Closer by The Chainsmokers(2016)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Closer(クローサー)」は、アメリカのEDMデュオ、The Chainsmokers(ザ・チェインスモーカーズ)がHalsey(ホールジー)をフィーチャリング・ボーカルに迎えて2016年にリリースした楽曲で、世界的なヒットを記録したメガ・アンセムである。
軽やかなエレクトロニック・ビートに乗せて描かれるのは、かつての恋人同士の再会。そして、その再会が単なる懐かしさではなく、未完の感情や再燃する恋心を伴っているという、青春の甘酸っぱさと痛みが混在する情景である。

曲の語り手は、大学時代に別れた恋人と数年ぶりに再会し、かつての想いがふたたび蘇る。サビでは「So baby, pull me closer in the back seat of your Rover」と歌われ、再び肉体的にも精神的にも近づいていく様子が印象的に描かれる。過去を振り返りながら、今この瞬間にある“刹那的な幸福”を描く構成が、リスナーに強く訴えかける。

この楽曲は「失われた恋の再会」だけではなく、「若さの特権としての過ちや衝動」も肯定的に描いている。歌詞は極めてシンプルで口語的でありながら、20代の感情をリアルにとらえたことで、多くの同世代から強い共感を得た。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Closer」は、The ChainsmokersのAndrew Taggart(アンドリュー・タガート)とHalseyがボーカルを担当し、アンドリューはこの曲で初めてリードボーカルを務めた。プロデュースはThe Chainsmokers自身が担当し、Dayaの「Hide Away」などで知られるショーン・フランクとの共同制作によって仕上げられた。

楽曲は、当初はThe Chainsmokersのミックスに過ぎなかったが、やがてHalseyのボーカルが加わることで物語性が増し、“男女それぞれの視点から語られる過去の恋”という形式が完成した。この対話的構成こそが、楽曲の大きな魅力のひとつとなっている。

歌詞の舞台として登場する「Rover(ローバー)」や「Boulder(ボルダー)」といった具体的な固有名詞が、ストーリーのリアリティを強調しており、まるで映画のワンシーンのような情景をリスナーに想起させる。

この曲はアメリカのビルボード・ホット100で12週連続1位を獲得し、Spotifyでも再生回数が10億回を超えるなど、EDMポップの歴史に残る大ヒットとなった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Closer」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳とともに紹介する。

引用元:Genius Lyrics – Closer

“Hey, I was doing just fine before I met you”
ねえ、君に出会う前は普通にやってたんだ

“But I drank too much and that’s an issue, but I’m okay”
でも飲みすぎて問題も起きた、でもまあ大丈夫さ

“So baby, pull me closer in the back seat of your Rover”
だからベイビー、君のローバーの後部座席で僕をもっと近くに引き寄せて

“That I know you can’t afford / Bite that tattoo on your shoulder”
君が買えるはずのない車で/君の肩のタトゥーをかじった夜を思い出す

“We ain’t ever getting older”
僕らは、きっと永遠に年を取らない

最後のリフレイン「We ain’t ever getting older」は、青春の瞬間を封じ込めたような魔法の言葉として機能している。永遠ではないことをどこかで理解しつつも、今だけはこの時間を止めたい——その切ない願いがこめられている。

4. 歌詞の考察

「Closer」は、単なるラブソングではない。それは、ひとつの“記憶の再生”であり、恋が終わったあとに残る余韻と、もう一度だけその熱を取り戻したいという人間の根源的な欲望を描いている。

語り手たちは、完全に未練を捨てたわけではない。むしろ、自分たちの選択が正しかったのかどうかすらわからないまま、ふとした瞬間に再会し、気づけばあの頃の感情が戻ってきている。それは不健全かもしれないし、未来につながる関係ではないかもしれない——それでも、「今だけはいい」と割り切っているような潔さがある。

また、「タトゥー」「ローバー」「友達のソファ」「ボルダー」などの具体的なアイテムが、単なるラブストーリーを“私たちの話”に変えている。そうすることで、聴き手は自分自身の記憶と重ね、あたかもこの物語が自分のものだったかのように錯覚する。これはまさに“ポップのマジック”であり、シンプルな言葉だからこそ刺さる構成になっている。

Halseyとアンドリュー・タガートのボーカルの掛け合いは、感情のズレや温度差をリアルに表現しており、特にHalseyのパートでは「私は君が言うほど簡単に戻らない」というスタンスも感じられる。そのバランスが絶妙で、再会の美しさと危うさが等しく表現されている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Stay” by Zedd & Alessia Cara
    時間を止めたいという切実な願いと恋のせつなさが共鳴する。

  • “It Ain’t Me” by Kygo & Selena Gomez
    過去の恋を振り返りながらも、自立へと進む意志を描いたデュエット。

  • Stitches” by Shawn Mendes
    愛による傷と、それでも惹かれてしまう自分の弱さを歌うポップバラード。

  • “Let Me Love You” by DJ Snake ft. Justin Bieber
    救われたい心と愛への執着を、シンプルな言葉で描いたクラブアンセム。

  • “I Took a Pill in Ibiza” by Mike Posner (SeeB Remix)
    成功や刹那の幸福に溺れた過去を内省的に描いたエレクトロニック・ポップ。

6. ポップソングとしての記憶装置:「Closer」が語る“ふたりだけの過去”

「Closer」は、EDMのリズムに乗せて、過去の恋と未練、そして若さ特有の衝動をリアルに描いたポップの記憶装置である。
この曲が世界中で愛された理由は、派手なサウンドでも複雑な言葉でもなく、「誰にでもある、でも今はもう戻れないあの瞬間」を見事に切り取ったからである。

それは、もう戻れない場所を思い出すこと。
それは、ダメだとわかっていてもまた惹かれてしまうこと。
そして、それでも「We ain’t ever getting older」と、若さの魔法を信じてしまいたくなる夜。

The ChainsmokersとHalseyは、「Closer」を通して、“時間が止まる夜”の感情を、ポップというフォーマットの中で完全に再現してみせた。
だからこそ、この曲は一過性のヒットで終わらず、聴くたびに自分の“記憶の中の恋”を呼び起こす、永遠のアンセムとして響き続けている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました