1. 歌詞の概要
「Dangerous Type(デンジャラス・タイプ)」は、アメリカのオルタナティブ・ロック・バンド、Letters to Cleo(レターズ・トゥ・クレオ)が1996年にカバーした楽曲で、元々は1979年にThe Cars(ザ・カーズ)が発表したアルバム『Candy-O』に収録されていた名曲である。
Letters to Cleoのバージョンは、同年公開の映画『The Craft(ザ・クラフト)』のサウンドトラックに使用され、原曲のミステリアスな雰囲気にフェミニンな強さと90年代的オルタナ感覚を加えてアップデートされた、新たな“危険な女”の肖像を描いている。
この曲は、タイトルの通り「危険なタイプの人間」、つまり自分にとって有害であるとわかっていながら惹かれてしまうような存在を描いている。
その存在は魅力的で、抗いがたく、しかし同時に破壊的なものでもある。
歌詞全体に漂うのは、逃れられない誘惑への恐れと興奮――まるで毒に恋してしまうような心理の揺れだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Dangerous Type」は、The Carsの中心人物リック・オケイセック(Ric Ocasek)によって書かれた楽曲で、元々はシンセサイザーとミニマルなロックギターによる硬質でクールなナンバーだった。
その冷ややかな魅力は、1970年代末のポストパンクやニューウェーブ的な美学を体現しており、同時に性的な魅力と孤独をはらんだ“危険な女性像”が印象的に描かれていた。
Letters to Cleoによるカバーは、1996年に公開されたティーン・ホラー映画『The Craft(クラフト)』の劇中およびエンドクレジットに使用され、一気にリバイバル的な注目を浴びた。
この映画は4人の女子高校生が魔術に目覚め、次第に力に溺れていくという物語であり、オリジナルの“危険な女”というテーマと見事にリンクしていた。
ケイ・ハンリー(Kay Hanley)の鋭くも感情的なヴォーカルによって、歌詞に含まれていた冷静な観察眼はより内面的な葛藤へと変化し、“誰かに支配されるのではなく、自分自身の破壊性を認識する”という新たな読みが加わっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Dangerous Type」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“She’s a lot like you / The dangerous type”
「彼女は君にそっくりだよ / 危険なタイプさ」
“I see the way you look at her / I see the way you want her”
「君が彼女を見つめるその目つき / 君が彼女を求めてるのがわかる」
“She’s got looks that kill / She’s got the moves to thrill”
「彼女の視線は鋭く突き刺さる / その仕草にはゾクッとさせられるんだ」
“You’re the dangerous type / You’re the dangerous kind”
「君は危険なタイプ / 危険な存在なんだ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
The Cars – Dangerous Type Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲は表面的には“第三者の女性”への描写だが、その裏には「惹かれる自分自身の危うさ」や「自分もまた誰かにとっての危険な存在であるかもしれない」という多層的な視点が流れている。
オリジナルでは、それがやや観察的・冷笑的に描かれていたのに対し、Letters to Cleoのバージョンでは感情の内側からそれを受け入れるようなニュアンスが強く出ている。
とくに「She’s a lot like you」というラインは、「危険な存在」とされる他者と自分との距離を一気に縮めるキーラインであり、それは同時に「自分の中にも壊してしまう衝動がある」と気づくきっかけでもある。
その気づきが、恐れや後悔ではなく、“でも、それでも私はそれでいい”という受容へと変わっていく過程が、このカバーにおける最大の価値と言える。
ケイ・ハンリーの歌唱は、セクシーでありながらもナイーブさを内包しており、危険であることがイコールで悪ではないという、90年代的な“アイデンティティの解放”を見事に表現している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Celebrity Skin by Hole
華やかな外見の裏に潜む痛みと反骨を、グラムなサウンドで表現した女神のようなロック。 - What’s Up? by 4 Non Blondes
不安と混乱の中で“自分の声を上げる”女性たちへの共感と決意のアンセム。 - Seether by Veruca Salt
女性の怒りと感情をパワフルに表出した90年代オルタナティブの傑作。 - Obsession by Animotion
欲望と執着のスリルを、ニューウェーブ的美学で包んだエレクトロ・ポップのクラシック。 - Temptation Waits by Garbage
危険と誘惑のあいだで揺れる、暗闇の中の女神のようなシルエット。
6. “自分の中にある『危険』を、怖れずに抱きしめる”
「Dangerous Type」は、惹かれてしまう危うい存在を描きながら、最終的にはそれを受け入れていく“覚悟の歌”である。
それは他者に対する評価であると同時に、自己認識の告白でもある。
Letters to Cleoによるカバーは、90年代のオルタナティブ・フェミニズムやアイデンティティの自由を体現したような解釈であり、原曲にあった冷静な観察を、情熱と決意に置き換えている。
「Dangerous Type」は、“危険だからこそ、美しい”という感情に、正面から向き合うためのロックンロールなのだ。
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