artist Profile」

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