アルバムレビュー：Down Two Then Left by Boz Scaggs

アルバムレビュー

2025.05.03

発売日: 1977年11月
ジャンル: AOR、ブルーアイドソウル、ソフトロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
制作の裏側（Behind the Scenes）
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概要

『Down Two Then Left』は、ボズ・スキャッグスが1977年に発表したアルバムであり、
前作『Silk Degrees』で築き上げたアーバンで洗練されたスタイルをさらに深めた作品である。

本作でもプロデューサーにはジョー・ウィザートが続投し、スタジオにはTOTOのメンバーをはじめとする豪華なセッションプレイヤーが集結。
前作に比べ、よりシリアスで成熟した雰囲気をたたえたサウンドメイキングが施されている。

アメリカが高度経済成長を謳歌していた1970年代後半、ロックとソウルは、より都会的で洗練された表現へと進化していた。
その潮流の中で、『Down Two Then Left』は、派手なヒット曲に頼らず、音楽的完成度で勝負を挑んだアルバムなのである。

商業的には『Silk Degrees』ほどの大成功には至らなかったが、
ボズ・スキャッグスの真のアーティスト性を知るには欠かせない、知る人ぞ知る傑作といえるだろう。

全曲レビュー

1. Still Falling for You

柔らかいギターと洗練されたリズム隊が支える、落ち着いたラブソング。
恋に落ち続ける喜びと戸惑いを、大人の目線で描いている。

2. Hard Times

ブルース色の濃いソウルフルなナンバー。
社会的な重圧や孤独をテーマに、どっしりとしたビートに乗せて歌われる。

3. A Clue

きらめくエレクトリックピアノが印象的なミディアムチューン。
「愛のヒント」を探し続ける主人公の繊細な心情が描かれている。

4. Whatcha Gonna Tell Your Man

ファンキーなホーンが冴えるアーバン・ソウル。
禁断の恋に対する葛藤と官能が、スリリングに表現されている。

5. We’re Waiting

ジャジーな香り漂う、都会的で洒脱なバラード。
忍耐と信頼をテーマに、静かな情熱が滲み出る。

6. Hollywood

アルバム随一のドラマティックな楽曲。
ハリウッドの光と影、夢と現実を対比的に描き出した、映画のようなスケール感を持つ曲である。

7. Then She Walked Away

メロウなギターとタイトなリズムが織り成す、洗練されたブレイクアップソング。
別れを受け入れ、前を向くまでの心の動きを繊細に描く。

8. Gimme the Goods

軽快なグルーヴと遊び心あふれる歌詞。
恋の駆け引きをユーモラスに、しかしクールに描いたダンサブルな一曲。

9. 1993

しっとりとしたバラードで、アルバムのクライマックスを飾る。
未来への希望と不安を織り交ぜたリリックが、静かに胸を打つ。

総評

『Down Two Then Left』は、『Silk Degrees』の後に続くアルバムとして、当然ながら過剰な期待と比較の目を向けられた。
しかし、ここにはヒットを狙うための派手さや焦燥感はない。
むしろ、ボズ・スキャッグスは意図的に「より深く」「より成熟した」音楽を求めたように思える。

全体に漂うのは、洗練とメランコリーの絶妙なバランス。
都会の夜の孤独感、成熟した愛情の複雑さ、未来への静かな希望――
そういった感情のニュアンスを、繊細な演奏と抑制の効いたアレンジで見事に表現している。

リスナーに即座の快楽を提供するのではなく、じっくりと時間をかけて染み渡るような、
そんなアルバムなのだ。

AOR好き、都会的なソウルを愛するリスナーにとって、『Down Two Then Left』は間違いなく必聴である。

制作の裏側（Behind the Scenes）

『Down Two Then Left』のセッションでは、前作『Silk Degrees』にも参加していたジェフ・ポーカロ（ドラム）、デヴィッド・ペイチ（キーボード）らが引き続き参加。
また、ギタリストとしてレイ・パーカーJr.が参加し、ファンク寄りのエッジを加えている。

録音は、ロサンゼルスの名門スタジオ「Hollywood Sound Recorders」で行われた。
最先端の録音技術と、西海岸ミュージシャンたちのリラックスした空気感が、アルバム全体の洗練されたムードを生み出している。

ジャケットアートには、夜のロサンゼルスを背景にたたずむボズの姿が収められ、
“一歩引いた観察者”としての彼の視点と、アルバムの内省的な世界観を見事に象徴している。

ボズ・スキャッグスはこの時点で、確信を持っていたのだろう。
流行に流されることなく、自らの音楽を静かに、しかし確かに深めていく道を選んだことを。