Cause We’ve Ended as Lovers by Jeff Beck（1975）楽曲解説

1. 曲の概要

“Cause We’ve Ended as Lovers“は、**Jeff Beck（ジェフ・ベック）**が1975年にリリースしたアルバム『Blow by Blow』に収録された、最も美しく感情的なギター・インストゥルメンタルのひとつです。

この曲は、スティーヴィー・ワンダーが作曲し、元々は彼の妻であるシリータ・ライトの1974年のアルバム『Stevie Wonder Presents: Syreeta』のために書かれた楽曲です。しかし、ジェフ・ベックがこれをカバーし、完全なインストゥルメンタル・アレンジで演奏したことで、彼の代表曲の一つとなりました。

エレキギターの甘美で切ないトーンが印象的で、ジェフ・ベックのギタープレイが持つ感情表現の豊かさを存分に味わえる楽曲です。

2. 楽曲の背景

1975年にリリースされた『Blow by Blow』は、ジェフ・ベックがインストゥルメンタル・ギターアルバムという新たな挑戦を試みた作品であり、ロック、ジャズ、ファンクの要素を融合させた画期的な作品でした。アルバムは全編インストゥルメンタルで構成されており、ジェフ・ベックのギターがボーカルの代わりとなり、「歌うような」プレイスタイルが際立っています。

この曲のカバーを決めた背景には、ジェフ・ベックとスティーヴィー・ワンダーの親交があります。スティーヴィーは1970年代初頭からジェフ・ベックのファンであり、ベックもスティーヴィーの音楽を高く評価していました。スティーヴィー・ワンダーは実際に『Blow by Blow』の別の収録曲「Thelonious」にもクレジットされており、アルバムの制作に協力しています。

また、ジェフ・ベックはこの曲を**ロイ・ブキャナン（Roy Buchanan）**に捧げる形で演奏しました。ロイ・ブキャナンは、テレキャスターを駆使した表現力豊かなギタリストで、ジェフ・ベックも彼のスタイルに大きな影響を受けています。

3. サウンドの特徴とギタープレイ

“Cause We’ve Ended as Lovers”の最大の特徴は、ジェフ・ベックのギターがまるで人間の声のように泣き、語りかけるようなプレイスタイルです。

① 感情を込めたチョーキングとスライド

ジェフ・ベックはこの曲でフィンガーピッキング（ピックを使わず指で弾くスタイル）を採用し、繊細なタッチで弦をコントロールしています。
サスティーン（音の伸び）を活かしたスムーズなチョーキングや、ヴィブラートのかけ方が、まるで「泣いている」ような感覚を生み出しています。

② クリーンで温かみのあるトーン

使用ギターはギブソン・レスポール、アンプはフェンダー系のクリーンなサウンドを持つものが多く使用されました。
歪みを極力抑えたウォームなトーンが特徴的で、ギターの音が「声」のように滑らかに歌うような印象を与えます。

③ エモーショナルなダイナミクス

ジェフ・ベックはこの曲の演奏において、音量のコントロールを巧みに使い分けることで、まるでギターが「語っている」ような表現を生み出しています。
特に静かな部分から一気に盛り上がるクライマックスへの流れは、まるで一つの物語を聞いているかのような感覚をリスナーに与えます。

4. 曲のテーマと感情的な表現

“Cause We’ve Ended as Lovers”（「だって僕たちは恋人として終わったんだ」）というタイトルが示す通り、この曲は別れの悲しみをテーマにしています。

オリジナルのシリータ・ライト版の歌詞では、愛が終わりを迎えたことの痛みと、それでも相手を思い続ける切なさが描かれています。ジェフ・ベックはこの曲をインストゥルメンタルで表現することで、言葉では語りきれない感情の深さをギターで描き出しました。

特に、楽曲のクライマックスに向けて盛り上がる展開は、まるで心が張り裂けるような感情の爆発を表現しているかのようです。言葉がなくても、聴く者はその感情をありありと感じ取ることができる。それこそが、ジェフ・ベックのギターが持つ魔法のような力です。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

“Where Were You” by Jeff Beck
- 同じくギターの表現力が際立つインストゥルメンタルで、エモーショナルな演奏が光る。
“Because We’ve Ended as Lovers” by Syreeta Wright
- この曲のオリジナルバージョンで、歌詞の内容を知ることでジェフ・ベックの演奏の深みがさらに理解できる。
“Parisienne Walkways” by Gary Moore
- 哀愁漂うメロディと泣きのギターが特徴的で、ジェフ・ベックのプレイと通じるものがある。
“Sleep Walk” by Santo & Johnny
- インストゥルメンタルの名曲で、ギターの表情豊かな表現を楽しめる。
“The Messiah Will Come Again” by Roy Buchanan
- ジェフ・ベックが敬愛したロイ・ブキャナンの代表曲で、泣きのギターの極致ともいえる作品。

6. 『Cause We’ve Ended as Lovers』のユニークな特徴

この曲の最大の特徴は、ギターが完全に「ボーカル」の役割を果たしていることです。ジェフ・ベックは、一般的なギタリストのように速弾きや複雑なフレーズを多用するのではなく、一音一音に込めた感情の深さで勝負しています。

また、この曲は単なるロックやジャズの枠を超えた、感情表現の究極形とも言える作品です。歌詞がなくても、ギターの音色だけで別れの切なさや未練をこれほどまでに表現できるのは、ジェフ・ベックならではの才能でしょう。

結論

“Cause We’ve Ended as Lovers“は、ギターが持つ感情表現の可能性を極限まで引き出した名曲であり、ジェフ・ベックのキャリアの中でも最も象徴的な楽曲の一つです。その温かくも切ないメロディと、まるでギターが泣いているかのような表現は、何度聴いても心を揺さぶるものがあります。

この曲を通じて、ジェフ・ベックがいかに「ギターで語る」ことができるミュージシャンであったかを再認識できるでしょう。