発売日: 2000年
ジャンル: ダブ、レゲエ、ポリティカル・ロック、スカ、エレクトロ・ルーツ
概要
『FM 99.00 Dub Manifest』は、バスク出身の革命的ミュージシャンFermin Muguruza(フェルミン・ムグルサ)が2000年に発表した3枚目のソロ・アルバムであり、“音楽を通じて世界中の運動をつなぐ”という彼の姿勢が、ダブという形で最も強く結晶化した作品である。
タイトルの「FM 99.00」は、かつて彼が活動していた自由ラジオ局の周波数を指し、“言論と文化の自由”の象徴である。
また、「Dub Manifest(ダブ・マニフェスト)」という副題は、このアルバムが単なる音楽ではなく、抑圧と戦う者たちに向けた“宣言文”であるという意味を持つ。
ジャマイカのレゲエ/ダブと、ラテン、アフリカン・ディアスポラ、地中海、アジアの音楽が交差し、歌詞にはスペイン語、英語、フランス語、アラビア語、バスク語が登場。
まさに“多言語的グローバル・サウンドシステム”によって構成された、音のノンボーダー・プロテストなのである。
全曲レビュー
1. FM 99.00 Dub Manifest
タイトル曲にしてアルバムの核心。
スピーチ・サンプルとリバーブの深いベースが印象的なダブ・アンセムで、「我々は黙らない」と高らかに宣言する。
2. Big Benat
バスク民話のヒーロー“Benat”を現代に蘇らせたスカ・レゲエ。
伝統と抵抗の精神がファンキーなリズムで躍動する。
ホーンアレンジが特に鮮烈。
3. Next Music Station
“次なる音楽の駅”を目指す旅のメタファー。
電車の効果音とベースラインが交錯するユニークな構成で、文化移動とアイデンティティをテーマに据えている。
4. Kalebarria
バスクの監獄に収監された政治犯たちへのオマージュ。
ダブの深淵な響きの中に、祈りと怒りが同居する。
5. Sarrera (Entrada)
短いインタールード。録音されたフィールドノイズとスピーチがコラージュされ、まるでドキュメンタリー映画の冒頭のような臨場感を与える。
6. Newroz
クルド人の春祭“Newroz”を祝う曲の別バージョン。
中東音階とバスク・リズムのミクスチャーが鮮やかに展開し、民族間連帯を表現する。
7. I Shot the Sheriff (Live Dub)
ボブ・マーリーの名曲をダブ解釈で再構築したライブ録音。
バスク語とスペイン語のリリックを交えながら、反権力の文脈を強化している。
8. Dub Manifesto
インストゥルメンタル寄りのバージョンで、ムグルサの“言葉なきメッセージ”が詩的な空気として広がる。
空間と残響を重視したプロダクションが、深い没入感を与える。
9. Urrun Dub
1999年作『Brigadistak Sound System』収録の「Urrun」のリミックス版。
距離と記憶を音でたどる、エモーショナルな終章。
総評
『FM 99.00 Dub Manifest』は、Fermin Muguruzaが提示する“音楽による対抗文化”の方法論を、より濃密かつ精緻に押し広げたアルバムである。
政治的でありながら、どこか詩的。暴力的でありながら、どこか温かい。
この二面性こそがムグルサの音楽の魅力であり、それは本作で最も深く掘り下げられている。
各国の革命運動、文化抑圧、言論の封殺に対する応答として、彼は“サウンドシステム”を選んだ。
その選択は、ダンスホールの中でこそ真実が語られるという、ジャマイカ以来の思想を現代に接続し直したものだ。
このアルバムは、踊るための音楽であると同時に、考え、闘い、連帯するための音楽でもある。
おすすめアルバム(5枚)
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Zion Train / Love Revolutionaries
ポリティカル・ダブとラスタ意識が交錯する、UKルーツ・シーンの名盤。 -
Mad Professor / Dub You Crazy
ダブ・エフェクトの神髄を味わえるクラシック。FM 99.00にも通じる空間感覚。 -
Mala / Mirrors
グローバル・ベース・ミュージックと民族音階の融合。音による精神世界探求が共鳴。 -
Manu Chao / Radio Bemba Sound System
ライブ形式で描かれるグローバル・プロテスト。街頭の息吹と政治性が共通。 -
Tiken Jah Fakoly / Françafrique
反帝国主義の視点で鳴らされるアフリカン・レゲエ。ムグルサのメッセージとも呼応。
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