1. 歌詞の概要
「Colours of You(カラーズ・オブ・ユー)」は、Baby Queen(ベイビー・クイーン)ことBella Lathamが2022年にリリースした楽曲であり、映画『Heartstopper』(Netflix)のサウンドトラックのために書き下ろされたラブソングである。
この曲は、恋に落ちる瞬間の“世界の見え方の変化”を、視覚的かつ詩的に表現した、きわめてパーソナルかつ普遍的な愛の物語となっている。
タイトルの「Colours of You」は、直訳すると「あなたの色たち」。
これは恋人の“性格”や“存在のあり方”を象徴する言葉であり、語り手にとっての世界が、誰かに出会うことで一変し、モノクロだった日常が色づいていく感覚が軸となっている。
この楽曲は、ただの恋愛の高揚感を描くだけでなく、自己発見と自己受容の過程——特にクィア・アイデンティティを抱える人間が初めて愛に触れたときの戸惑いと喜びを、繊細かつ優しく包み込むように歌い上げている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Colours of You」は、クィアなティーンたちの恋と成長を描いた大人気ドラマ『Heartstopper』の挿入歌として発表された。
作中では、主人公のチャーリーがニックに恋心を抱き、やがてその気持ちが通じ合っていく重要なシーンで使用されており、視聴者にとっても“恋に落ちる”という感情の普遍性を象徴する楽曲として多くの共感を呼んだ。
Baby Queen自身もクィアであり、この曲は彼女の経験や思考とも深く結びついている。彼女はインタビューで「自分らしく生きることに恐れを感じていた頃の感情を、ありのままに込めた」と語っており、愛することで見えてくる“新しい自分”との出会いがテーマとなっている。
ミドルテンポのドリーム・ポップ調のアレンジと、どこか儚げなメロディラインが、感情の芽生えとその繊細さを美しく描き出しており、Baby Queenの楽曲の中でも特にエモーショナルで詩的な一曲となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’ve been seeing colours
Since I met you
Can’t remember the grey
あなたに出会ってから
私の視界は色づいた
それまでの“グレー”は、もう思い出せない
You make me feel like
I’m not the problem
Like I’m not the cause of all the weight
あなたは私に教えてくれた
私が“問題”じゃなかったこと
この心の重さは、私のせいじゃなかったってこと
And I wanna know the colours of you
Every shade, every hue
私は“あなたの色”をすべて知りたい
そのひとつひとつの色合いと、濃淡すべてを
You make the world look beautiful
I see it all because of you
あなたがいるだけで
世界はこんなにも美しく見える
すべてが、あなたの存在のおかげで
歌詞引用元:Genius – Baby Queen “Colours of You”
4. 歌詞の考察
「Colours of You」は、“他者を通じて自分を再発見する”ことの感動と怖さを同時に描いている。
この曲の語り手は、恋をすることで初めて「世界がこんなにも色彩にあふれていた」ことに気づく。そして同時に、これまで“モノクロ”の世界に閉じこもっていた自分自身を、少しずつ肯定できるようになっていく。
「You make me feel like I’m not the problem」というラインは特に重要で、自己否定が常態化していた語り手が、愛されることで初めて“自分は壊れていない”と気づく瞬間を象徴している。
この“気づき”は、恋愛が与える最大の変化であり、それは恋そのもの以上に深い“癒し”や“解放”に近い。
また、タイトルにもなっている「colours of you」は、単に相手の個性を表しているだけではない。
語り手にとって“あなた”は、“色そのもの”であり、「自分がこれまで気づかなかった感情の名前」「持っていなかった感受性」「知らなかった自己像」そのものなのである。
この楽曲は、そうした恋によって世界が変わる瞬間を、“過剰な情熱”ではなく、静かで穏やかな気づきの連なりとして描いている。それが、聴く者に深い余韻と共感を残す所以でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Alaska by Maggie Rogers
感情と風景が重なり合うなかで、自己解放へと向かう旅を描いたエモーショナル・トラック。 - I Know A Place by MUNA
傷ついた人たちのために「安全な場所」を歌う、希望と包容力に満ちたアンセム。 - Girls by girl in red
女の子に恋することを隠せずにいる心情を、軽快でキュートに描いたポップソング。 -
She by Dodie
誰にも言えない片思いを、優しく、でも切なく語るドリーミーなバラード。 -
Bloom by Troye Sivan
クィアな目線で語られる“初めての恋の喜びと戸惑い”が瑞々しく描かれた一曲。
6. “恋に落ちること”は、世界を再発見すること
「Colours of You」は、恋が人の心にどんな変化をもたらすか、そしてそれがどれほど“個人的な革命”になりうるかを、静かに、しかし確かに描いたラブソングである。
この曲のすばらしさは、「誰かを好きになる」というシンプルな感情を、“色”という抽象的なイメージで描きながら、それを実感として伝えている点にある。
Baby Queenは、「愛されることで初めて、自分の世界が動き出す」という奇跡を、自分の声で歌いながら、誰もが“色”を感じる瞬間を共有できるような普遍性へと昇華している。
「Colours of You」は、クィアであること、傷ついてきたこと、信じることが怖かったこと——それでも誰かに出会ってしまったことに対する、祝福と許しのうたである。
その色は、誰の中にも眠っている。Baby Queenはこの曲を通して、その色がいつかあなたの中にも差し込む瞬間を、そっと照らしているのだ。
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