アルバムレビュー:Cass County by Don Henley

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2015年9月25日

ジャンル:カントリー、カントリー・ロック、アメリカーナ、ソフト・ロック、ルーツ・ロック

概要

Don Henleyの『Cass County』は、2015年に発表された通算5作目のソロ・アルバムであり、2000年の『Inside Job』以来15年ぶりとなるスタジオ作品である。Eaglesのドラマー/ヴォーカリストとして、またソロ・アーティストとしても大きな成功を収めてきたHenleyにとって、本作は単なる復帰作ではなく、自身の音楽的出自をあらためて見つめ直すアルバムである。タイトルの「Cass County」は、彼の故郷であるテキサス州北東部の地名であり、作品全体はその土地の記憶、南部的な空気、カントリー・ミュージックの伝統へ深く根ざしている。

Don Henleyといえば、Eaglesにおける「Desperado」「Hotel California」「Life in the Fast Lane」「The Long Run」などで知られ、西海岸ロックの洗練、カントリー・ロックの拡張、都市的な孤独やアメリカ的成功の影を描く歌詞で重要な役割を果たした人物である。ソロ期には「Dirty Laundry」「The Boys of Summer」「The End of the Innocence」などで、1980年代的なプロダクションと社会批評的な視点を組み合わせ、Eaglesとは異なる形で時代性を捉えた。しかし『Cass County』では、そうした都会的・批評的なソロ像よりも、幼少期から身近にあったカントリー、ゴスペル、サザン・ソウル、フォーク、テキサス周辺のルーツ音楽が前面に出ている。

本作は、Don Henleyが初めて本格的にカントリー・アルバムとして制作した作品といえる。ただし、ここでのカントリーは、現代ナッシュヴィルの商業的フォーマットにそのまま寄せたものではない。むしろ、Eagles初期のカントリー・ロック、1970年代のシンガーソングライター、伝統的なカントリー・デュエット、サザン・ゴスペル、ブルーグラス的な響き、そして現代アメリカーナが交差する、非常に広い意味でのルーツ・アルバムである。音は丁寧に作り込まれているが、派手なデジタル処理よりも、アコースティック・ギター、ペダル・スティール、フィドル、マンドリン、控えめなドラム、そして声の重なりが重要な役割を担っている。

また、本作には豪華なゲストが多数参加している。Mick Jagger、Miranda Lambert、Merle Haggard、Dolly Parton、Martina McBride、Trisha Yearwood、Vince Gill、Alison Krauss、Lucinda Williamsなど、ロック、カントリー、ブルーグラス、アメリカーナの多様な領域から声が集められている。これは単なる話題作りではなく、Henleyが自分の故郷と音楽的血脈を再構成するための共同作業として機能している。特にデュエット曲では、Henleyのやや硬質で深い声と、女性シンガーたちの伸びやかな声が対照を作り、古典的なカントリー・デュエットの伝統を現代的に引き継いでいる。

歌詞面では、故郷、家族、過去の記憶、老い、愛の持続、喪失、アメリカ社会への視線、そして人生の終盤に近づいた者の省察が中心となる。若いロック・スターが成功や欲望を歌うアルバムではなく、長いキャリアを経たアーティストが、自分がどこから来たのか、何を失い、何を残すのかを静かに問い直す作品である。『Cass County』というタイトルは、地理的な場所を示すだけでなく、Henleyの内面にある原風景そのものを示している。

音楽史的には、本作はEaglesが切り開いたカントリー・ロックの流れを、本人が晩年の視点から再訪する作品として位置づけられる。1970年代のEaglesは、The Byrds、Flying Burrito Brothers、Pocoなどが築いたカントリー・ロックを、より洗練されたソングライティングとハーモニーでメインストリームへ広げた。『Cass County』では、その西海岸的な洗練が、より南部的・テキサス的な土の匂いへ戻されている。つまり本作は、HenleyがEagles以前の自分、またEaglesを生んだ音楽的土壌へ帰っていくアルバムなのである。

全曲レビュー

1. Bramble Rose

オープニングを飾る「Bramble Rose」は、Tift Merrittの楽曲を取り上げたナンバーであり、Mick JaggerとMiranda Lambertが参加している。アルバム冒頭から複数の声が交差する構成は、『Cass County』がDon Henleyの個人的な回想録であると同時に、アメリカン・ルーツ・ミュージックの共同体的な作品であることを示している。

タイトルの「Bramble Rose」は、棘のある薔薇を思わせる言葉で、美しさと痛み、愛と傷、自然の儚さを同時に含んでいる。歌詞では、愛の記憶や喪失、人生の旅路が詩的に描かれる。Henleyの声は低く落ち着いており、そこにMick Jaggerの意外なほどカントリーに馴染むヴォーカル、Miranda Lambertの現代カントリーらしい強さと透明感が加わることで、世代とジャンルをまたぐ楽曲になっている。

