1. 歌詞の概要
「Come Get It Bae」は、ファレル・ウィリアムスが2014年にリリースしたアルバム『G I R L』に収録されている楽曲で、同年にシングルとしても発表されました。「Happy」と同じアルバムに収録されながら、こちらはよりセクシュアルでユーモラスなトーンを持つ一曲です。歌詞の中心には性的魅力と誘惑、そして肉体的な快楽を軽妙に表現する言葉遊びが展開されており、そのすべてが明るくポップでありながら挑発的という、ファレルらしいバランスで構成されています。
“Bae”とは、英語のスラングで「恋人」や「愛しい人」を意味する言葉で、曲全体を通じてファレルは「欲しいなら取りにおいで」と繰り返し歌いかけます。つまり、「Come Get It Bae」とは、「君が望むなら、俺はここにいるよ」という誘惑の言葉であり、リスナーを巻き込むような親密でダンサブルなラブソングです。
2. 歌詞のバックグラウンド
『G I R L』というアルバムは、ファレル・ウィリアムスのフェミニズム的な視点と、女性へのリスペクトをテーマに据えたコンセプト作品です。その中において、「Come Get It Bae」はやや異質とも言えるほどに肉体的・官能的なアプローチを取っており、ポジティブなセクシュアリティの解放をテーマとした楽曲として解釈されています。
この曲にはアメリカのシンガーソングライター、マイリー・サイラスがゲストヴォーカルとして参加しており、彼女の奔放でエネルギッシュな声が楽曲に遊び心と躍動感を与えています。ファレルはこの曲で、セクシュアルな欲望を否定することなく、むしろそれを肯定的かつ魅力的なものとして描くことに成功しており、過激さと健全さを同居させた非常に現代的な作品です。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Come Get It Bae」の中から印象的なフレーズを抜粋し、英語歌詞と日本語訳を併記します。引用元:Genius Lyrics
“You miss me? I miss all of y’all”
僕のこと恋しい?僕はみんなが恋しいよ
“Nothing’s stopping you / So get on up it”
君を止めるものなんてない、さあ乗ってこいよ
“You want to ride it, my motorcycle”
君はそれに乗りたいんだろ、俺のバイクにな
“If you want it / You can get it / Come get it bae”
欲しいなら手に入れな、さあ取りに来いよベイビー
“Come get it bae / Come get it bae”
取りにおいで、取りにおいで
“You can’t stop me now”
今さら俺を止められないぜ
4. 歌詞の考察
「Come Get It Bae」の歌詞は、性的な比喩を軽快に用いた、非常にダンサブルでポップな作品です。たとえば「モーターサイクル(motorcycle)」という言葉は、典型的な性的メタファーとして使われていますが、それが過度に下品にならず、むしろ遊び心とウィットを伴って表現されている点に、ファレルのライティングの巧みさが感じられます。
また、「You can’t stop me now(もう俺を止められない)」というラインには、自己肯定感と自由さの主張が込められており、単なる肉体的な関係を超えて、欲望や快楽の肯定、そしてそれを楽しむことへのポジティブなメッセージが響いてきます。
マイリー・サイラスのパートは、女性の視点からの同意と欲望を軽やかに織り交ぜる役割を担っており、この楽曲における“セクシュアリティの双方向性”を強調しています。ファレルは、「欲しいなら来て」という一見男性的な主張をしつつも、それが押し付けではなく、相互の合意によって成立する関係であることをさりげなく描いているのです。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Blurred Lines” by Robin Thicke ft. Pharrell & T.I.
性的テンションとグルーヴが共通。賛否両論の中で話題となったセクシュアルなポップナンバー。 - “We Can’t Stop” by Miley Cyrus
自由奔放なライフスタイルを歌ったマイリーの代表曲。奔放さと若さの解放感がリンク。 - “Sexual Healing” by Marvin Gaye
官能的で洗練されたセクシャル・ソウル。セクシュアリティを神聖なものとして描いた名曲。 - “Get Lucky” by Daft Punk ft. Pharrell Williams
ナイトライフと快楽の探求をテーマにしたファンキーで洗練されたディスコ・ポップ。 - “Milkshake” by Kelis
性的な比喩を巧みに用いたヒット曲。女性の視点で自信と魅力を表現。
6. セクシュアリティの肯定と“遊び”の美学
「Come Get It Bae」は、現代ポップソングの中でも珍しい、“明るく肯定的なセクシュアリティ”を描いた作品です。多くのラブソングやセクシャルソングが過度なロマンティシズムや暗喩、あるいは過激な露骨さに傾く中で、この曲はあくまで軽やかに、かつスタイリッシュに“肉体の愉しみ”を祝福しています。
ファレル・ウィリアムスは、この曲を通して「性は罪ではない、遊びでもいい、でも敬意と合意が大前提だ」という現代的な倫理観をポップの中に持ち込むことに成功しました。ダンスビートの中に埋め込まれたこの微妙で重要な価値観は、単に“踊れて楽しい曲”という表面的な魅力だけでなく、「音楽を通じた感性の再教育」という側面も持っています。
「Come Get It Bae」は、快楽を否定せず、でもそれを暴力的にも消費的にもせず、愛と遊びの中間を軽やかに漂う、極めてモダンなセクシュアル・ポップソングなのです。
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