
発売日:2014年11月21日
ジャンル:Pop / Soul / Motown / Adult Contemporary
概要
From Dublin to Detroitは、アイルランドの男性ヴォーカル・グループBoyzoneが2014年に発表したスタジオ・アルバムである。タイトルが示す通り、「Dublin=ダブリン」から「Detroit=デトロイト」へという文化的な移動をコンセプトに据え、Motownを中心とする1960〜70年代ソウルの名曲をBoyzone流のポップ/アダルト・コンテンポラリーとして再解釈したカバー・アルバムである。
Boyzoneは1990年代にTake Thatと並ぶ英国・アイルランド圏の代表的なボーイ・バンドとして成功した。Ronan Keating、Stephen Gately、Keith Duffy、Mikey Graham、Shane Lynchの5人によるヴォーカル・グループとして、「Love Me for a Reason」「Words」「No Matter What」など、メロディを前面に出したバラードやミッドテンポ曲で大きな支持を得た。
その意味で、彼らがMotown/ソウルのカバー集を制作することには一定の必然性がある。
Boyzoneの出発点はR&Bグループではない。
ダンス・パフォーマンスやポップ・バラードを中心とした1990年代型ボーイ・バンドである。
しかし彼らの音楽の根幹には、
リード・ヴォーカル。
バック・ハーモニー。
複数の男性声。
ロマンティックな歌詞。
コール&レスポンス。
という、古典的ソウル・ヴォーカル・グループと共通する構造がある。
The Four Tops。
Smokey Robinson & The Miracles。
The Isley Brothers。
こうしたグループが1960年代に発展させた男性ヴォーカル・グループの方法は、直接的・間接的に90年代ボーイ・バンドへ受け継がれている。
したがってFrom Dublin to Detroitは、単に「有名な昔の曲を歌った企画盤」ではなく、Boyzoneというグループが自分たちの音楽的祖先へ視線を向けた作品と考えることができる。
さらに本作には、Boyzoneのキャリア上もう一つ重要な背景がある。
Stephen Gatelyは2009年に死去している。
その後、Boyzoneは4人で活動を継続した。
2010年のBrotherは喪失そのものが大きな感情的背景となり、2013年のBZ20では結成20周年を意識した活動が行われた。
その次に制作されたFrom Dublin to Detroitは、悲嘆や再結成そのものを主題にするのではなく、「自分たちが好きな歌を歌う」という、より音楽そのものへ集中した作品である。
サウンド面では、原曲のMotownらしい鋭いリズム、タンバリン、ホーン、ストリングス、ファンク的なベースを完全に再現するわけではない。
Boyzone版は、より滑らかで現代的。
テンポも比較的落ち着き、ヴォーカルを中央に置く。
そのため本作は、原曲の歴史的な熱量を再現する「ヴィンテージ・ソウル・アルバム」というより、Motownの楽曲を2010年代のアダルト・ポップへ移植した作品に近い。
ここには利点と限界の両方がある。
原曲の鋭さや黒人音楽としての歴史性は薄くなる。
一方で、メロディと歌詞の普遍性は非常に分かりやすくなる。
Boyzoneはソウル・シンガーの模倣をするのではなく、自分たちの長所である柔らかな男性ヴォーカルとハーモニーを使う。
それこそが、本作の基本方針である。
全曲レビュー
1. What Becomes of the Brokenhearted
Jimmy Ruffinによる1966年のMotownクラシックを取り上げたオープニング。
タイトルは「心が壊れた者はどうなるのか」。
失恋ソングの中でも特に重い問いである。
単に「悲しい」と歌うのではない。
愛を失った後、人間はどう生きるのか。
そこまで踏み込む。
原曲ではJimmy Ruffinの切迫したヴォーカルとMotownの推進力が共存し、悲しみながらも音楽は前へ進む。
Boyzone版では、その切迫感を少し抑え、より成熟したバラード/ミッドテンポとして解釈する。
この違いは重要だ。
若い恋愛の破局というより、人生経験を重ねた男性が喪失を振り返るような響きになる。
Boyzone自身が長い活動期間の中でStephen Gatelyの死という大きな喪失を経験していることを考えると、「brokenhearted」という言葉には単純な恋愛以上の重さも生まれる。
本作のコンセプトを非常に分かりやすく提示する一曲である。
2. Tracks of My Tears
Smokey Robinson & The Miraclesの代表曲。
