1. 歌詞の概要
「Fat Bottomed Girls」は、Queenが1978年にリリースしたアルバム『Jazz』に収録された楽曲であり、同年シングルとしてもリリースされた。
そのタイトルのとおり、この曲は「豊満なヒップを持つ女性たち」への賛歌である。
だが、これは単なる下世話なジョークやセクシャルな挑発にとどまらない。
むしろ、ロックが長らく理想としてきた“痩せた女性像”や“スタイルの良さ”への偏った視線を皮肉り、「身体の多様性を讃える」というメッセージを痛快に打ち出している点に、その本質的な面白さがある。
「You made a bad boy out of me(君が俺をワルに変えた)」というラインに象徴されるように、これは単に身体的魅力を語るだけの歌ではなく、“自分の価値観が変えられてしまうような衝撃的な出会い”の物語なのだ。
そして、歌詞のトーンは終始陽気で力強く、Queenらしいユーモアと挑発精神が溢れている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Fat Bottomed Girls」は、Queenのギタリスト、ブライアン・メイによって書かれた。
メイ自身が「本当に肉付きのいい女性が好きだ」とインタビューで語ったこともあり、彼の趣向がそのまま歌詞に投影されたともいえる。
また、この曲は同時期に発表された「Bicycle Race」とペアとして扱われることが多い。
実際、両曲はシングルで両A面として発売され、ミュージックビデオやアートワークでも相互にリンクしていた(「Bicycle Race」のビデオでは自転車に乗った裸の女性たちが登場し、その背景には「Fat Bottomed Girls」のユーモアが漂っていた)。
ただし、この2曲には明確なコントラストがある。
「Bicycle Race」が知的で風刺的な歌詞で“自由”や“反逆”をテーマにしているのに対し、「Fat Bottomed Girls」はより肉体的で本能的な歓喜を謳歌している。
そしてこの“肉体性への肯定”こそが、当時のロック界では意外にも珍しかった視点であり、Queenが“誰のための音楽”かという問いに、より大衆的で包括的な回答を示した一例となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
出典:genius.com
Are you gonna take me home tonight?
今夜、俺を連れて帰ってくれるかい?Oh, down beside that red firelight
赤く揺れる暖炉のそばでさAre you gonna let it all hang out?
その魅力、ぜんぶ見せてくれるのかい?Fat bottomed girls, you make the rockin’ world go ‘round
豊満な女の子たち、君らがいるからロックの世界は回ってるんだ
このサビは極めてキャッチーで、コンサートでも大合唱が起きる定番の一節。
「ロック界を動かしているのは、痩せたモデルじゃない。豊満で自信に満ちた女の子たちだ」という逆説的なメッセージが含まれている。
4. 歌詞の考察
「Fat Bottomed Girls」は、その陽気さや語感の面白さの裏に、実は非常に興味深い視点を持った楽曲である。
まず注目すべきは、曲中で語られる「女の子たち」は、ただ性的対象として消費される存在ではなく、語り手の人生に大きな影響を与えた“主体的な人物”として描かれていること。
歌詞の中で主人公は、「子供のころは甘やかされていたが、大人の女性たちによって現実を知り、いまの自分になった」と語っている。
これは一種の“通過儀礼”であり、性愛を通じて自己を発見するという、古典的ながらも誠実なモチーフが読み取れる。
また、曲全体が「美の基準」への挑戦としても機能している。
スリムで洗練された女性像が主流だった1970年代後半の商業音楽界において、「太めの女性が最高だ!」と大声で叫ぶこの曲は、いわば“逆転の美学”を体現しているのだ。
しかもそれを、軽妙なユーモアと、誰でも参加できるような陽気なロックンロールに落とし込んでいるあたり、Queenのスマートな知性と大衆感覚の融合が際立っている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Big Bottom by Spinal Tap
「Fat Bottomed Girls」にインスパイアされたパロディソング。豊満な女性を称えるロックの風刺的応答。 - Whole Lotta Rosie by AC/DC
“体格の大きな女性”をテーマにしたロッククラシック。荒々しさと熱量が共通する。 - Shake Your Rump by Beastie Boys
ヒップ・ホップからの視点で“後ろ姿の美学”を描いたユーモラスなトラック。 - Hot Legs by Rod Stewart
肉体的な魅力をストレートに称える曲で、70年代的な“性とロック”の快楽主義が共通。 - You Can Leave Your Hat On by Randy Newman(またはJoe Cockerのバージョン)
セクシュアリティとユーモアが融合したバラード。性に対する肯定的なまなざしが「Fat Bottomed Girls」と近い。
6. 音楽で笑って踊れ ― ユーモアと解放のロックンロール
「Fat Bottomed Girls」は、単なる“おバカな曲”でも、“男性目線の賛歌”でも終わらない。
それは、型にはまらない身体、基準から外れた美しさ、そして人間の“肉体性”をユーモアで肯定する、ロックンロールならではの自由の表現なのだ。
女神のような理想の存在ではなく、実在する“女の子たち”――笑って、食べて、踊って、恋するすべての女性たちに向けられた、ちょっと照れくさくて、でも本気のラブソング。
Queenはこの曲で、「美の多様性」をテーマにしながら、それを知的なアジテーションではなく、踊れるロックとして届けてみせた。
その姿勢こそが、Queenというバンドの面白さであり、奥深さである。
だからこそ、「Fat Bottomed Girls」は、時代が進んでもなお――そして今だからこそ――もう一度聴き直される価値のある、見事な“解放の歌”なのである。
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