発売日: 2015年8月28日
ジャンル: ドリームポップ、シューゲイザー、インディーロック
2015年にリリースされたBeach Houseの5作目「Depression Cherry」は、シューゲイザーやドリームポップの要素をさらに研ぎ澄ませた、どこか儚げで神秘的な雰囲気が特徴的なアルバムである。前作「Bloom」のスケール感から一転して、シンプルでミニマルなアプローチに回帰し、リスナーに寄り添うような親密な音の空間を作り上げている。アルバム全体に漂う静謐さと深いエモーションが、日常の喧騒から離れた孤独感や内面的な静寂を呼び起こし、夜の静けさの中でじっくりと聴きたくなる作品だ。
本作では、アレックス・スカリーとヴィクトリア・ルグランの二人が、自分たちの音楽の根本に立ち返ることを目指し、ファズの効いたギターやリバーブのかかったオルガンといった、Beach Houseらしいシンプルで穏やかな音色に重点を置いている。また、ヴィクトリアの声は以前にも増してしっとりと落ち着きを帯び、まるで穏やかな波に揺られているかのようにメロディを導いていく。アルバム全体を通じて漂う透明感と静謐な雰囲気が、Beach Houseならではのドリームポップの世界観をさらに深めている。
トラックごとの解説
1. Levitation
「Levitation」は、浮遊感のあるシンセとヴィクトリアのやわらかな歌声が調和し、まるで空中を漂うような心地よさを感じさせる。歌詞には「離れていく」という意味が込められ、現実から解放されて夢の中に入るような感覚をもたらす。アルバムの幕開けにふさわしい一曲だ。
2. Sparks
「Sparks」は、ファズの効いたギターが印象的で、シューゲイザーの要素が色濃く表れている。リバーブが深くかかったヴィクトリアのボーカルが、曲全体に幻想的なムードを漂わせ、どこか神秘的で荘厳な響きを持っている。
3. Space Song
メランコリックで美しい「Space Song」は、恋愛における寂しさや距離感をテーマにしており、Beach Houseの名曲の一つとされる。シンプルなシンセのメロディと優しいリズムが、ヴィクトリアの歌声を引き立て、聴き手の心を静かに包み込む。
4. Beyond Love
静けさと切なさが漂う「Beyond Love」は、シンセとギターが繊細に重なり合うバラード調の一曲。愛の超越的な一面に焦点を当て、壮大でありながらもどこか儚げなメロディが心に残る。リスナーに安らぎと感傷を同時に与える楽曲だ。
5. 10:37
シンプルなリズムと心地よいテンポが続く「10:37」は、アルバムの中でもひときわ落ち着いた印象。時間の流れや過去の思い出を連想させるような歌詞が、穏やかなサウンドと絶妙にマッチしている。
6. PPP
「PPP」は、優雅でゆっくりとした曲調が特徴的なラブソング。シンセとギターの繊細なレイヤーが、ヴィクトリアの深みのある歌声とともに、美しく重なり合っている。切なさと安らぎが入り混じるメロディが心に響く。
7. Wildflower
「Wildflower」は、ノスタルジックで柔らかな雰囲気が特徴のトラック。歌詞には自然の中にいるような自由さと解放感が描かれ、リスナーに穏やかな心の風景を喚起する。Beach Houseらしい静謐さが光る楽曲だ。
8. Bluebird
ミステリアスで幻想的な雰囲気を持つ「Bluebird」は、淡々としたメロディが印象的で、どこか影のあるサウンドが心に残る。まるで夜の森を静かに歩くような感覚に包まれ、深い余韻を残す一曲だ。
9. Days of Candy
アルバムを締めくくる「Days of Candy」は、壮大で荘厳なサウンドスケープが広がる一曲。コーラスが加わり、これまでにない豊かな音の広がりを見せ、まるで映画のエンディングのような余韻を残すフィナーレとなっている。
アルバム総評
「Depression Cherry」は、Beach Houseが彼らの音楽的ルーツに回帰し、シンプルでありながらも深い感情を表現することに成功したアルバムだ。シューゲイザーやドリームポップの要素を最大限に活用し、静けさの中に広がる温かみと儚さが、聴き手の心にじんわりと響く。ヴィクトリア・ルグランの歌声とアレックス・スカリーのシンセサウンドが一体となり、現実から少し離れた場所での瞑想的なひとときを提供してくれる。「Depression Cherry」は、夜の静かな時間にじっくりと聴きたい、深く感動的な作品と言えるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Bloom by Beach House
前作「Bloom」は、壮大なサウンドスケープとリッチなプロダクションが魅力の作品。Depression Cherryに引き込まれたリスナーにとって、さらに広がりのある音の世界を楽しめる。
Heaven or Las Vegas by Cocteau Twins
ドリームポップの代名詞とも言えるアルバムで、神秘的で柔らかな音が特徴。Depression Cherryと同様に美しさと儚さが融合している。
Slowdive by Slowdive
シューゲイザーの代表的作品。豊かなエコーとゆったりとしたリズムが、Depression Cherryの繊細で夢幻的な雰囲気と通じるものがある。
Dive by Tycho
アンビエントとシューゲイザーを融合させたサウンドスケープが魅力の一枚。静謐で穏やかな音が、Depression Cherryのファンにも響く。
Nocturne by Wild Nothing
ドリームポップとニューウェーブの影響を感じさせるアルバム。ノスタルジックなメロディが特徴で、Depression Cherryのファンにとっても親しみやすい作品。
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