サウンドはアコースティックな質感を中心としながら、十分に洗練されている。ペダル・スティールやギターの響きは、Eagles的な西海岸の滑らかさよりも、より土の匂いを持つ。冒頭曲として、この曲はアルバムのテーマである故郷、記憶、年齢を重ねた愛、そして複数の声による継承を静かに提示している。

2. The Cost of Living

「The Cost of Living」は、Merle Haggardとのデュエットであり、本作の中でも最も象徴的な楽曲のひとつである。Merle Haggardは、労働者階級、刑務所経験、アメリカ西部、保守的な価値観と複雑な反骨精神を背負ったカントリーの巨人であり、彼の参加は『Cass County』に深い歴史的重みを与えている。

タイトルは「生活費」を意味するが、ここでは単なる経済的なコストだけでなく、生きることそのものに伴う代償がテーマになっている。年齢を重ねること、家族を養うこと、働き続けること、失敗を抱えること、愛する人を失うこと。そうした人生の重さが、直接的で分かりやすい言葉の中に込められている。

HenleyとHaggardの声の組み合わせは非常に効果的である。Henleyの声にはロック・シンガーとしての硬質な知性があり、Haggardの声にはカントリーの現場から来た人生の重みがある。二人の声が重なることで、この曲は単なる郷愁ではなく、アメリカの労働者的な現実を見つめる歌になる。アルバムの中で、カントリー・ミュージックが持つ社会的な語りの力を最も強く示す曲である。

3. Take a Picture of This

「Take a Picture of This」は、記憶と喪失をテーマにした楽曲である。タイトルは「これを写真に撮っておけ」という意味を持つが、歌詞の中では、写真が記憶を保存する道具であると同時に、失われたものを完全には取り戻せないことの象徴として機能している。Henleyはソロ期においても、個人的な記憶と時代の変化を重ねて描くことを得意としてきたが、この曲でもその資質が表れている。

サウンドは穏やかで、ややAOR的な滑らかさも持つ。カントリー色は強いが、完全に伝統的な形式へ寄せるのではなく、Don Henleyらしいメロディアスなロック・バラードとして成立している。ギターやスティールの音色は控えめで、歌詞の情景を邪魔しない。

歌詞では、かつて存在した関係や家族の時間が、写真のイメージを通して描かれる。写真は一瞬を固定するが、人生はその後も流れ続ける。つまり、写真を撮るという行為は、変化を止めたいという願望でもある。この曲は、故郷や過去を振り返る『Cass County』全体の中で、記憶の保存と不可逆性を扱う重要なナンバーである。

4. Waiting Tables

「Waiting Tables」は、労働と人生の停滞をテーマにした楽曲である。タイトルは「給仕をする」「テーブルを待つ」という意味を持ち、レストランで働く人物の日常を連想させる。同時に、「waiting」という言葉には、何かが起こるのを待ち続ける人生の感覚も含まれている。

音楽的には、素朴なカントリー・バラードに近い。派手なサウンドではなく、歌詞の物語が中心に置かれている。Henleyのヴォーカルは落ち着いており、登場人物への同情を過剰に演出しない。むしろ淡々と語ることで、働く人間の疲労や希望の小ささが浮かび上がる。

この曲では、アメリカン・カントリーが長く扱ってきた労働者の物語が現代的に引き継がれている。大きな成功を夢見ること、現実の仕事に縛られること、日々を繰り返すこと。Henleyはそれを上から見下ろすのではなく、故郷の記憶や地方社会への視線と結びつけて歌う。『Cass County』が単なる有名アーティストの郷愁ではなく、アメリカの普通の生活を描こうとしていることが分かる曲である。

5. No, Thank You

「No, Thank You」は、タイトルからして拒絶や距離の取り方を示す楽曲である。Don Henleyはソロ期を通じて、メディア、消費社会、政治、現代文化に対する批評的な歌詞を書いてきた。この曲にも、そうしたHenleyらしい皮肉と自己防衛の感覚が表れている。

サウンドはカントリー・ロック的で、軽快さを持ちながらも歌詞には鋭さがある。タイトルの「結構です」という言葉は丁寧な拒絶だが、その裏には、押しつけられる価値観や現代的な騒がしさへの反発がある。Henleyは怒鳴るのではなく、距離を置く形で批評する。

