1. 歌詞の概要
「Eddie Vedder(エディ・ヴェダー)」は、Local H(ローカル・エイチ)が1996年にリリースしたセカンド・アルバム『As Good as Dead』のオープニングトラックにして、彼らの初期キャリアを象徴する問題作でもある。
曲名にある“Eddie Vedder”は言うまでもなく、Pearl Jam(パール・ジャム)のフロントマンであり、90年代グランジ・ムーブメントの象徴的人物のひとりだ。
しかしこの曲は、彼への賛美ではない。むしろ“なりたくてもなれない”“あこがれと嫉妬が入り混じる複雑な感情”を、アイロニカルかつ攻撃的に描いた楽曲である。
「なぜ自分は彼のように認められないのか?」「彼がすべてを代弁してしまったあとの、この退屈な現実をどう生きればいいのか?」――この曲の語り手は、自分の無名性や鬱屈を、あえて“象徴的ロックスター”への突きつけとして描いている。
そこには、単なる皮肉ではなく、ロックスター神話に取り残された者たちの叫びが詰まっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Local Hの『As Good as Dead』は、アメリカ中西部の地方都市の鬱屈と孤独を描いたコンセプト・アルバムであり、Pearl JamやNirvanaのような“グランジ・サクセスストーリー”の外側にいるバンドのリアリティが詰まっている。
「Eddie Vedder」は、その導入として“俺たちはEddie Vedderにはなれなかった”という苦々しい事実を、音と叫びにして叩きつけている。
スコット・ルーカス(Scott Lucas)は、グランジの影響を強く受けながらも、それに飲み込まれずに独自のリアリズムを構築しようとしたアーティストだった。
この楽曲は、そうした姿勢の最初のマニフェストともいえる。
Eddie Vedderは“憧れの対象”であると同時に、“越えられない壁”でもあり、その存在を名指しすることで、自分の位置を相対化してみせたのだ。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Eddie Vedder」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“You don’t know me / You don’t like me”
「君は俺を知らない / 俺のことが嫌いなんだろ」
“You say you want to be me / But you can’t”
「君は俺になりたいって言うけど / 無理だよな」
“I’m not Eddie Vedder / I’m not Eddie Vedder, motherfucker”
「俺はエディ・ヴェダーじゃない / エディ・ヴェダーなんかじゃねぇんだよ、クソが」
“I’m not half as cool as you / I’m not anything like you”
「俺はお前ほどクールじゃない / 似ても似つかないんだ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Local H – Eddie Vedder Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Eddie Vedder」は、一見すると“あの人みたいになれなかった自分”の劣等感を爆発させた、単なるジェラシー・ソングに見える。
だが実際には、Local H流のきわめて鋭い“自我のアイロニー”が詰まった楽曲である。
スコット・ルーカスはこの曲で、ロック界の神格化された人物を名前で呼び捨てにすることで、“ロックスター神話”そのものを相対化している。
「Eddie Vedderになれない」という事実を逆手に取って、“俺は俺だ”という自立したスタンスを獲得しようとするのだ。
その姿は、あまりに正直で、あまりに痛々しく、それゆえに共感を呼ぶ。
また、「君は俺を嫌いだろう」という一節には、音楽業界の中心部から外れたバンドが感じる“無視される痛み”と、それに対する“先に拒絶してやる”という防衛的な態度が透けて見える。
それは単なる怒りではなく、愛されたい、認められたいという切実な欲望の裏返しでもある。
つまりこの曲は、スターになれなかった者たちが、スターに向けて放つ“名指しの嘆き”であり、そこには敗北と、ほんの少しの自負が共存している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sliver by Nirvana
家庭の中の孤独と疎外感を、グランジ的無垢で描いた感情の爆発。 - One Angry Dwarf and 200 Solemn Faces by Ben Folds Five
「昔俺をバカにしてた奴ら、今どうしてる?」という怨念と勝利宣言を込めた逆襲の歌。 - Loser by Beck
“どうしようもないやつ”のレッテルを自嘲として使った、90年代の反英雄アンセム。 - Cut Your Hair by Pavement
音楽業界の表層的な価値観を笑い飛ばす、ポスト・グランジの軽妙な批評性。 -
Self Esteem by The Offspring
自己評価の低さと屈辱を、笑いと怒りで突き抜けたオルタナティブ・パンク。
6. “ロックスターにはなれない。それでも俺はここにいる”
「Eddie Vedder」は、Local Hというバンドの“位置づけ”を、ある種の開き直りとともに提示する象徴的な1曲である。
そこには、自分はエディ・ヴェダーにはなれない、なりたくてもなれなかったという事実がある。
だがそれを恥じず、怒りと皮肉で武装しながら、“俺は俺の音楽をやる”という静かな決意がある。
この曲は、神話の外側に生きる者の、誠実なロックンロールである。
ロックスターになれなかったすべての人に捧げる、敗者の反逆の賛歌だ。
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