
発売日:2007年2月20日 ジャンル:Alternative Rock / Emo / Post-Hardcore
概要
フロリダ出身のAnberlinが2007年に発表した3作目のアルバムがCitiesである。前2作と同じくAaron Sprinkleがプロデュースを担当し、ギターを軸にしたオルタナティブ・ロックを保ちながら、音の強弱や空間の使い方、曲同士のつながりを大きく発展させた。初期のAnberlinにはポップ・パンクやエモに近い勢いがあったが、本作では単純にテンポの速さへ頼らず、静かな部分から大音量のサビへ移る構成や、複数のギターを重ねた厚い音像によってドラマを作っている。
Stephen Christianのボーカルも作品の性格を決める大きな要素である。高音域まで伸びる声は激しい演奏の上でも埋もれない一方、静かな曲では不安や疲労をにじませ、同じ歌唱法だけで押し切らない。歌詞には人間関係のすれ違い、自己認識、信頼、孤立などが繰り返し現れるが、状況を完全に説明するより断片的な言葉やイメージを組み合わせる曲が多い。そのため、個人的な告白のような近さを持ちながら、語り手をChristian本人と単純に同一視できない余白も残されている。
また、Citiesは曲単位の強さだけでなく、アルバムとしての起伏を意識した作品でもある。短い導入曲から一気にバンド演奏へ入り、中盤ではテンポや音数を落とし、終盤には長尺曲を置く。メジャー・レーベルへ移る前の最後のスタジオ・アルバムでもあり、初期Anberlinの速さと、その後さらに強くなるスケールの大きなロック・サウンドが接続した作品として聴くことができる。
全曲レビュー
1. 「(Début)」
1分ほどの短い導入曲で、通常のロック・ナンバーとして始めず、声と環境音的な響きを組み合わせながらアルバムへの入口を作る。単独で完結するというより、次曲の激しいバンド演奏を大きく感じさせるための助走として機能している。タイトル通り「始まり」を示す役割に徹した構成で、最初から本作が曲順を意識して作られていることを伝える。
2. 「Godspeed」
導入の静けさを切り裂くように、細かく刻むギターと前へ突進するドラムが飛び込んでくる。Stephen Christianも言葉を次々と押し出すように歌い、サビでは旋律を大きく開くため、速さと歌いやすさが両立している。歌詞には成功や名声、その裏側にある自己破壊を見つめるような視線があり、爽快な演奏とは反対に内容は暗い。この明暗のずれが曲を単純な疾走曲で終わらせていない。
3. 「Adelaide」
鋭いギターを前面に出しながら、「Godspeed」ほど速度だけで押さず、ボーカルのメロディを中心に組み立てた曲である。ヴァースでは演奏を比較的抑え、サビになるとギターとコーラスが広がることで、感情が一気に外へ向かうように聞こえる。歌詞では特定の相手との距離や関係の崩れが描かれ、親密さと苛立ちが入り交じる。強いサビを持つ一方、その前後に余白を作る構成が本作らしい。
4. 「A Whisper & a Clamor」
タイトルにある「ささやき」と「騒音」を、そのまま音量差へ置き換えたようなアレンジが特徴である。抑えた部分から歪んだギターが押し寄せる部分へ切り替わり、Christianの声もそれに合わせて緊張を強めていく。何かを伝えようとしても周囲の声に埋もれてしまうような感覚が歌詞とサウンドの両方にあり、情報や言葉が多すぎる状態そのものを音で表したような落ち着かなさが残る。
5. 「The Unwinding Cable Car」
それまでの大きなバンド・サウンドを引かせ、アコースティック・ギターと声を中心に据えることでアルバムの流れを大きく変える。旋律は穏やかだが、歌詞では自分自身をうまく保てない人物へ寄り添うような言葉が続き、単純な励ましよりも不安を抱えた相手との近い距離感が目立つ。Christianの歌唱も力で押さず、声の揺れや息遣いを残すため、前半の中でも特に人間的な温度を感じさせる。
6. 「There Is No Mathematics to Love and Loss」
題名が示す通り、愛情や喪失を計算可能なものとして整理できないという感覚を扱った曲である。演奏は再びエレクトリックな厚みを取り戻すが、ギターの層を重ねつつボーカルが通る空間を残しており、単純な音圧勝負にはならない。感情に明確な答えを与えようとするほど割り切れないものが残るという歌詞の考え方と、落ち着ききらず上下する曲の展開がよく合っている。
7. 「Hello Alone」
軽快に動くリズムと明るさを感じさせるメロディに対し、タイトル通り孤独を意識した言葉が置かれる。サビは非常に開放的で、Christianの高い声とギターの広がりによって大勢で歌えるような大きさを持つが、その中心にあるのは他者との断絶である。孤独を静かなバラードだけで表現せず、むしろ勢いのあるロックへ変換したことで、外から見える活力と内側の感情が一致しない面白さが生まれている。
8. 「Alexithymia」
感情を認識したり言葉にしたりすることの難しさを意味するタイトルが、曲の中心を端的に示している。ギターは細かなフレーズを繰り返しながら緊張感を保ち、リズム隊も完全には力を抜かないため、曲全体に居心地の悪い切迫感が続く。歌詞も感情をきれいに説明するのではなく、伝達そのものがうまくいかない状態を思わせる。題材と演奏の落ち着かなさが直接結びついた一曲である。
9. 「Reclusion」
