Gigantic by Pixies(1988)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Gigantic」は、1988年にPixiesがリリースしたデビューアルバム『Surfer Rosa』に収録された楽曲である。

この曲は、バンドの中でも特に異彩を放つ作品であり、その歌詞と雰囲気は、甘美さと不穏さが入り混じる独特のムードを持っている。主にKim Deal(当時はMrs. John Murphy名義)がリードボーカルを務めており、彼女のソフトで夢見るような歌声が、Black Francisのエッジの効いた楽曲とは対照的な魅力を放っている。

歌詞の内容は一見シンプルながら、どこか挑発的な匂いを漂わせる。主人公が大きな男性に対して「Gigantic, gigantic, gigantic / A big, big love」と繰り返し歌いかけるこの構造は、愛や欲望、あるいはフェティシズムのようなものすら暗示しているように思える。

2. 歌詞のバックグラウンド

Pixiesは1986年にマサチューセッツ州ボストンで結成されたオルタナティヴ・ロックバンドであり、グランジやインディー・ロックに多大な影響を与えた存在である。バンドの最大の特徴は、Black Francis(現Frank Black)の怒りと狂気を孕んだヴォーカルスタイルと、Kim Dealの柔らかくドライな存在感の対比であった。

「Gigantic」は、その中でもKim Dealが中心となって作詞・作曲に関与した数少ない楽曲のひとつであり、彼女の音楽的個性が最も色濃く現れている楽曲とも言える。この曲の後、KimはPixiesを脱退し、自身のバンドThe Breedersでさらにその才能を開花させていくことになる。

なお、「Gigantic」という言葉自体が象徴するのは単なる物理的な大きさではない。そこには性的な意味合いや、抑えきれない欲望、社会的な越境といった要素が巧妙に折り込まれている。Kim Dealはこの曲のインスピレーションの一つに、白人女性と黒人男性の恋愛を描いた映画『Crimes of the Heart』を挙げており、それが一部で「人種的な緊張感」を孕んだ作品と解釈されている理由でもある。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に印象的な歌詞の一部を紹介する。

引用元:Genius Lyrics – Pixies “Gigantic”

And this I know: his teeth as white as snow
それだけは知ってる、彼の歯は雪のように白かった

What a gas it was to see him
彼を見るのはなんて刺激的だったんだろう

Walking on the waves chicane
波のようにゆらゆらと歩いてくる彼の姿

Miles above the surface
地上から何マイルも離れたような浮遊感

Gigantic, gigantic, gigantic
巨大で、巨大で、圧倒的な存在

A big, big love
それはとても大きな愛だった

4. 歌詞の考察

「Gigantic」の歌詞は、その反復構造と比喩的な言葉遣いによって、聴き手に強烈な印象を与える。ここで語られている「彼」は、あくまでも語り手の主観を通じた存在であり、彼が実際に何者であるかは明かされない。

「his teeth as white as snow」という描写からは、彼の純粋さや無垢な魅力が感じられるが、同時にそれは“異質”なものへの惹かれでもある。Dealの歌声がどこか夢見がちで浮遊感のある雰囲気を醸し出しているため、この楽曲全体が現実から少し離れた幻想のような世界に聴こえるのだ。

タイトルにも繰り返される「Gigantic」という言葉は、ただの身体的特徴だけでなく、存在の大きさや愛情の深さ、あるいは欲望の強さを象徴しているようにも思える。愛が「大きすぎる」からこそ、そこに狂気や罪、越えてはならない境界が潜んでいるのではないか、そんな読みも成立しうる。

一方で、この曲はリスナーによって非常に多様な受け取り方が可能な楽曲でもある。ある者にとっては性的なファンタジーであり、またある者にとっては人種や階級を越えた愛の寓話としても読める。Dealが提示するのは、あくまでも感覚の断片であり、あとは聴き手自身がそこに物語を見出すことになるのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Cannonball by The Breeders
    Kim Deal自身が中心となって活動したバンドThe Breedersの代表曲。女性ボーカルによるインディー・ロックの原型とも言えるサウンドと、飄々とした浮遊感が魅力。

  • Debaser by Pixies
    よりアグレッシブで実験的なPixiesの側面を体現した名曲。「Gigantic」との対比により、バンドの多面的な魅力が浮かび上がる。

  • Fade Into You by Mazzy Star
    ドリーミーでメランコリックな雰囲気が「Gigantic」に共鳴する名バラード。女性ボーカルの優しい声に包まれる感覚が心地よい。

  • Divine Hammer by The Breeders
    「Gigantic」に続く形で、Kim Dealの作家性をより直接的に感じられる一曲。サーフロック的な要素と、無垢なエネルギーが共存している。

6. この曲が象徴するPixiesの二面性

「Gigantic」は、Pixiesというバンドの中にある“光”の部分を象徴しているとも言える。彼らの多くの楽曲は、歪んだギターや歯を食いしばったようなヴォーカル、暴力的な衝動を伴っているが、この曲だけはまるで、海の底でぼんやりと光る真珠のように、穏やかで柔らかく、どこか憂いを帯びている。

その柔らかさが、Kim Dealという存在によってもたらされたことは疑いようがなく、彼女の脱退以降のPixiesから失われたものとして、今なお多くのファンの間で語り草となっている。現代においても、「Gigantic」はインディー・ロックにおける“フェミニン”と“ローファイ”の融合を体現した象徴的な一曲として聴かれ続けているのだ。

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