1. 歌詞の概要
「Close One」は、イギリスのインディーポップバンドFIZZが2023年にリリースしたデビューアルバム『The Secret to Life』に収録された楽曲であり、バンドの持つ明るさとナイーブな感情表現が絶妙に融合した一曲である。
この楽曲は、日常の中でふと感じる危うさ、ギリギリで回避できた出来事、または感情の暴走寸前の瞬間を軽やかに、しかししっかりと描き出している。
タイトルの「Close One(危なかったね)」は、ちょっとしたトラブルや大ごとになりかねなかったことを冗談めかして振り返る言葉だが、FIZZはその裏にある、ほんの少しの後悔や安堵、そして自嘲までもすくい取っている。
歌詞は親しみやすく、友達同士の他愛ない会話のように進みながら、その中に人生の不確かさや繊細な感情がそっと忍ばせてある。
2. 歌詞のバックグラウンド
FIZZは、メンバーそれぞれが個別に活動してきたキャリアを活かし、ポップ、フォーク、オルタナティブを自在に行き来する独自の音楽性を確立している。
「Close One」もその柔軟なスタイルを存分に発揮した楽曲であり、制作時には「大げさに dramatize するのではなく、誰もが経験するような小さな危機や感情の高まりを、さりげなく、でもちゃんと音楽にしたい」という意識があったという。
この曲には、リスクを乗り越えた後のちょっとした笑い──「ああ、あれは本当に危なかったけど、今はもう大丈夫だ」という、ほっとした息遣いのようなものが宿っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics
“Close one, nearly lost it all”
危なかった、すべてを失うところだった“Close one, didn’t see the fall”
危なかった、転ぶなんて思わなかった“Close one, laughing through the fear”
危なかった、恐怖を笑い飛ばして“Close one, glad that you’re still here”
危なかった、でも君がここにいてよかった
これらのラインは、過去をユーモラスに振り返りながら、実はその裏にある感情の重みをしっかりと伝えている。
4. 歌詞の考察
「Close One」は、人生の中でふと訪れる”ヒヤリとした瞬間”を、ただの笑い話に終わらせず、その奥にある感情の複雑さをさりげなく描いている楽曲である。
「Close one, nearly lost it all」というラインには、「何も変わらずに済んだ」という安堵と同時に、「本当にすべてが変わってしまったかもしれなかった」という、ぞっとするようなリアリティが隠れている。
また、「Laughing through the fear」という表現は、恐怖や後悔を真正面から受け止めるのではなく、それを笑い飛ばすことで乗り越えようとする、現代的なサバイバル感覚を象徴している。
特に印象的なのは、「Close one, glad that you’re still here」という一節である。
ここには、ただ危機を回避したという事実だけでなく、その場に”大切な誰かが無事であること”への素直な感謝がにじんでいる。
この楽曲は、大げさなドラマを描くのではなく、あくまで小さな日常の中で感じるヒリヒリとしたリアリティを、FIZZらしい親しみやすさとともに、優しくすくい取っている。
サウンド面でも、軽快なリズムと少しだけほろ苦いメロディが絶妙にマッチしており、聴き終えた後には、まるで長い一日を終えた夜にふとこぼれる笑いのような余韻が残る。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Why Won’t They Talk to Me?” by Tame Impala
孤独と戸惑いを、軽快なサイケポップに乗せて描いた楽曲。 - “First Day of My Life” by Bright Eyes
小さな出来事が人生を変えるかもしれない、という気づきを静かに歌ったバラード。 - “Float On” by Modest Mouse
トラブル続きの日々の中でも「まあ、なんとかなるさ」と歌い飛ばすアンセム。 - “Island in the Sun” by Weezer
日常の喧騒から逃れて、平穏を求める軽やかなポップチューン。 -
“Budapest” by George Ezra
肩肘張らない冒険心と自由を、リラックスしたサウンドで包み込んだ楽曲。
6. 小さな危機も、笑い飛ばして
「Close One」は、FIZZが描く”日常のドラマ”を象徴する、さりげなくも深い一曲である。
生きていると、ほんの一瞬で何もかもが変わってしまいそうな瞬間に出会うことがある。
でも、たとえそれがどんなに危ういものであったとしても、過ぎてしまえば、笑い話に変わることだってある。
そして、そんな笑いの中にこそ、”生き延びた”という確かな実感が宿っている。
FIZZは「Close One」で、危機を乗り越えた後の、ささやかだけれどかけがえのない喜びを、軽やかに、そして優しく歌い上げた。
それは、人生のなかの”ちょっと危ない瞬間”を、愛おしく振り返るための、小さな祝福の歌なのである。
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