1. 歌詞の概要
「Get Over It」は、OK Goのセルフタイトル・デビューアルバム『OK Go』（2002年）からのリードシングルであり、彼らにとって初の本格的ブレイクを果たした楽曲である。
この曲のメッセージは直球でありながらも、毒を含んだユーモアと反抗的な姿勢に満ちている。「Get over it（もういい加減にしろ）」というタイトルからして、他人の愚痴や社会の不条理、被害者意識にしがみつく人々に対して痛烈なカウンターを放つ内容となっており、ある意味でこの時代の空気感を象徴するような若者的アンチ・アンセムでもある。
歌詞は、ちっぽけな不満をぶちまける代わりに“受け流せよ”というメッセージを繰り返しながら、それでも自分自身もまたそのループの中にいることをどこかで自覚しているようにも読める。怒りと笑い、クールさと皮肉が交錯した楽曲なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
OK Goは、1990年代後半にシカゴで結成されたバンドであり、当初から非常に高い演奏技術とグラフィカルな美意識、DIY精神を併せ持つアーティストとして注目されていた。
「Get Over It」は彼らのメジャーデビューを飾った作品で、当時のオルタナティヴ・ロック〜パワーポップの潮流を受けつつも、より攻撃的で切れ味鋭いギターリフと、パンクに近い疾走感を内包している。
2000年代初頭のアメリカ社会は、9.11以後の不安と保守化が進む一方、ポップカルチャーにおいてはMTVや早期のインターネットを通じて、新しい美学と皮肉な感性が求められていた。OK Goはその時代感覚を的確にとらえ、「Get Over It」のような反抗と諧謔のバランスを持つ楽曲で鮮烈にデビューを果たしたのだった。
なお、この曲のミュージックビデオは、OK Goの映像的センスを感じさせる初期の試みとしても興味深く、シンプルなセットの中で次々と奇妙なオブジェクトが現れるシュールな演出は、後の“トレッドミル”時代への布石とも言える。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“Lot of knots, lot of snags, lot of holes, lot of cracks lot of cracks”
「結び目ばかり、引っかかりばかり、穴やひび割れだらけ」“But the only thing that’s left to do is get over it”
「でも結局、できることは一つだけ——乗り越えること」“Hey, get get get get get over it”
「なあ、もう乗り越えちまえよ」“Make up your mind already!”
「もうさっさと決めろっての！」
これらのフレーズからは、感情の爆発と、繰り返しに込められた苛立ち、しかしどこかで自虐的な笑いを滲ませる視点が感じられる。
4. 歌詞の考察
「Get Over It」は、表面上は怒りを爆発させたエネルギッシュなロックナンバーである。しかしその怒りは、単なる反抗ではなく、自己にも社会にも向けられた「やりきれなさ」の表現として機能している。
タイトルにある「Get over it（乗り越えろ）」という言葉は、しばしば無神経な“黙って我慢しろ”という意味で使われるが、ここではそれがどこか虚無的で、皮肉めいた響きを持って繰り返される。
つまりこの曲は、「乗り越えること」を強制する社会の声に対する皮肉とも取れるし、「どうせ文句言っても変わらないなら、笑って流すしかない」という諦観と自衛の姿勢とも受け取れる。
また、サウンド面では90年代のオルタナティヴ・ロックの影響を受けながらも、そこにパンク的な鋭さとポップな明快さを融合させており、OK Goというバンドが初期から“単なるロックバンド”にとどまらない感覚を持っていたことを示している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Song 2 by Blur
短くて爆発的、そしてどこか投げやりな感情が共通するブリットポップ×グランジの名曲。 - Are You Gonna Be My Girl by Jet
2000年代初期のガレージロック・リバイバルを象徴する一曲で、OK Goの攻撃性と近いエネルギーを持つ。 - Hash Pipe by Weezer
シニカルな歌詞とヘヴィなギターリフの組み合わせが、「Get Over It」の精神に通じる。 - Bohemian Like You by The Dandy Warhols
気だるさと皮肉をポップに仕立てたロックナンバーで、OK Goのユーモアと近い世界観。 - Take Me Out by Franz Ferdinand
不安定な感情をダンスビートに乗せるアイロニックな構成が、OK Goの発想力とリンクする。
6. “OK Go”というアティチュードのはじまり
「Get Over It」は、OK Goというバンドの出発点であり、彼らが後に展開する独創的な表現の“骨格”がすでに備わっていたことを示す楽曲である。
初期のOK Goは、ビジュアル的な仕掛けや社会的メッセージよりも、個人的なフラストレーションと、日常への皮肉混じりの笑いを軸にしたスタンスをとっていた。そして「Get Over It」は、その“世間への舌打ち”を、ギターリフとともに吐き出したような存在だ。
この曲の中で叫ばれる「もういい加減にしろ」という言葉は、もしかしたら“怒り”よりも“ユーモア”として響いていたのかもしれない。そしてその曖昧さ、解釈の揺れこそが、OK Goの音楽が持つ強度であり、多義性である。
トレッドミルも、ルーブ・ゴールドバーグ装置も、きっとこの一言から始まったのだ。
“Get over it”——それは、OK Goの全ての始まりである。
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