
発売日: 2008年4月22日
ジャンル: オルタナティブロック、アメリカーナ、フォークロック
概要
『For My Friends』は、Blind Melonが2008年にリリースした3枚目のスタジオ・アルバムであり、シャノン・フーンの死から13年を経て制作された“再出発のアルバム”であると同時に、“喪失のその先”を見つめる魂の記録”である。
シャノンの死後、Blind Melonは一時的な活動停止を経て、2006年に新ヴォーカリスト、Travis Warrenを迎えて再始動。オリジナルメンバーであるRogers Stevens(ギター)、Brad Smith(ベース)、Christopher Thorn(ギター)、Glen Graham(ドラム)とともに本作を制作した。
「For My Friends」というタイトルは、その名の通りバンドメンバー、亡きシャノン、そして支えてきたファンすべてに捧げられたメッセージであり、Blind Melonという“家族的バンド”の結びつきの強さを象徴している。
サウンドは、かつてのBlind Melonのフォークロック/サイケ/アメリカーナ的要素を基盤にしつつも、現代的な骨太さと構造美を備え、決して懐古主義に終わらない誠実な再出発となっている。
全曲レビュー
1. Wishing Well
再始動を告げる力強いオープニング。
Travis Warrenのヴォーカルが、シャノンとは異なる声色ながらも同様の繊細さと野性を併せ持ち、自然にバンドと融合していることがわかる。
2. I Wonder
過去の同名曲とは別物。
“今なお心に残る問い”を抱えたまま前に進もうとする姿勢がにじむ、バンドの決意表明のようなミッドテンポのロックナンバー。
3. Make a Difference
痛みや後悔を糧に、何かを変えようとする想いが込められた熱量高めの楽曲。
グルーヴィーなリズムと鋭いギターリフが印象的。
4. For My Friends
アルバムタイトル曲にして、もっとも静かで内省的な一曲。
亡きシャノンへの呼びかけとも、今そばにいる者たちへの感謝とも取れる多層的なリリックが心を打つ。
アコースティック主体のアレンジも秀逸。
5. With the Right Set of Eyes
視点を変えることで世界は変わる——という、バンド自身の“再生哲学”が詰まった一曲。
フォークとブルースの中間をゆったりと進む、盲目的にならない希望の歌。
6. Tumbling Down
タイトル通り、崩壊と再構築のテーマを含んだナンバー。
Travisのヴォーカルが、混沌の中でも強く響く。
7. Sometimes
過去のシャノン時代の雰囲気を最も色濃く受け継ぐサイケ・フォーク調の楽曲。
浮遊感あるギターと多重コーラスが特徴。
8. Down on the Pharmacy
中毒と解毒、薬と毒が交錯する比喩的楽曲。
疾走感のあるリズムと乾いたギターが、病的な衝動をロックのエネルギーに変換する。
9. Hypnotize
リズミカルでトリッキーな構成が楽しい異色ナンバー。
Blind Melonの“変化を楽しむ精神”がここに表れている。
10. Father Time
人生の時間軸と向き合う、メロディアスで叙情的なロック。
父性、老い、継承といったテーマがにじむ。
11. So High
浮遊感とスピリチュアリティが混ざったサイケデリック・ポップ。
アルバム中もっともトリップ感の強い楽曲で、後期Beatlesにも通じる構築美を持つ。
12. Last Laugh
タイトルに反して、どこかほほ笑みを含んだ肯定的な終曲。
“最後に笑うのは誰か?”という問いに対して、“過去を生き抜いた私たち”と答えているような、静かで強いメッセージが込められている。
総評
『For My Friends』は、Blind Melonというバンドが“喪失を抱えたまま、それでも音楽を続ける”ことを選んだアルバムであり、再生と許し、そして前進の物語である。
Travis Warrenの加入によってバンドは生まれ変わったが、それは決して過去の否定ではない。
むしろこのアルバムには、シャノン・フーンという存在の影と光が全編に漂っており、その上に新しい声が折り重なることで、時間を超えたBlind Melonの“今”が立ち上がってくる。
音楽的にはアメリカーナ、サザンロック、フォーク、オルタナティブロックが自然に融合しており、派手ではないが誠実で、年を重ねたバンドにしか出せない深みと滋味が感じられる。
おすすめアルバム
- The Jayhawks / Rainy Day Music
同様のアメリカーナ・フォークロック路線で、成熟した叙情性が共通。 - Counting Crows / Hard Candy
過去と向き合いながら前を向く、ベテランバンドの再起作。 - Band of Horses / Cease to Begin
哀愁と広がりのあるギターサウンドが近い。 - Gov’t Mule / High & Mighty
南部由来のブルージーで重厚なロック。 - The Wallflowers / Rebel, Sweetheart
内省的でメロディアスな中期ロック作品としての親和性。
歌詞の深読みと文化的背景
『For My Friends』のリリックには、亡き仲間への敬意、バンドとしての再出発、傷を抱えたままでも前へ進む意志が繰り返し現れる。
「For My Friends」「Father Time」「Last Laugh」などには、時間や死、記憶、許しという普遍的なテーマが、音楽という手段でやわらかく語られている。
90年代の終焉から2000年代の混迷期を経て、Blind Melonはこの作品で“続けること”の意味を問い直す。
そしてそれは、ファンにとってもまた“忘れていた音楽の灯”を思い出させてくれるアルバムなのだ。
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