Chicago by Sufjan Stevens(2005)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Sufjan Stevensの「Chicago」は、2005年にリリースされたアルバム『Illinois(イリノイ)』に収録されている楽曲であり、彼のキャリアを代表する作品のひとつである。この曲は、地名をタイトルに持ちながら、単なる都市の讃歌にとどまらず、人生の旅路、成長、後悔、そして赦しを巡るパーソナルな叙事詩として機能している。

歌詞では、“I made a lot of mistakes”というリフレインを中心に、自分の若き日の過ちとそこからの自己再生が描かれている。主人公はシカゴへ向かう旅の中で、自分の信念や価値観を問い直し、過去を許すことの大切さに気づいていく。都市としてのシカゴは、その象徴的な風景というよりも、精神的な移動の終着点、あるいは新たな出発点として登場する。

楽曲のスケール感と内省的な言葉が絶妙に交差しており、リスナー自身の人生と重ね合わせて聴くことができる普遍性を持っている。また、宗教的な含意やスピリチュアルな視点も随所に見られ、Sufjan Stevensの世界観が凝縮された名作である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Chicago」が収録された『Illinois』は、Sufjan Stevensによる“50州プロジェクト”の一環として制作されたアルバムであり、アメリカの各州を題材にした作品群のひとつとされている(実際にはミシガンとイリノイの2作で構想は終了しているが)。このアルバムは、歴史、地理、都市伝説、個人的記憶などを織り交ぜた複雑かつ詩的な作品で、フォーク、クラシック、ポップ、宗教音楽といったさまざまなジャンルを横断する多層的なサウンドが特徴となっている。

「Chicago」は、その中でも最もポピュラリティの高い曲であり、Sufjanのライブでもたびたび演奏されているほか、映画やテレビドラマなどでも多く使用されてきた。この楽曲はSufjan自身の青年期の旅の記憶をベースにしているとされ、当時の混乱や自由への渇望、信仰の揺らぎなどが織り込まれている。

また、この曲には、Sufjan Stevensが自身の宗教的背景(彼は敬虔なキリスト教徒である)と、芸術家としての自由、そして人生の目的について深く考える時期に書かれたという背景がある。そのため、歌詞には自己告白的なトーンと共に、祈りにも似た誠実さが通底している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Chicago」の印象的な一節を抜粋し、日本語訳とともに紹介する。

引用元:Genius Lyrics

I fell in love again
また恋に落ちたんだ

All things go, all things go
すべては過ぎ去っていく、すべては流れていく

Drove to Chicago
シカゴまで車を走らせた

All things know, all things know
すべては知っている、すべては気づいている

I made a lot of mistakes
たくさんの過ちを犯してきた

I made a lot of mistakes
数えきれないほどの間違いをしたんだ

You came to take us
君は僕たちを迎えに来た

All things go, all things go
すべては流れていく、そうして続いていく

この繰り返しの中に、彼の後悔と浄化、そして再生への祈りが込められている。

4. 歌詞の考察

「Chicago」の歌詞は、表面的には若者の逃避行のようにも見えるが、その実、自己との対話を深める内省の旅である。特に“Drove to Chicago”という行動は、自由を求めて外の世界に出る象徴的な行為であり、都市=自由のメタファーとして描かれている。しかしその自由は、すぐに自分の未熟さや限界にぶつかることにもつながる。

“I made a lot of mistakes”というフレーズが何度も繰り返される点は非常に重要で、それは悔いの告白であると同時に、自分を許すためのプロセスでもある。このようなリフレインを用いることで、Sufjanは個人的な経験を普遍的なテーマ──成長、後悔、赦し、再出発──として昇華している。

さらに、“You came to take us”という一節には、宗教的な含意が濃く感じられる。ここでの“you”は神やイエス・キリストと解釈することも可能であり、人生の旅の途中で“救い”がやってくるという希望のメッセージが込められている。

「Chicago」は、単なる過去の回想ではなく、その記憶と向き合いながら“自分はどこへ向かうのか”という未来への問いを投げかける構造を持っている。そしてその旅は、終わることなく続いていく。だからこそ、「All things go」という言葉は、喪失や変化に対する諦念ではなく、それらを受け入れる覚悟として響くのである。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • New Slang by The Shins
    青春の孤独と自己の再発見を描いたフォーク・ロックの名曲。静かな語り口と普遍的な感情が共通している。

  • Lua by Bright Eyes
    内省的な歌詞とミニマルな演奏が際立つ、都会の孤独を描いた楽曲。Sufjanの感情表現と共鳴する。

  • Casimir Pulaski Day by Sufjan Stevens
    同じ『Illinois』収録の楽曲で、宗教と死、祈りについて深く掘り下げた作品。歌詞の重厚さが際立つ。

  • First Day of My Life by Bright Eyes
    新たな始まりと希望をテーマにしたアコースティックなラブソング。Sufjanの作品と同じく親密な語り口。

  • Re: Stacks by Bon Iver
    内面的な葛藤と再生をテーマにした静謐な楽曲。Sufjanファンにとって共感度の高い作品。

6. シカゴという都市を超えた“精神の場所”

「Chicago」は、都市の名を冠しながらも、地理的な旅というよりも“精神の旅”を描いた作品である。この楽曲におけるシカゴは、単なる目的地ではなく、成長、後悔、祈り、赦しといった人間の根源的な感情が交錯する“象徴的な場所”として機能している。

Sufjan Stevensは、この曲を通して聴き手に問いを投げかける──「あなたは、何を背負い、どこへ向かっているのか?」。その問いは非常に個人的であると同時に、誰しもが避けては通れない普遍的な問いでもある。

シカゴという都市を通じて描かれる心の風景は、時代や国を超えて多くの人々に共鳴し、だからこそこの曲は、リリースから20年近くを経た今もなお、多くのリスナーの“心の旅路”を静かに、しかし確かに照らし続けているのである。

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