低く重いギターと強いドラムによって、本作の中でも特に攻撃的な側面を見せる。ヴァースには張り詰めた感覚があり、サビで旋律が広がっても完全な解放には向かわず、緊張が残ったまま進んでいく。題名の「隔離」「隠遁」という意味とも重なる閉塞感があり、他人から距離を置くことが安全であると同時に別の苦しさを生むようにも読める。後半へ向けてアルバムの陰影を再び濃くする役割を担う。
10. 「Inevitable」
アコースティックな響きを中心にした穏やかな曲で、激しいギターが続く本作の中ではメロディそのものの美しさが前に出る。親密な相手との時間を手放したくないという気持ちが素直に表れ、ほかの曲に多い対立や断絶とは違う方向から人間関係を描いている。Christianも高音を誇示するより柔らかく旋律を運び、音を詰め込みすぎない。この控えめなアレンジによって、後半に必要な呼吸のスペースが生まれている。
11. 「Dismantle. Repair.」
静かな始まりから徐々に楽器を積み上げていく構成が、題名の「解体」と「修復」を音でも感じさせる。序盤ではボーカルを近く聞かせるが、進行するにつれてギターとドラムが厚くなり、終盤では感情が抑えきれなくなったような規模へ達する。人との関係によって自分の状態が崩され、同時に作り直されるという矛盾した感覚を読み取れる歌詞も、この段階的なアレンジによって説得力を増している。
12. 「(*Fin)」
7分を超える長さを使い、アルバムの最後を急いで閉じずにじっくりと着地させる。抑制された部分と大きく膨らむ部分を往復しながら進み、Christianの歌唱も次第に切迫していくため、終盤には通常のサビの反復以上の重みが生まれる。宗教的な言葉や救済を思わせる表現を含みつつ、意味を一つに限定せず、信頼や献身を求める声としても聞ける。冒頭が「Début」だったのに対し、フランス語で「終わり」を意味する題名を置くことで、12曲を一つの流れとして閉じている。
総評
Citiesの強みは、激しいギター・ロックと繊細な曲を単に交互に並べるのではなく、その落差自体をアルバムの表現へ変えている点にある。速い曲ではドラムとギターを密集させながら、サビではChristianのメロディが埋もれないように空間を作る。静かな曲では逆に楽器を減らし、声の細かな表情を聞かせる。この音量と密度の調整によって、似た編成の曲が続いても一本調子になりにくい。
作曲面でも、初期のAnberlinが持っていた勢いと、より大きなスケールを求める方向性がうまく共存している。短く即効性のある「Godspeed」のような曲がある一方、「Dismantle. Repair.」や「(*Fin)」では時間をかけて音を増やし、到達点を後半まで引き延ばす。特に終盤では「静かなヴァースから大きなサビへ」という定型だけではなく、曲そのものを徐々に変化させる発想が強くなっており、その後のAnberlinの幅広いサウンドにもつながる部分である。
歌詞では、他者との関係を求めながら同時にそこから傷つく人物が何度も現れる。孤独、伝達の失敗、喪失、信頼といった題材はエモやオルタナティブ・ロックでは珍しくないが、本作は状況を説明しすぎないことで、単純な失恋や自己告白へ限定されない余白を作っている。Christianの声もその曖昧さに合っており、力強く歌う場面でも完全な自信より切迫感が先に聞こえることが多い。
2000年代のエモ/ポスト・ハードコア周辺の作品として聴けば、Citiesには時代特有の大きなサビや歪んだギターがはっきり刻まれている。しかし、アコースティック曲や長尺の終曲まで含めてアルバム全体の速度を調整したことで、当時のスタイルだけには収まらない作品になった。Anberlinの初期三作で磨いてきたメロディの強さを保ちながら、曲順、音の空間、長い展開まで表現の一部にしたことが、本作がキャリアの節目として評価される大きな理由である。
おすすめアルバム
Never Take Friendship Personal by Anberlin
Citiesの一つ前にあたる2005年作。鋭いギターとChristianの高音ボーカルという基本形はこちらですでに確立している。より直接的で勢いのある前作と比較すると、Citiesでアレンジの起伏や空間の使い方がどれほど広がったかが分かりやすい。
New Surrender by Anberlin
メジャー移籍後の2008年作で、Citiesの大きなサビと緻密な音作りをさらに整えた方向にある。楽曲ごとの輪郭はより明快になり、スタジアム級の広がりを意識したようなロックへ進むため、Cities以降の変化を追うのに適している。
Vheissu by Thrice
2005年に発表された、ポスト・ハードコアを出発点に音響的な広がりを追求した作品。静けさから轟音へ移る構成や、精神的・宗教的なイメージを含む歌詞などにCitiesと共通点がある一方、より暗く実験的な方向へ踏み込んでいる。
They’re Only Chasing Safety by Underoath
同じフロリダのシーンから登場したUnderoathの2004年作。スクリームを含むためAnberlinよりはるかに激しいが、重いギターと強いメロディを同じ曲の中で成立させる感覚には近さがあり、2000年代半ばの周辺シーンを知るうえでも比較しやすい。
The Devil and God Are Raging Inside Me by Brand New
2006年発表。静かな緊張から巨大なギターへ変化する構成や、人間関係と自己認識を簡単な結論へ着地させない歌詞はCitiesと重なる。Brand Newの方が暗く不安定だが、同時代のギター・ロックがエモの枠を広げていった流れを比較できる作品である。

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