タイトルは「涙の跡」。
この曲の核心は「表面と内面の違い」にある。
外では笑っている。
冗談も言う。
元気に見える。
しかし一人になると悲しい。
そして、その悲しみの証拠が「涙の跡」として残る。
これはMotownソングライティングの典型的な強さである。
歌詞は非常に具体的。
しかし誰にでも理解できる。
Boyzone版では、Smokey Robinsonの繊細なファルセット的表現を再現しようとはせず、より落ち着いた男性ヴォーカルへ変換する。
そのため「若者が強がる」というより、感情を隠すことに慣れてしまった大人の悲しみに近づく。
バック・ハーモニーも重要で、Boyzoneのグループとしての強みが最も自然に発揮される曲のひとつである。
3. You Can’t Hurry Love
The Supremesによる1966年の代表曲。
後にはPhil Collinsのカバーでも広く知られる。
タイトルは「愛を急ぐことはできない」。
歌詞では、母親から教えられた言葉として、「愛は待たなければならない」「簡単には手に入らない」という人生訓が描かれる。
Motownらしい特徴は、歌詞が忍耐を語っているのに、音楽は非常に軽快なことだ。
悲しみや焦りを踊れるビートへ変える。
Boyzone版でもこの親しみやすさが重要になる。
彼らのキャリアにはカバー曲が多く、「Words」や「Father and Son」のように、既存曲を柔らかなポップへ再構成することを得意としてきた。
「You Can’t Hurry Love」もその延長で、原曲の疾走感を完全再現するより、メロディの強さとコーラスの楽しさを前に出す。
アルバムの中でテンポを持ち上げる役割も果たす。
4. This Old Heart of Mine
The Isley BrothersがMotown時代に発表した「This Old Heart of Mine (Is Weak for You)」のカバー。
タイトルが示すように、「この古い心は君に弱い」という恋愛の脆さを歌う。
ここでの「old heart」は、Boyzoneが2014年に歌うことで原曲以上に興味深い意味を持つ。
90年代に若いスターだったメンバーたちは、すでに成熟した大人になっている。
その彼らが「この古い心」と歌う。
結果として、原曲の言葉が年齢と自然に一致する。
歌詞は、相手に振り回されていると理解しながら、それでも離れられないというもの。
理性では分かっている。
しかし心は従わない。
ソウル・ミュージックで何度も歌われてきた「感情と理性の対立」を、Boyzoneの柔らかなヴォーカルが穏やかに表現する。
5. Just My Imagination
The Temptationsの1971年の名曲「Just My Imagination (Running Away with Me)」。
本作の選曲の中でも、Boyzoneとの相性が特に良い楽曲である。
主人公は女性との幸福な未来を想像する。
一緒に暮らす。
家庭を築く。
愛し合う。
しかし、それは現実ではない。
すべて自分の想像だ。
この「幸福な物語が実は幻想だった」という構造が非常に切ない。
原曲ではEddie Kendricksの柔らかな声が、夢と現実の境界を曖昧にした。
Boyzone版でも、派手に歌い上げるより抑制したヴォーカルの方が効果的である。
Boyzoneはもともとロマンティック・バラードを得意としている。
だからこそ、この曲の最初の幸福な幻想を自然に聞かせられる。
しかし最後にはその幻想が崩れる。
甘いBoyzoneサウンドそのものが、歌詞の悲しさを強めるという面白い構造になっている。
6. Higher and Higher
Jackie Wilsonの「(Your Love Keeps Lifting Me) Higher and Higher」を取り上げた、アルバム中でも特に開放的な楽曲。
ここまで失恋や幻想の曲が多かった中で、愛によって気持ちが「より高く」上昇するという肯定的なテーマへ移る。
Jackie Wilson版は圧倒的な生命力を持つソウル・ナンバーであり、ヴォーカルにも強い躍動がある。
Boyzone版はそれとは異なり、よりポップで整った表現を選ぶ。
そのためゴスペル/ソウルの爆発力は弱まるが、グループ・コーラスの明るさが強調される。
本作では原曲を完全に模倣しないことが一貫している。
Boyzoneは「自分たちはMotownシンガーだ」と演じるのではない。
あくまでBoyzoneとして歌う。
「Higher and Higher」は、その方針が最も明るい形で現れた一曲である。
7. I’m Doing Fine Now
New York Cityが1973年にヒットさせたソウル・ナンバー。
