発売日: 2013年1月15日
ジャンル: インディーロック、ドリームポップ、サイケデリックロック
Yo La Tengoの13作目となるアルバム「Fade」は、長年のキャリアを持つ彼らの音楽性がさらに成熟し、円熟味を増した作品である。バンドのメンバーであるアイラ・カプラン、ジョージア・ハブレイ、ジェームズ・マクニューの三人が、控えめで緻密な演奏を通して、静かで穏やかなサウンドスケープを作り上げている。前作「Popular Songs」で見せた多様なスタイルとは異なり、「Fade」ではより統一感があり、シンプルで繊細なアプローチが際立っている。
このアルバムは、人生や時間の流れ、愛、失うことの痛みといった普遍的なテーマに触れつつ、ミニマリズムとドリームポップ、サイケデリックな要素が融合している。バンドはプロデューサーにトータスのジョン・マッケンタイアを迎え、より研ぎ澄まされたサウンドで楽曲を構成。美しくも儚い楽曲が揃っており、音の余韻が消えていく様子がタイトルの「Fade（フェード）」にふさわしい、心に残る作品だ。
各曲解説
1. Ohm
アルバムのオープニングを飾る「Ohm」は、繰り返されるギターリフとドラムが催眠的なリズムを生み出すエネルギッシュなトラック。歌詞の中で「This is it, this is it, this is it」と繰り返されるフレーズが、バンドの時間の流れや存在を静かに示唆している。穏やかでありながら、内に秘めたエネルギーが感じられる一曲。
2. Is That Enough
スウィートなメロディと弦楽アレンジが美しい「Is That Enough」は、愛と喪失のテーマが描かれている。カプランの優しいボーカルとストリングスが心地よいハーモニーを奏で、柔らかなトーンが切なさと温かみを伝える。
3. Well You Better
ミニマルでグルーヴィーなビートが特徴の一曲で、ギターとドラムのシンプルなリズムが際立つ。軽快なテンポと繰り返されるフレーズがリズムにのりやすく、Yo La Tengoのポップな一面を感じさせる。
4. Paddle Forward
エネルギッシュでギタードリブンなトラックで、ディストーションの効いたギターが疾走感を生み出している。インディーロックらしいエッジの効いたサウンドが響き、Yo La Tengoの躍動感が感じられる一曲。
5. Stupid Things
繊細なリズムとリリカルなメロディが心に響く「Stupid Things」は、アンビエントな雰囲気とミニマルなアプローチが特徴的。アイラとジョージアのボーカルが重なり合い、静かな中に深い感情を表現している。
6. I’ll Be Around
アコースティックギターが中心のシンプルなバラードで、ジョージアの穏やかなボーカルが心に染み渡る。静寂と温もりを感じさせるサウンドが、リスナーに優しく寄り添うような、儚くも美しい一曲だ。
7. Cornelia and Jane
ストリングスが優雅に響くこの曲は、愛と別れをテーマにしたメランコリックなナンバー。ジョージアの柔らかなボーカルと控えめなアレンジが切なさを引き立て、アルバムの中でも特に感動的な瞬間を提供する。
8. Two Trains
シンプルなギターとミニマルなリズムが絡み合うトラックで、反復されるフレーズが聴く者を静かなトランス状態へと導く。Yo La Tengoらしい静かなエネルギーが感じられる一曲で、アルバムのムードを深めている。
9. The Point of It
アコースティックで温かみのあるこの曲は、人生の意味や目的についての問いかけが歌詞に込められている。穏やかなメロディとアイラの優しいボーカルが、聴き手を深い感慨へと導く。
10. Before We Run
アルバムの締めくくりを飾る「Before We Run」は、ストリングスとホーンセクションが壮大なスケール感を与える一曲。ジョージアのボーカルが静かに歌い上げ、アルバム全体のテーマである「時間の流れ」や「移ろい」を象徴するような、感動的なフィナーレを迎える。
アルバム総評
「Fade」は、Yo La Tengoの円熟した音楽性と成熟したテーマが響き合うアルバムであり、彼らのキャリアの集大成ともいえる作品だ。シンプルで美しいメロディと繊細なアレンジが特徴で、ノイズの中に秘められた静かな感情や、時の流れと向き合う姿勢が伝わってくる。人生や愛、別れに対する深い洞察が込められた本作は、聞くほどに味わいが増す。Yo La Tengoの音楽の奥深さと、静かなエネルギーが詰まった「Fade」は、ファンにとっても新たな発見がある一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Ghost Is Born by Wilco
内省的で繊細なロックサウンドが「Fade」と響き合う。リリカルで実験的なアプローチが印象的な一枚。
You Forgot It in People by Broken Social Scene
インディーらしい静と動のダイナミクスが特徴で、ミニマリズムとエネルギーが調和しているアルバム。
The Soft Bulletin by The Flaming Lips
壮大なアレンジとエモーショナルなリリックが共通し、ドリーミーで幻想的なサウンドが楽しめる。
Boxer by The National
深いメランコリーと内省的な歌詞が特徴の一枚で、静かに流れるような雰囲気が「Fade」に通じる。
Tender Buttons by Broadcast
シンプルでミニマルなエレクトロニックサウンドが特徴で、淡い雰囲気とリリカルな側面がYo La Tengoファンに響く作品。
コメント