アルバムレビュー：Children by The Mission

発売日: 1988年2月29日
ジャンル: ゴシック・ロック、ハードロック、ポストパンク、ネオサイケデリア

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Children』は、The Missionが1988年にリリースした2作目のスタジオ・アルバムであり、
ゴシック・ロックの象徴的サウンドにアリーナ・ロック的スケール感を融合させた、バンドの最重要作のひとつである。

前作『God’s Own Medicine』でシスターズ・オブ・マーシー直系の荘厳な美学を打ち立てた彼らは、
本作でより壮大に、よりメロディアスに、ロマン主義的な叙事詩と感情の爆発を両立させる方向へと進化した。

プロデュースには、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズを起用。
これによりサウンドはよりダイナミックに、ギターとリズムセクションは**ゴシックの殻を破った“荘厳なロック・アンサンブル”**へと変貌を遂げた。

宗教性、性、神話、記憶、逃避──本作には、Wayne Husseyによる詩的で劇的な言葉と、音の儀式が渾然一体となって息づいている。

全曲レビュー

1. Beyond the Pale

教会音楽のようなオルガンとコーラスで幕を開ける壮大なオープニング。

タイトルの“Beyond the Pale”は「許容範囲を越えて」「境界の外へ」といった意味で、
ゴシック・ロックのテーマである“秩序からの逸脱”が象徴されている。

スケールの大きさとメロディの叙情性が共存する、開幕から圧巻の一曲。

2. A Wing and a Prayer

重たいベースとリバーブの深いギターが、祈りと皮肉が入り混じる世界観を描き出す。

“信じること”と“信じ切れないこと”の間で揺れ動く語り口は、宗教的イメージを纏いながらも非常に人間的。

“祈るしかない不完全な存在”としての人間像が滲む。

3. Fabienne

本作の中でも異色の、穏やかでミニマルなアレンジによる小品。

“Fabienne”という女性像は、理想と現実、幻想と記憶が入り混じった象徴的なミューズのように描かれる。

シンプルな構成ながら、**アルバムの感情の振幅を調整する重要な“間”**を担っている。

4. Heaven on Earth

ゴシックの儀式性とハードロック的ドライヴが融合した、アリーナ級のアンセム。

「天国を地上に」というタイトルの裏に、現実世界における愛と救済の欠落が強調されている。

Husseyの情念が噴出するサビと、陶酔的なギターリフのコンビネーションが圧倒的。

5. Tower of Strength

The Missionの代表曲にして、80年代ゴシック・ロックの殿堂入り的アンセム。

大仰なコーラスと静と動のダイナミクスを活かした構成は、まさに宗教儀式のような音の体験。

“あなたは僕の力の塔”という歌詞は、救済と依存、祈りと自己喪失の狭間を描く。

シングルとしてもヒットし、今なおライブでの定番。

6. Kingdom Come (Forever and Again)

壮大なギター・アンセム。タイトルは黙示録的な「来たるべき王国」を意味する。

愛や理想郷の喪失と、それでも求め続ける意志を歌っており、音楽的にはアリーナ・ロックとニューウェイブの折衷。

スケール感とメロディのフックが際立つ一曲。

7. Breathe

アルバム中盤に配置された、内省的で静かなバラード。

「呼吸するだけで、君を思い出す」といった言葉からは、不在と喪失がどれほど人を包囲するかが浮かび上がる。

ドラムとギターが抑制され、詩が前に出る構成も本作では異色。

8. Child’s Play

童心や無垢をテーマにしたタイトルながら、むしろその“失われた純粋性”を嘆くような逆説的内容。

ゴシック・ロックならではの冷ややかさと、内面の飢えが描かれている。

ギターのディレイと透明感あるコード進行が、不穏な美しさを生んでいる。

9. Shamera Kye

民族音楽的なリズムを取り入れた実験的インストゥルメンタル。

エキゾチックなパーカッションとシンセ、ギターの絡みが異世界的な空気を醸し、
アルバム全体の物語性に“越境感”を加える。

バンドのイメージ拡張として機能するトラック。

10. Black Mountain Mist

おそらくスコットランド〜ケルト神話的イメージをもつタイトルで、“霧の山”が象徴するのは記憶や忘却、死の領域。

曲調は幻想的かつ内向的で、音の奥行きが深く、夢と現実の境界が曖昧になるような空間性をもった楽曲。

The Missionのポエティックな一面が最も表出するトラックのひとつ。

11. Dream On

アルバムをしめくくる、再生と希望を仄めかすスロー・チューン。

「夢を見続けろ」というメッセージは、現実逃避ではなく、生き延びるための祈りとして響く。

徐々に盛り上がるサウンドとともに、“人生は儀式であり物語である”という本作のテーマを回収するような終幕。

総評

『Children』は、The Missionが単なる“ゴシックの伝承者”にとどまらず、自らのサウンドと神話を拡張したアルバムであり、
シスターズ・オブ・マーシー的退廃性と、レッド・ツェッペリン的スケールの融合という大胆な試みが成功を収めた作品である。

そこには宗教性と官能、神話と現実、失われたものと未だ叶わぬものが混ざり合い、
Wayne Husseyの言葉と演奏によって、愛と救済を巡る“終わらない物語”として結晶化している。

本作を通してThe Missionは、自らのアイデンティティを明確に確立すると同時に、80年代UKゴシック・ロックの美学をアリーナ級のスケールへと押し広げた。