
発売日: 2007年6月12日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ストーナーロック、エクスペリメンタル・ロック
概要
『Era Vulgaris』は、Queens of the Stone Age(QOTSA)が2007年に発表した5作目のスタジオアルバムである。
タイトルは“俗悪の時代”を意味するラテン語の Era Vulgaris(エラ・ヴァルガリス)。
社会の腐敗や退廃を指す言葉として用いられ、アルバム全体の不健全なムードと深く結びついている。
本作は、前作『Lullabies to Paralyze』の“ダークな童話世界”から大きく舵を切り、
より都市的で、毒々しく、人工的な冷たさを伴う世界観
へと進化した作品である。
音楽的には、
- 歪みきったギター
- 無機質なビート
- 断片化したメロディ
- 乾いたポストパンク的質感
- 電気的なノイズ
が絡まり、QOTSA の中でも最も“尖った”作品といえる。
また、本作は“中毒性よりも不快さと快感のギリギリの境界”を追求しており、
ポップではないが強引に魅了する奇妙な吸引力を持っている。
参加メンバーも豪華で、
- マーク・ランガン
- ジュリアン・カサブランカス(The Strokes)
- トロイ・ヴァン・リューウェン
などが登場し、作品の“壊れた都会の夜”のような気配をいっそう濃くしている。
全曲レビュー
1曲目:Turnin’ on the Screw
異様な歪みのギターがゆっくりと広がる、不穏なオープナー。
“ネジを締め上げる”という言葉が示すように、じわじわと精神を圧迫するムードが支配する。
今作の“毒気”を象徴する導入である。
2曲目:Sick, Sick, Sick
タイトル通り“狂気の三段活用”のような疾走曲。
ギターリフは鋭く、ビートは強烈で、歌詞は病的。
QOTSA の攻撃性がもっとも露骨に出たトラックで、ライブでも定番となった。
3曲目:I’m Designer
ポストパンク的なリズムと、ねじれたメロディラインが特徴。
“デザイナーとして世界をデザインしている自分”という皮肉が効いた歌詞が秀逸。
都会の退廃が皮肉とユーモアを伴って表現されている。
4曲目:Into the Hollow
静かで陰鬱、そして深い。
重たい空洞の中を歩くような浮遊感があり、
オムの低く優しい声が、意外な癒しと不安の共存を生む名曲。
5曲目:Misfit Love
QOTSA の中でも屈指の“闇のクラブ・トラック”。
ひたすら反復するリフと、迫り来るような重低音が中毒性を持つ。
アルバムで最も妖しく危険なグルーヴ。
6曲目:Battery Acid
タイトル通り、聞いているだけで耳が焼けそうなアシッド感。
リフは粗暴、ビートは殺気立ち、全体が“壊れた工場”のような音像。
本作の異常性が最もよく現れた一曲。
7曲目:Make It wit Chu
『Desert Sessions』からの再収録曲で、アルバム唯一の“官能的スロウ”。
リラックスしたムードだが、どこか淫靡で、夜の色気が漂う。
本作の中では異質だが、その異質さがアクセントとして機能する。
8曲目:3’s & 7’s
本作の中でもっとも“ロック”らしいエネルギーを持った楽曲。
疾走感あるギターリフが爽快で、硬派なストーナーロックを思わせる。
シングルとしても成功した一曲。
9曲目:Suture Up Your Future
淡々とした歌唱と静かな演奏が、深い孤独感を描く。
“未来を縫い合わせろ”というタイトルの比喩が、壊れた時代をどうにか修復しようとする虚しさを表す。
陰鬱だが美しい。
10曲目:River in the Road
水が流れるようでいて、どこか重苦しい。
静けさと焦燥感が混ざり合い、アルバム後半の緊張を作り出している。
11曲目:Run, Pig, Run
最後にして最も狂気を解放したハードロックチューン。
ノイズとカオスが全開で、とどめの悪夢のようにぶつかってくる。
この破壊的な締め方が、本作の“都市の地獄”というテーマにふさわしい。
総評
『Era Vulgaris』は、
Queens of the Stone Age 史上もっとも毒々しく、冷たく、攻撃的なアルバム
と言ってよい。
その特徴は、
- ノイズとリフの荒々しさ
- ポストパンク的な無機質さ
- ユーモアと皮肉が混じる歌詞
- 夜の都市の退廃的ムード
- ミニマルの反復と張り詰めた緊張
これらがグロテスクなほど高密度に詰め込まれている点にある。
『Songs for the Deaf』のような大衆的な勢いは薄く、
『Lullabies to Paralyze』のような暗黒童話の美しさも抑え気味。
代わりに本作が追求するのは、
“壊れたポップ”“腐敗したロック”“人工的な美学”
であり、QOTSA の中でも特に挑戦的で実験的な作品となっている。
聴き手を選ぶが、
この毒気こそが唯一無二の魅力であり、
ジョシュ・オムのアーティスト性がもっとも剥き出しになったアルバム
ともいえる。
おすすめアルバム(5枚)
- Lullabies to Paralyze / QOTSA
前作と比較することで、音像とテーマの変化がよく分かる。 - Songs for the Deaf / QOTSA
バンド最大の成功作。攻撃性と構築美の頂点。 - Desert Sessions Vol. 9–10 / Josh Homme
QOTSA の実験精神の源流を聴ける。 - Nine Inch Nails / With Teeth
無機質さと退廃をテーマにした同時期作として好相性。 - The Strokes / First Impressions of Earth
ポストパンク的硬質さが共通し、ジュリアン参加曲との接続もある。
歌詞の深読みと文化的背景
『Era Vulgaris』には、
- 皮肉
- 不条理
- 倦怠
- 消費社会への批判
- 壊れた自意識
- 都市の夜の幻覚
といったテーマが散りばめられている。
歌詞の多くは、
“腐敗した現代に生きる人間の憂鬱”
を描いており、ブラックユーモアによってその暗さを薄めつつも、
むしろ毒性を増幅させている。
2000年代半ば、ロックは“クリーンで整った音像”へと向かうが、
QOTSA はその潮流を完全に無視し、
汚れた音、荒れたメロディ、破壊衝動
を意図的に研ぎ澄ました。
その“反・時代性”が本作の特異な魅力となっている。



コメント