本作の中では、Motownの最も有名なスタンダード群から少し視野を広げた選曲である。
タイトルは「今は元気にやっている」。
失恋の後に相手へ向けて、「もう大丈夫だ」と伝える。
しかしこの種の言葉には、しばしば二重性がある。
本当に大丈夫なら、わざわざ相手に「元気だ」と伝える必要があるのか。
その裏にはまだ傷が残っているのではないか。
この微妙な強がりが曲の魅力である。
Boyzoneは感情を激しく表現するタイプのグループではないため、この「本当かどうか分からない平静」と相性がよい。
表面は滑らか。
しかし歌詞には未練がある。
アルバム前半の失恋テーマを、少し異なる角度から引き継いでいる。
8. Reach Out (I’ll Be There)
The Four Topsの1966年の代表曲「Reach Out I’ll Be There」。
Motown史上でも最も劇的な楽曲のひとつである。
タイトルは「手を伸ばして。僕はそこにいる」。
相手が苦しんでいるとき、孤独なとき、自分が支えるという内容。
原曲ではLevi Stubbsの圧倒的なリード・ヴォーカルが最大の特徴で、ほとんど叫びに近い強烈な歌唱が曲を支配する。
Boyzoneが同じことをしても意味はない。
そのため本作では、より温かい支援の歌として解釈される。
「救いに行く」という英雄的な力より、「そばにいる」という安心感を重視する。
これはBoyzoneのグループ・イメージにも合っている。
メンバーが互いを支えながら長期間活動してきたバンドだからこそ、「I’ll Be There」という言葉に共同体的な意味も加わる。
9. The Tears of a Clown
Smokey Robinson & The Miraclesの代表曲。
タイトルは「道化師の涙」。
「Tracks of My Tears」と同じく、外面と内面の対立を扱う。
人前では笑わせる。
明るく振る舞う。
しかし心の中では泣いている。
道化師という人物は、その二面性を象徴する。
このテーマはポップ・スターにも非常に適している。
ステージでは笑顔。
観客を楽しませる。
しかし私生活では別の感情を抱えているかもしれない。
Boyzoneのように長年「親しみやすいポップ・グループ」として見られてきた存在が歌うことで、このテーマには独特の現実味が生まれる。
音楽は原曲の躍動感を残しながら、より整った現代的ポップへ。
明るいメロディと悲しい歌詞というMotownの典型的な対比を、Boyzoneらしい方法で再構成している。
10. Wherever I Lay My Hat
Marvin Gayeが歌った曲を起源とし、1983年にはPaul Youngのカバーでも大きな成功を収めた「Wherever I Lay My Hat (That’s My Home)」。
タイトルは「帽子を置いた場所が自分の家」。
一見すると自由な旅人の宣言だ。
しかし歌詞の主人公は、恋愛関係に定着できない人物でもある。
一人の相手を深く愛するより、次の場所へ進む。
そこには自由と無責任さが同時にある。
Boyzoneが歌うことで、若い放浪者の歌というより、長い旅を続けてきたミュージシャンの人生にも重なる。
ツアー。
ホテル。
空港。
異なる国。
「どこでも家にする」という言葉は、長年活動するポップ・グループにとって現実的な意味を持つ。
Paul Young版の80年代的なドラマティックさより抑制し、Boyzoneのアダルト・ポップとしてまとめた一曲である。
11. What Christmas Means to Me
Stevie Wonderで広く知られるMotownのクリスマス・スタンダード。
アルバム最後にこの曲を置くことで、それまでの失恋や孤独から空気が大きく変わる。
タイトルは「クリスマスが僕にとって何を意味するか」。
内容は非常に明るく、恋人、季節、幸福、祝祭を歌う。
Boyzoneはキャリアを通じて家族向け・全年齢向けのポップとしても強い支持を受けてきた。
そのためクリスマス・ソングとの相性は良い。
ヴォーカル・ハーモニーも明るく、アルバムを祝祭的に終える。
ただし、この曲は本作の「Detroit=Motown」というテーマにもきちんと接続している。
単なる季節向けボーナスではなく、Motownがラブソングだけでなくクリスマス音楽にも大きなレパートリーを持っていたことを示す選曲でもある。
総評
From Dublin to Detroitは、Boyzoneが自分たちの出発点を直接再現するのではなく、そのさらに奥にある「男性ヴォーカル・グループの歴史」へ戻ったアルバムである。
タイトルが非常によくできている。
Dublin。
Boyzoneの出身地。
Detroit。
Motownの都市。
つまりこれは、地理的な旅行ではない。
音楽史を逆方向へ移動する旅である。
