
発売日: 2007年4月18日
ジャンル: インディー・ロック、ガレージ・ロック、ポストパンク・リバイバル
疾走感と成熟の共存——Arctic Monkeysの進化を刻んだセカンド・アルバム
デビューアルバムWhatever People Say I Am, That’s What I’m Not(2006年)でUKロックシーンを席巻したArctic Monkeysが、わずか1年後にリリースした2ndアルバムFavourite Worst Nightmare。本作は、デビュー作の勢いをそのままに、よりタイトで攻撃的なサウンドと洗練されたアレンジを展開し、バンドの進化を決定づけた。
デビュー作と同様にUKチャート1位を獲得し、2007年のMercury Prizeにもノミネートされた本作は、シンプルなガレージ・ロックの枠を超え、ポストパンク的な鋭さとダークなムードを取り入れた楽曲が目立つ。特に、マット・ヘルダースのドラムの躍動感と、アレックス・ターナーのストーリーテリングがより研ぎ澄まされている点が、本作の大きな特徴だ。
全曲レビュー
1. Brianstorm
強烈なドラムフィルと、鋭いギターリフで幕を開けるオープニング・トラック。バンドのエネルギーが凝縮された楽曲で、タイトルは「謎の男Brian」にインスパイアされたもの。ライブでも定番の、圧倒的な疾走感を持つナンバー。
2. Teddy Picker
シンプルなリフと跳ねるようなベースが特徴的な楽曲。歌詞は、急速に成功を収めたバンドへの皮肉を込めた内容で、ターナーのウィットに富んだ語り口が光る。
3. D is for Dangerous
ドラムのグルーヴが際立つミニマルなトラック。ヴォーカルはほぼ囁くようなデリバリーで、緊張感のあるサウンドが楽曲のダークな雰囲気を際立たせる。
4. Balaclava
ポストパンク的なアプローチが感じられるナンバー。タイトなリズムと鋭いギターリフが絡み合い、歌詞では犯罪に巻き込まれる若者のストーリーが描かれる。
5. Fluorescent Adolescent
アルバムの中でも特にキャッチーな楽曲。懐かしさと退屈をテーマに、若者の成長と変化をユーモラスに描いた歌詞が印象的。軽快なメロディとリズミカルなギターが、リスナーを引き込む名曲。
6. Only Ones Who Know
アルバムの中で異色のスローバラード。静かで美しいギターのアルペジオと、幻想的なメロディが際立つ。ターナーの歌詞は、ロマンティックでありながらも哀愁を帯びた内容になっている。
7. Do Me a Favour
ゆったりとしたイントロから徐々に盛り上がる、ダイナミックな楽曲。別れの瞬間を描いた歌詞が、シリアスなトーンで展開される。終盤に向けてギターとドラムが爆発する展開が圧巻。
8. This House Is a Circus
混沌としたエネルギーを持つトラック。鋭いギターとハイテンポなドラムが駆け抜け、都会の狂騒を描いた歌詞が楽曲の緊張感を強調している。
9. If You Were There, Beware
ダークで重厚なベースラインが印象的。ミステリアスなムードを持ち、バンドの新たなアプローチが感じられる楽曲。終盤に向けてノイズギターが炸裂し、サウンドの奥行きを見せる。
10. The Bad Thing
リズミカルなギターとアップテンポな展開が特徴的。歌詞は、浮気や後悔をテーマにしており、ターナー特有のシニカルな語り口が冴え渡る。
11. Old Yellow Bricks
ダンサブルなビートとシンプルなギターフレーズがクセになる一曲。『オズの魔法使い』の「黄色いレンガの道」にちなんだタイトルで、退屈な日常からの脱却をテーマにした内容。
12. 505
アルバムの締めくくりにふさわしい、メロディアスでエモーショナルな楽曲。オルガンのループが印象的で、ターナーの叙情的な歌詞が際立つ。Arctic Monkeysの中でも特にファン人気の高い一曲であり、ライブではハイライトとして演奏されることが多い。
総評
Favourite Worst Nightmareは、デビュー作の荒削りなエネルギーを維持しつつ、より洗練された楽曲構成と実験的なアレンジを取り入れた作品だ。ドラムのダイナミズムが際立ち、ギターリフはより鋭く、楽曲の展開はよりドラマティックになっている。
歌詞の面では、デビュー作のストリート感を残しながらも、より詩的で成熟した内容へと進化。ナイトライフの混沌だけでなく、恋愛や別れ、自己認識の揺らぎといったテーマが加わり、アルバム全体がより深みのあるものになっている。
本作は、2000年代のインディー・ロックの中でも最も完成度の高い作品の一つであり、Arctic Monkeysが単なる一発屋ではなく、真の実力を持つバンドであることを証明した。
おすすめアルバム
- The Strokes – Room on Fire (2003)
シンプルなリフと鋭いビートが際立つ、ガレージ・ロックの傑作。 - The Libertines – The Libertines (2004)
混沌としたエネルギーと詩的な歌詞が光る、UKロックの名盤。 - Kasabian – Empire (2006)
ダンサブルなロックとダークなムードが特徴の作品。 - Bloc Party – A Weekend in the City (2007)
ポストパンクの鋭さとエモーショナルな歌詞が融合したアルバム。 - Foals – Antidotes (2008)
複雑なリズムと緊張感のあるギターが魅力的な作品。
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