1. 歌詞の概要
「Comme Des Garçons (Like the Boys)」は、Rina Sawayamaが2020年に発表したデビュー・アルバム『SAWAYAMA』に収録されたシングルであり、アルバムの中でも特にファッション性、ジェンダー表現、自己肯定をテーマに掲げたスタイリッシュなアンセムである。
タイトルの“Comme Des Garçons”は、日本の有名ファッションブランドであり、フランス語で「男の子のように」という意味。Rinaはこのフレーズをそのまま音楽的テーマとして採用し、「男性的な自信」――すなわち、自己主張、大胆さ、パワー――を女性が持つことを恐れないという意思表明に仕上げている。
歌詞は全体を通して、“男の子のように”ふるまうことで自信を得ようとする一人の女性の姿を描きつつ、そこには皮肉とユーモア、そして社会への問題提起が混在する。「自信たっぷりで何が悪いの?」という開き直りにも似たメッセージは、現代に生きるすべての女性にとっての“ミラー”ともなり得る。
2. 歌詞のバックグラウンド
Rina Sawayamaは、この曲について「女性が自信を持って自己主張をすると、しばしば“威圧的”“傲慢”と批判される社会のあり方に対する反応」だと語っている。彼女自身が音楽業界や社会の中で体験してきたジェンダーバイアスを、この楽曲を通して一種のファッションショーのように華麗に反転させたのである。
また「Comme Des Garçons」は、ジャンルとしてはディープ・ハウスやクラブ・ミュージックの影響を受けており、艶やかでクールなベースライン、スタイリッシュなエレクトロ・プロダクション、そして官能的に配置されたRinaのボーカルが印象的である。この音作りは、90年代後半〜2000年代初頭のパリ/東京のファッション・ランウェイを彷彿とさせるような、洗練された空気感をまとっている。
その洗練の中に、“私はこう在りたい”という自己イメージと、“社会はこう見てくる”という外部視線との緊張感が同居し、楽曲にただのダンス・チューン以上の深みを与えている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Comme des garçons
男の子みたいにI’m so confident
私、自信満々よExcuse my ego
わたしの自尊心、気にしないでCan’t go incognito
もう隠れてなんかいられないEvery time you see me
私が現れるたびにIt’s like winning big in Reno
リノのカジノで大勝ちしたような気分にさせるの
歌詞引用元:Genius Lyrics – Comme Des Garçons (Like the Boys)
4. 歌詞の考察
この楽曲は、一見すると“自信過剰な人物”を描いたポップソングのように聞こえるかもしれない。しかし、その裏には、「女性が堂々としていること」への社会的警戒感や、「男らしさ=自信」の構図への痛烈な批判が隠されている。
特に、「Excuse my ego」というラインは重要だ。Rinaは、女性が自分に自信を持つことそのものが「謝罪」を必要とされてしまう社会的風潮に異議を唱えているのだ。これは、単なるセレブ風の自己肯定ではない。むしろ、「本来なら謝らなくてもよいことに、なぜ私は引け目を感じなきゃいけないの?」という静かな怒りを含んでいる。
さらに、「Comme Des Garçons」というファッションブランドの名前を引き合いに出すことで、Rinaは“スタイルとしてのジェンダー”というテーマにも踏み込んでいる。ジェンダーの境界を軽やかに飛び越え、自信という“属性”そのものを解体してみせるこの曲は、まさにポップミュージックとファッション、そしてフェミニズムが交差する現代的な表現の結晶と言える。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Vroom Vroom by Charli XCX
フェミニンでありながらも圧倒的に攻撃的なサウンドが、「Comme Des Garçons」と共振する。 - Free Woman by Lady Gaga
ジェンダーの枠にとらわれず、自分の価値を再定義しようとする自己肯定のアンセム。 - Bossy by Kelis
「支配的で何が悪い?」という姿勢をユーモラスかつ挑発的に描いたクラブバンガー。 - Pretty Girl by Clairo(Live Version)
“可愛い”というラベルを脱ぎ捨てて自分を語ろうとする、静かな決意が響く一曲。
6. “自信はジェンダーレス”というメッセージ
「Comme Des Garçons (Like the Boys)」は、Rina Sawayamaというアーティストが単なるポップスターではなく、“現代的な思想をまとった表現者”であることを示す一曲である。彼女はこの楽曲で、女性の自信が“媚び”や“計算”と誤解される社会に対し、「自信を持つことそのものが人間の普遍的な権利である」という明快なメッセージを放っている。
それはつまり、“Like the Boys”である必要はないという逆説的な主張でもある。男性的なふるまいを模倣するのではなく、その振る舞いに内在する“権利”をすべての人が享受できるようにすべきだ、という提案なのだ。
Rina Sawayamaは、煌びやかなサウンドとランウェイを歩くようなビジュアルを纏いながら、非常に政治的で社会的なステートメントを提示している。「Comme Des Garçons (Like the Boys)」は、そんな彼女の哲学を象徴する、美しくも力強いポップの旗印なのである。
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