BoyzoneからMotownへ。
1990年代から1960年代へ。
ボーイ・バンドからソウル・ヴォーカル・グループへ。
この移動によって、現代的な男性ポップ・グループがどこから来たのかが見える。
1990年代のボーイ・バンドは、しばしば純粋なポップ産業の産物として語られる。
確かにBoyzoneもオーディションとマネジメントによって結成されたグループであり、商業ポップの構造の中から登場した。
しかし「複数の男性が歌い、リードを交代し、バックでハーモニーをつける」という形式そのものには長い歴史がある。
ドゥーワップ。
ゴスペル。
ソウル。
Motown。
The Temptations。
The Four Tops。
そこからNew Edition。
Boyz II Men。
そして90年代のボーイ・バンド文化へ。
From Dublin to Detroitは、その歴史を直接的に示す。
ただし本作は「ソウルへの完全回帰」ではない。
ここが重要だ。
Boyzoneは黒人音楽の歌唱法を無理に模倣しない。
Ronan Keatingをはじめとするメンバーの声は、基本的にアイルランド/英国ポップの文脈にある。
過剰なメリスマ。
強烈なゴスペル・シャウト。
ブルージーな即興。
そうした技法で原曲と競争しようとはしない。
代わりに、
整ったメロディ。
柔らかな声。
グループ・ハーモニー。
アダルト・コンテンポラリー的な制作。
を使う。
この選択は賢明である。
例えば「Reach Out I’ll Be There」でLevi Stubbsの強烈な歌唱を再現しようとすれば、原曲との比較で不利になる。
Boyzone版は方向を変える。
激しさではなく安心感。
叫びではなく温かさ。
これによって独自の意味を作る。
同じことが「Tracks of My Tears」にも言える。
Smokey Robinsonの繊細なファルセットをコピーしない。
より成熟した男性の声で歌う。
結果として、失恋の痛みが若い傷から人生経験の記憶へ変化する。
この「年齢」が本作では重要である。
2014年のBoyzoneは、デビュー当時の若いボーイ・バンドではない。
メンバーはすでに中年期へ入り、結婚、家族、キャリアの変化、そして仲間の死を経験している。
その彼らが、
「What Becomes of the Brokenhearted」。
「This Old Heart of Mine」。
「Just My Imagination」。
「The Tears of a Clown」。
を歌う。
歌詞の意味が自然に変化する。
たとえば「This Old Heart of Mine」の「old」という言葉。
若いThe Isley Brothersが歌ったときには比喩だった。
成熟したBoyzoneが歌うと、そこに実際の時間の重みが加わる。
この点こそ、本作を単なるカラオケ的カバー集から一段上のものにしている。
また、Stephen Gately不在後のBoyzoneという背景も無視できない。
本作は彼への追悼アルバムではない。
しかし、喪失を経験したグループが「Brokenhearted」「Tears」「Imagination」「I’ll Be There」といった言葉を歌うことで、楽曲には原曲とは異なる影が生まれる。
Boyzoneはそれを過剰に演出しない。
だからこそ、言葉の意味が自然に残る。
一方で、音楽的な限界も明確である。
Motownの魅力は、楽曲だけではない。
James Jamersonをはじめとするベース。
Benny Benjaminらのドラム。
タンバリン。
ピアノ。
ギター。
ホーン。
ストリングス。
そして狭いスタジオから生まれる独特の圧力。
これらが一体となって「Motown Sound」を作っていた。
From Dublin to Detroitは、その歴史的な音響そのものを再現するアルバムではない。
サウンドはより滑らか。
ダイナミクスも抑制されている。
そのため原曲にあったリズムの鋭さ、ゴスペル的な熱、ファンクの緊張は弱くなる。
特に「Higher and Higher」や「Reach Out」では、原曲の圧倒的なエネルギーとの差が大きい。
しかし、それを単純な欠点だけと見る必要もない。
本作の目的はMotown博物館ではない。
Boyzoneのアルバムである。
彼らは自分たちのリスナーが聞き慣れた、
柔らかいポップ。
ロマンティックな男性声。
整ったハーモニー。
という文脈へ名曲を移植する。
その意味では一貫性がある。
選曲も興味深い。
「You Can’t Hurry Love」「Reach Out」「Tracks of My Tears」のような誰もが知る巨大スタンダードだけでなく、「I’m Doing Fine Now」のような楽曲も取り上げることで、単純なMotownベスト・ヒット集にはしていない。
