発売日: 2007年10月23日
ジャンル: フォーク・ロック、ハード・ロック、オルタナティヴ・カントリー
夢は続くか——Neil Young、過去と未来をつなぐ“幻の続編”
『Chrome Dreams II』は、Neil Youngが2007年に発表した28作目のスタジオ・アルバムであり、1977年に未発表となった幻のアルバム『Chrome Dreams』の“精神的続編”として位置づけられる作品である。
内容的には直接の再構成というよりも、70年代後半から書かれていた未発表曲と新曲が入り混じった“時空を超えたコラージュ”のような構成。
Crazy Horseに代わってRick Rosas(b)、Chad Cromwell(dr)らと結成した新バンド“Promise of the Real”の原型的布陣によって、フォーク、ハード・ロック、ゴスペルが交錯する多彩な音世界が展開される。
“Chrome Dreams”というタイトルが示すとおり、本作は未完の夢、捨てきれなかった希望、そして歩き続けることそのものの意味を問うアルバムとして、ヤングのキャリア後半を象徴する意欲作となった。
全曲レビュー
1. Beautiful Bluebird
『Old Ways』期に書かれたとされる、穏やかなアコースティック・カントリー。 青い鳥は幸福の象徴でもあり、優しい再出発の予感に満ちている。
2. Boxcar
もともとは『Chrome Dreams』に入るはずだった未発表曲。貨物列車に揺られるようなスウィング感が心地よく、放浪と自由を象徴する一曲。
3. Ordinary People
本作の核心。1988年頃から演奏されていた18分超の大作で、ホーン・セクションを伴ったブルース・ロックと語り口調の歌詞で、“普通の人々”の苦闘と希望を淡々と描き出す。
4. Shining Light
シンプルなコード進行と素朴な歌声が光る、愛と癒しを歌うスピリチュアルな小曲。 ゴスペル的な安心感が漂う。
5. The Believer
軽快なリズムと爽やかなメロディで、“信じる力”の尊さを讃える一曲。楽観と再生をテーマにしたヤング流ポップ。
6. Spirit Road
ラウドなギターとドライヴ感のあるリズムが印象的なロックナンバー。混沌とした現代社会の中で、魂の道を探すような一曲。
7. Dirty Old Man
皮肉とユーモアに満ちたグランジ風ロック。“汚い老人”という自虐的なタイトルと歌詞が痛快で、ニールの“老いてなお現役”ぶりを誇示しているかのよう。
8. Ever After
過去と未来、生と死を繋ぐようなバラード。“死後”の世界を思わせるタイトルに反して、柔らかく慈しみに満ちたトーンが心に残る。
9. No Hidden Path
本作のもうひとつの大作で、約14分にわたってスピリチュアルなギター・ジャムと瞑想的なリリックが交差する、まさに“果てしない道”の音楽的表現。
10. The Way
少年合唱団との共演による感動的なクロージング。未来と希望を子どもたちの声に託すような、ヤングの優しい視線が印象的。
総評
『Chrome Dreams II』は、Neil Youngが“過去の夢”を未来に向けて再提示した、時間を超えるロックの叙事詩である。
70年代から眠っていた曲、今だから書けた詞、若い声との共演——それらが1枚に収められることで、このアルバムは“記録”であると同時に、“祈り”にもなっている。
派手さや新奇さはない。だがその分、音楽の持つ誠実さと“続けること”の意味を、静かに、しかし力強く訴えかけてくる。
“Chrome Dreams”という未完の理想に、ヤングは新たな息吹を吹き込んだのだ。
おすすめアルバム
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Chrome Dreams (1977 未発表)
本作の“前編”とも言える幻のアルバム。ブート音源でもその魅力は圧倒的。 -
Freedom / Neil Young
過去と現在を繋ぐ“再出発”の傑作。本作と同様のコンセプトを持つ。 -
Greendale / Neil Young
物語と音楽を融合させた叙事詩的アルバム。“語り”という手法に共通点あり。 -
The River / Bruce Springsteen
“普通の人々”の夢と現実を描いたロック叙事詩。『Ordinary People』と響き合う。 -
Wrecking Ball / Emmylou Harris
過去の響きと現代の音が交錯する、霊的で重厚なアメリカーナ作品。
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