発売日: 1995年7月15日
ジャンル: シューゲイザー、オルタナティヴ・ロック、ドリームポップ
概要
『Ejector Seat Reservation』は、Swervedriverが1995年にリリースしたサード・アルバムであり、彼らのディスコグラフィの中でも最も内省的かつメロディ重視の作品である。
前作『Mezcal Head』で轟音と疾走感を極めた彼らは、本作においてよりドリーミーで緩やかなアプローチを採用し、「夜明け前の静けさ」を感じさせるような音世界を描き出している。
しかしその一方で、Swervedriverらしいギター・サウンドは健在であり、浮遊感ある音像の奥には、確かなロックの重力が息づいている。
リリース当初はレーベルのサポート不足もあり、プロモーション面では不遇な扱いを受けたが、近年では再評価が進み、「隠れた名盤」として多くのファンに支持されている。
その理由は、構築美と叙情性、そして成熟したソングライティングが絶妙なバランスで共存しているからに他ならない。
全曲レビュー
1. Single Finger Salute
繊細なコードと控えめなギター・アルペジオから始まり、徐々に音像が広がるオープニング。
「静けさの中に張りつめた緊張」が漂い、アルバムの内省的なトーンを象徴するような楽曲である。
2. Bring Me the Head of the Fortune Teller
サイケデリックなフレーズと不穏なリズムが交錯する、ミステリアスなナンバー。
タイトルが放つ暴力的な印象に反し、楽曲はむしろ慎重に構築された美学に貫かれている。
リリックも寓話的で、象徴性の高いイメージが並ぶ。
3. The Other Jesus
ギターのドローンと穏やかなメロディが融合する、儚さと信仰へのアイロニーが入り混じるような楽曲。
「もう一人のイエス」というタイトルは、救済の多義性や虚構性を暗示しているのかもしれない。
4. Son of Jaguar ‘E’
軽快なリズムと浮遊感のあるギターが心地よい。
車を題材にしたSwervedriverらしい一曲だが、今回は疾走ではなく「漂流」をテーマにしたようなアプローチ。
タイトルの「Jaguar」は前作までのテーマとの繋がりも見える。
5. I Am Superman
地を這うような低音と夢見心地なボーカルが印象的なトラック。
「スーパーマン」とは名ばかりの、無力さと願望が入り混じったような自己像が滲む。
皮肉と叙情の狭間にある楽曲である。
6. Bubbling Up
透明度の高いギター・トーンとシンプルなコード進行が、リスナーの耳を優しく包み込む。
曲名の通り、「泡のように立ち上がる」感覚がサウンドに表現されている。
7. Ejector Seat Reservation
アルバム・タイトル曲であり、コンセプトの核に位置づけられる。
「射出座席」という言葉は逃避・安全・強制排除といった複数の象徴を含み、それが歌詞とサウンドに複雑に絡み合っている。
内なる崩壊と外界への脱出、その狭間に揺れるような名曲である。
8. How Does It Feel to Look Like Candy?
歪んだギターとミドルテンポのビートが特徴的な一曲。
「キャンディのように見られるとはどんな気分か?」という問いには、性や消費、イメージ操作への批判的な視線が見え隠れする。
9. Last Day on Earth
静かで広がりのあるアレンジが印象的。
終末的なタイトルだが、悲壮というよりも、穏やかで受容的なムードが漂う。
ラストの「隠しトラック」との橋渡しのような役割も持つ。
10. The Birds
アルバムの締めくくりとして収録された隠しトラック的な楽曲。
自然音のようなSEと繊細なギターが融合し、夢から覚める瞬間のような余韻を残す。
総評
『Ejector Seat Reservation』は、Swervedriverが持つ表現の幅と成熟を如実に示した作品である。
過去2作にあったスピードや爆発力は影を潜めたが、その代わりに本作では、細部への意識と空気感の表現において飛躍的な進化を遂げている。
音楽的にはドリームポップ、サイケデリック、オルタナティヴといった複数の要素を内包しつつ、全体としてはひとつの「静かな旅」として機能しているのが印象的だ。
また、「脱出」「不在」「変身」など、アルバム全体に共通するモチーフも一貫性をもたらしており、コンセプト的にも非常に強固である。
表面的には淡々としたトーンながらも、その奥にある感情の揺れや葛藤を丁寧に描き出しており、リスナーは時間をかけてじわじわとこの作品に引き込まれていくことになるだろう。
おすすめアルバム
- Slowdive / Pygmalion
静寂と音の余白を探求した、シューゲイザーの最深部。 - Yo La Tengo / And Then Nothing Turned Itself Inside-Out
日常の中の静けさと宇宙的な広がりが共存する名作。 - Talk Talk / Laughing Stock
ポスト・ロック的アプローチと精神的な深みが『Ejector Seat Reservation』と呼応する。 - The Verve / A Storm in Heaven
サイケデリックなギターと神秘的なボーカルが魅力の英国的ドリームロック。 - Grandaddy / The Sophtware Slump
未来への不安と希望を優しく描いたコンセプチュアルなローファイ傑作。
ビジュアルとアートワーク
『Ejector Seat Reservation』のアートワークは、淡い色調と抽象的な構図で構成されており、前作までの「車」や「速度」といった視覚的モチーフとは一線を画している。
飛行機の射出座席というコンセプトが、逃避と浮遊の両義性を象徴し、アルバム全体の感触と密接に結びついている。
このビジュアルは、「場所のない旅」や「精神の離脱」という本作のテーマを、無言のうちに補完するものとして機能している。
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