さらに「Wherever I Lay My Hat」のように、Motownから後の英国ポップ史へ流れ込んだ曲を選ぶことで、デトロイトと英国・アイルランドの関係も見えてくる。
これは本作のタイトルにふさわしい。
Detroitの音楽はDetroitだけに留まらなかった。
英国へ渡った。
Northern Soul文化に影響した。
白人ポップ・シンガーによってカバーされた。
そこからさらに次の世代のポップへ入った。
Boyzoneは、その長い循環の末端にいる。
したがって、「From Dublin to Detroit」は実際には一方通行ではない。
Detroitから英国・アイルランドへ音楽が渡り、数十年後にDublin側からDetroitへ敬意を返す。
その往復運動がアルバムの本当の意味である。
歌詞面では、Motownソングライティングの普遍性が改めてよく分かる。
これらの曲の多くは50年以上前に書かれた。
しかし扱っている内容は、
待つこと。
失恋。
強がり。
想像上の恋愛。
誰かを支えること。
愛によって救われること。
という極めて基本的な人間感情である。
流行語に依存しない。
特定の時代の生活様式に依存しすぎない。
だから2014年にBoyzoneが歌っても成立する。
これはカバー・アルバムであると同時に、「優れたポップ・ソングは歌い手と時代が変わっても残る」ということを示す作品でもある。
キャリア上では、From Dublin to DetroitはBoyzoneの革新的な代表作とは位置づけにくい。
新しいポップの方向を開拓したアルバムではない。
むしろ振り返る作品である。
しかし、その「振り返り方」に意味がある。
自分たちのヒット曲を再録するのではない。
自分たちより前の世代を歌う。
このことでBoyzoneは、90年代ノスタルジーだけに閉じず、さらに大きなポップ・ミュージック史の中へ自分たちを置いた。
From Dublin to Detroitは、Boyzoneのポップ・ハーモニーとMotown/ソウルの古典的ソングライティングが交差した作品であり、「ボーイ・バンド」という形式と「男性ソウル・ヴォーカル・グループ」という伝統の距離が、実際にはそれほど遠くないことを確認させるアルバムである。
おすすめアルバム
1. Boyzone – Brother(2010)
Stephen Gatelyの死後、4人となったBoyzoneが発表した重要作。喪失と継続が作品の大きな背景となり、「Gave It All Away」などでは成熟した男性ヴォーカル・グループとしての姿が明確になっている。From Dublin to Detroitに至る後期Boyzoneを理解するうえで重要な一枚。
2. The Temptations – The Temptations Sing Smokey(1965)
「My Girl」をはじめSmokey Robinson作品を中心に構成されたMotown黄金期の代表作。複数の男性声、リード交代、コール&レスポンスという形式が、後の男性ポップ・グループへどのようにつながったかを理解するうえで基本となる作品である。
3. Smokey Robinson & The Miracles – Going to a Go-Go(1965)
「The Tracks of My Tears」を収録するMotownの名盤。Smokey Robinsonの繊細な歌唱と、表面上の明るさの裏に悲しみを置く高度なソングライティングが特徴で、From Dublin to Detroitの選曲が持つ感情的な源流を確認できる。
4. The Four Tops – Reach Out(1967)
「Reach Out I’ll Be There」を中心に、Levi Stubbsの圧倒的なリードと重厚なMotownプロダクションを味わえる作品。Boyzone版との比較によって、同じ楽曲が1960年代ソウルの切迫感から2010年代アダルト・ポップの温かさへどう変化するかが明確になる。
5. Boyz II Men – Motown: A Journey Through Hitsville USA(2007)
BoyzoneよりR&Bに直接的なルーツを持つBoyz II MenがMotownクラシックへ取り組んだカバー・アルバム。同じ「後世の男性ヴォーカル・グループによるMotown再解釈」という構想を持ちながら、よりゴスペル/R&B的なハーモニーを重視しており、From Dublin to Detroitのポップ寄りの解釈との違いを比較できる作品である。

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