
1. 歌詞の概要
「Brigadistak Sound System(ブリガディスタック・サウンド・システム)」は、バスク地方出身のミュージシャン Fermin Muguruza(フェルミン・ムグルサ) による1999年のソロアルバムおよびタイトル曲であり、**革命と連帯、反ファシズム、そして国境を超えた闘争の精神を音楽で体現する“グローバル・レジスタンスの賛歌”**である。
タイトルに含まれる「Brigadistak」は、“インターナショナル・ブリゲード(国際旅団)”を意味し、1936年から1939年のスペイン内戦において世界各国からファシズムと戦うために集った志願兵たちを指す。
つまりこの曲は、単なるパンクやレゲエの融合ではなく、“戦う者たちの記憶と誇り”を再解釈し、現代に伝えるためのポリティカルなアートワークでもあるのだ。
歌詞には、反体制、アンチファシズム、反グローバリゼーションの思想が色濃く込められ、同時にバスク語、スペイン語、英語、アラビア語、フランス語など多言語が混ざることで、国境の無意味さと音楽の越境性を体現している。
2. 歌詞のバックグラウンド
Fermin Muguruzaは、1980年代に結成されたバスクの伝説的なバンド Kortatu のリーダーとして名を上げ、その後は Negu Gorriak を経てソロ活動へと移行。
彼の音楽活動は常に、バスク民族主義、左翼思想、人種や文化を超えた連帯への希求を原動力としており、「Brigadistak Sound System」はその思想と実践の集大成といえる作品である。
この曲が収録された同名アルバムでは、ジャマイカ、キューバ、アメリカ、ブラジル、レバノン、イタリア、ベネズエラ、メキシコなど世界中のアーティストとコラボレーションが行われており、Fermin自身も旅をしながら各地でレコーディングを敢行。
まさにこの楽曲は、“音楽を通じたインターナショナリズムのサウンド・システム”と呼ぶにふさわしいプロジェクトの中心曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳(意訳)
“Brigadistak Sound System, from the Basque Country to the world”
「ブリガディスタック・サウンド・システム、それはバスクから世界へ」“No border, no nation, no deportation”
「国境も、国家も、強制送還もいらない」“El alma de los que luchan no muere jamás”
「闘う者の魂は決して死なない」“Esta es la música de la resistencia”
「これはレジスタンスの音楽だ」
これらのリリックは、政治的信念と歴史的記憶が結びついた強烈なメッセージ性を持ち、現在の状況にも通じる普遍的な力を帯びている。
“音楽こそが武器である”というFerminの思想が、これ以上ない形で示されている。
4. 歌詞の考察
「Brigadistak Sound System」は、単なる反抗の歌ではない。
それはむしろ、**世界中の被抑圧者たちを結びつけるための音楽的“呼びかけ”**であり、自らのルーツ(バスク)と世界との連帯(インターナショナル)を一体化する思想的構築物である。
「Brigadistak」という歴史的メタファーの選択は極めて意図的で、スペイン内戦の国際旅団=正義のために命を懸けた無名のヒーローたちへの讃歌と読むことができる。
そしてMuguruzaはそれを20世紀の記憶として語るのではなく、“いま、ここ”の現代社会の戦いに重ねている。
移民、難民、強制送還、国家権力、資本主義の暴力——それらに対して、楽器と声で“壁を超える”音楽の可能性を突きつけるこの楽曲は、まさに“サウンド・システム”という名の通り、情報と感情と歴史をスピーカーから撃ち出す革命的な装置となっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Get Up, Stand Up” by Bob Marley & The Wailers
レゲエを通してレジスタンスを訴える不朽の名曲。思想性とグルーヴが共通。 - “Clandestino” by Manu Chao
国境を越える移民たちの存在を歌い上げた、現代ノマドの讃歌。 - “Killing in the Name” by Rage Against the Machine
体制への怒りをぶつけるロックとラップの結合。政治的爆発力が共鳴。 - “Paper Planes” by M.I.A.
移民と暴力の境界線をポップに問い直す現代的アジテーション。 - “Sound of da Police” by KRS-One
警察国家への抗議と黒人文化の誇りを同時に響かせたヒップホップのクラシック。
6. 音楽が国境を壊す——グローバル・レジスタンスの響き
「Brigadistak Sound System」は、民族、言語、ジャンル、国境という枠をすべて打ち壊す、音楽による革命の宣言である。
フェルミン・ムグルサは、声を荒げるでもなく、拳を振り上げるでもなく、ベースラインとビート、そして言語の多重性によって、反体制と連帯の物語を紡ぎ出した。
それは怒りの歌でありながら、どこか祝祭的で、
苦しみを知っているからこそ、笑いも踊りも手放さない。
そしてそこにこそ、“真の抵抗”があるという信念が込められている。
「Brigadistak Sound System」は、今この瞬間も鳴り響く。
バスクからベイルート、ジャマイカからマドリードへ。
そして世界中の耳に向かって、こう語りかけている——
**「君は、どこにいてもひとりじゃない」**と。
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