アルバムレビュー：Colorado by Neil Young & Crazy Horse

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 2019年10月25日
ジャンル: ガレージ・ロック、フォーク・ロック、アメリカーナ

山の静寂と怒りのディストーション——Neil Young、再びCrazy Horseと“いま”を刻んだロックの素描
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総評
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山の静寂と怒りのディストーション——Neil Young、再びCrazy Horseと“いま”を刻んだロックの素描

『Colorado』は、Neil Youngが盟友Crazy Horseとともに2019年に発表した36作目のスタジオ・アルバムであり、気候危機や社会の分断といった現代的テーマを、ロッキー山脈の空気感とともに荒々しく描いた“遅れてきたフォーク・グランジ”のような作品である。

2012年の『Psychedelic Pill』以来となるCrazy Horseとの完全スタジオ作であり、ギターのフランク・サンペドロが抜け、新たにニルス・ロフグレンが復帰。
その変化も含め、本作では長尺のジャムやギターの轟音は控えめに、より言葉の力に重きを置いた曲作りがなされている。

録音はコロラド州の標高2743メートルにあるスタジオで行われ、空気の薄さと透明度がそのまま音の隙間に反映されたかのような、清冽かつ素朴な音像が特徴である。

全曲レビュー

1. Think of Me
アコースティック・ギターとハーモニカによる穏やかな導入。「僕のことを思い出して」と語りかける、愛と記憶のうた。

2. She Showed Me Love
13分超の即興的ジャム。“年老いた白人男がついに気づいた”という皮肉めいたラインが象徴的で、環境問題と世代間の意識差をノイズまじりに描き出す。

3. Olden Days
過去を懐かしむようでいて、そこに戻らない決意を込めたフォーク・ロック。ニルスのコーラスが柔らかい抑揚を加える。

4. Help Me Lose My Mind
少し躁的なビートとワウの効いたギターが、“狂気への一歩”を陽気に表現。 破天荒さが魅力のミッドテンポ・ナンバー。

5. Green Is Blue
自然への鎮魂歌。「緑が青になった」という表現は、かつての豊かさが失われた現実を詩的に描いている。

6. Shut It Down
デジタル社会と権力構造への怒りを込めたシャウト型のロック。「すべて止めろ！」という直線的メッセージが熱を帯びる。

7. Milky Way
夢の中を漂うようなサイケデリック・フォーク。ヤング流“宇宙的ラブソング”とも言える、浮遊感に満ちた一曲。

8. Eternity
カントリー調のバラード。“永遠”をテーマにしながらも、人生の儚さを優しく綴る。

9. Rainbow of Colors
人種と多様性をテーマにした、“みんな違って、みんな美しい”というメッセージソング。 合唱のような温かさが印象的。

10. I Do
ラストを締めくくる静謐な小品。誓いの言葉のように「I do（そうするよ）」と繰り返すことで、人生への静かな肯定を感じさせる。

総評

『Colorado』は、Neil Youngが環境と社会の危機に向き合いながらも、音楽に希望と対話の可能性を託したアルバムである。
Crazy Horseとの再会は“爆音の祝祭”ではなく、むしろ内省と現実直視の場として機能しており、老いたロックバンドが“今この瞬間”を鳴らすことの意味を教えてくれる。

轟音は減ったが、その代わりに言葉が増え、ギターの余白が語り始める。
山の静けさと風の冷たさ、そして地球の痛みに耳を澄ませた、ヤング流“エコロック・ジャーナリズム”の結晶である。