発売日: 2007年10月9日
ジャンル: インディー・ロック, オルタナティブ・ロック
Band of Horsesのセカンドアルバム『Cease to Begin』は、2007年にリリースされ、前作『Everything All the Time』で築いたサウンドをさらに進化させた。彼らは、さらに温かみのあるサウンドスケープを作り出し、アメリカーナやカントリーロックの影響を深く取り入れている。バンドは新しいメンバーで再編成され、リーダーのベン・ブリッドウェルを中心によりフォーカスされた音楽を展開している。本作はノースカロライナの南部の自然や、人間関係の儚さに触れる歌詞が多く見られ、どこか牧歌的な雰囲気が漂っている。
プロデューサーのフィル・エクが再び起用され、前作同様、エコーの効いたボーカルと広がりのあるギターサウンドが大きな特徴となっている。しかし、今回はより親しみやすいメロディや、シンプルなアレンジが多く、どこかノスタルジックな情景を感じさせるアルバムに仕上がっている。全体を通して、感情的な深みを持ちながらも、アルバム全体がリラックスしたトーンで貫かれているため、日常の中でふと耳を傾けたくなる作品だ。
それでは、アルバムの各トラックを詳しく見ていこう。
1. Is There a Ghost
アルバムの幕を開けるこの曲は、リズミカルなギターリフとシンプルなリリックが印象的な曲だ。「I could sleep / I could sleep」と繰り返される歌詞は、シンプルでありながらも強烈な印象を残す。曲が進むにつれてバンドのエネルギーが増し、ブリッドウェルのボーカルが徐々に力強さを増していく。短い曲ながらも、オープニングとしてのインパクトは絶大だ。
2. Ode to LRC
続くこのトラックは、より明るいテンポの楽曲。カントリー調のギターサウンドが美しく、南部の大自然を感じさせるような開放感がある。歌詞には「The world is such a wonderful place」といった前向きなフレーズが含まれており、人生の一瞬一瞬を噛み締めるようなメッセージが込められている。バンドの新たな方向性を感じさせる一曲。
3. No One’s Gonna Love You
アルバムのハイライトのひとつであり、バンドの代表曲のひとつとも言えるバラード。この曲は、優しくも切ないメロディラインと、感情を揺さぶるリリックが特徴だ。「No one’s gonna love you more than I do」というリフレインは、痛切なまでの愛の表現を感じさせ、特にメロディとリバーブのかかったブリッドウェルのボーカルが感動的だ。恋愛における喪失感や孤独が、この美しい曲で巧みに表現されている。
4. Detlef Schrempf
ゆったりとしたリズムと穏やかなギターが心地よいこの曲は、心の内を静かに見つめるような雰囲気を持っている。タイトルにある元NBA選手の名前は、直接的には楽曲の内容とは関係がないが、何か特別な個人的な意味が込められているのかもしれない。歌詞には、後悔や反省といったテーマが見え隠れし、淡々とした曲調の中に深い感情が流れている。
5. The General Specific
軽快で、アップテンポなカントリーロックナンバー。バンジョーやアコースティックギターの響きが心地よく、ダンスしたくなるようなリズムが特徴だ。歌詞には日常の小さな出来事に対する喜びが描かれており、バンドが持つ牧歌的なサウンドが際立っている。
6. Lamb on the Lam (In the City)
インストゥルメンタルに近いこの曲は、短いながらも強い存在感を放つ。シンプルなギターラインが中心となり、ブリッドウェルの軽やかなボーカルが乗る。都会の喧騒の中で感じる孤独感や静寂が表現されている。
7. Islands on the Coast
エネルギッシュなギターリフが印象的なロックナンバーで、バンドのダイナミックな一面が垣間見える曲。南部の自然を思わせる歌詞と力強いサウンドが融合し、どこか荒々しい印象を与える。バンドの多面的なサウンドを楽しめる一曲。
8. Marry Song
シンプルなピアノとギターが心地よく、穏やかなラブソングとしてアルバムの中でも異彩を放つ曲。「Marry me」と繰り返されるコーラスが、結婚や永遠の愛に対する純粋な願いを表現している。リズムが穏やかであり、リスナーに安らぎを与える。
9. Cigarettes, Wedding Bands
この曲はアルバムの中でも特に激しさが際立つ。ギターの力強いリフが鳴り響き、バンドのエネルギーが全開になる瞬間だ。歌詞は少し皮肉的で、結婚式や喫煙の習慣といった、どこかありふれた日常の出来事に対して冷静な視点を投げかけている。
10. Window Blues
アルバムの最後を飾るこの曲は、どこか物憂げで、ゆったりとしたペースで進む。リリックには別れや旅立ちが暗示され、静かなギターの響きとともに深い感傷を抱かせる。ブリッドウェルのボーカルが終始穏やかに響き、アルバム全体のエモーショナルな旅を締めくくるにふさわしい。
アルバム総評
『Cease to Begin』は、『Everything All the Time』のドリーミーなサウンドを引き継ぎつつも、よりシンプルで親しみやすい方向に進化したアルバムだ。「No One’s Gonna Love You」や「Detlef Schrempf」のような感情的なバラードから、「The General Specific」のような軽快なトラックまで、バンドの幅広いサウンドが楽しめる。全体として、アルバムは南部の風景や日常の小さな喜びに触れながら、リスナーに優しさと感傷を届ける。感情的でありながらもリラックスしたこのアルバムは、日々の生活の中でふとした瞬間に響く作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- 『Weathervanes』 by Freelance Whales
インディーロックとフォークが融合したサウンドで、自然と日常をテーマにした歌詞が共鳴する。エレクトロニカの要素もあり、『Cease to Begin』の牧歌的な雰囲気を楽しむリスナーにぴったり。 - 『The Wild Hunt』 by The Tallest Man on Earth
アコースティックなサウンドと繊細な歌詞が特徴的なフォークアルバム。感情を深く揺さぶる歌声が、『Cease to Begin』のエモーショナルなトラックに通じる。 - 『Boxer』 by The National
内省的でメランコリックなサウンドが魅力のアルバム。人生の儚さや喪失をテーマにした歌詞が、『Cease to Begin』の感傷的なトーンと共鳴する。 - 『Veckatimest』 by Grizzly Bear
複雑なアレンジとドリーミーなサウンドスケープが特徴のアルバム。バンドの独自のサウンドが好きな人に、豊かな音の世界を提供してくれる。 - 『Heartbreaker』 by Ryan Adams
アメリカーナとロックが融合した作品で、恋愛や失恋のテーマが多く描かれている。『Cease to Begin』の感情的な側面に引き込まれたリスナーにおすすめの1枚。
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