歌詞のテーマは、自分に必要のないものを断ること、過剰な消費や虚飾から身を引くこととして読める。『Cass County』が故郷や原点への回帰をテーマにしていることを考えると、この曲は都市的なノイズや表面的な成功からの離脱を表しているとも言える。Henleyの辛口なソングライターとしての顔が、カントリー的な枠組みの中で表れた曲である。

6. Praying for Rain

「Praying for Rain」は、本作の中でも特に重みのあるテーマを持つ楽曲である。雨を祈るというタイトルは、農業、干ばつ、土地、生活の不安と深く結びついている。テキサスや南部の土地において、雨は単なる天候ではなく、生存や経済、共同体の維持に関わるものだ。

サウンドは厳かで、ゴスペルやカントリー・バラードに近い雰囲気を持つ。Henleyの声は低く、祈りの感覚を帯びている。過度にドラマチックな展開を避けながらも、曲全体には乾いた土地と空を見上げる人々の姿が浮かぶ。

歌詞では、自然への依存、人間の無力さ、信仰、そして気候への不安が重ねられている。現代的に聴けば、環境問題や気候変動への意識とも接続しうるが、曲自体は説教的ではない。むしろ、土地で生きる人々の素朴で切実な祈りとして表現されている。『Cass County』が故郷を美化するだけでなく、その厳しさも描いていることを示す重要曲である。

7. Words Can Break Your Heart

「Words Can Break Your Heart」は、言葉の力と危うさを扱ったバラードである。タイトルは「言葉は心を壊すことがある」という意味で、恋愛、家族、人間関係において、何気なく発した言葉が深い傷を残すことを示している。Henleyは長年、鋭い言葉を武器にしてきたソングライターでもあるため、このテーマには自己批評的な響きも感じられる。

音楽的には、柔らかいカントリー・バラードとして構成されている。メロディは素直で、アレンジも控えめである。こうした曲では、Henleyのヴォーカルの表情が重要になる。彼は大げさに感情を爆発させるのではなく、言葉の重みを静かに届ける。

歌詞では、肉体的な暴力ではなく、言葉による傷が描かれる。言葉は愛を伝えることもできるが、同時に関係を壊すこともできる。この両義性は、カントリー・ミュージックが得意とする日常的な悲劇のひとつである。シンプルなテーマながら、成熟した人間関係の苦さをよく表している曲である。

8. That Old Flame

「That Old Flame」は、Martina McBrideとのデュエットであり、古典的なカントリー・デュエットの形式を現代的に再現した楽曲である。タイトルの「古い炎」は、過去の恋、消えたはずの情熱、再燃する感情を意味する。カントリーにおいて、過去の恋人や忘れられない愛は定番のテーマであり、この曲もその伝統の中にある。

HenleyとMcBrideの声は対照的である。Henleyの落ち着いた低い声に対して、McBrideの声は伸びやかで明るく、感情の強さを持つ。この組み合わせにより、過去の関係を振り返る男女の会話のような構造が生まれている。

サウンドは伝統的なカントリーに近く、メロディも親しみやすい。だが歌詞の中にあるのは単純な復縁願望ではなく、過去の炎がまだ完全には消えていないことへの戸惑いである。年齢を重ねた者同士が、若い頃の情熱をどう扱うか。このテーマは『Cass County』全体の成熟した視点とよく合っている。

9. When I Stop Dreaming

「When I Stop Dreaming」は、The Louvin Brothersによるカントリー・スタンダードとして知られる楽曲であり、Dolly Partonとのデュエットで収録されている。この選曲は、本作が現代カントリーだけでなく、古いハーモニー・カントリーの伝統へ深く敬意を払っていることを示している。

Dolly Partonの参加は非常に重要である。彼女はカントリーの歴史を体現する存在であり、独特の声には山岳音楽、ゴスペル、ブルーグラス、ナッシュヴィルの洗練が同時に宿っている。Henleyの声とPartonの声が重なることで、この曲は非常に古典的でありながら、現代的な録音作品としても美しく響く。

歌詞は、夢を見ることをやめたときに愛も終わる、という強いロマンティックな表現を持つ。カントリーらしい誇張された悲しみを含みながらも、メロディとハーモニーの美しさによって普遍的な愛の歌になっている。『Cass County』の中で、伝統継承の意味が最も明確に表れたトラックである。

10. A Younger Man

「A Younger Man」は、老いと恋愛をテーマにした楽曲である。タイトルは「もっと若い男」を意味し、語り手が相手に対して、自分より若い相手を選んだ方がよいのではないかと考えるような、自己認識と切なさを含んでいる。これは若いアーティストには書きにくい、成熟後のカントリー・ソングである。

サウンドは静かで、メロディには諦めと優しさがある。Henleyの声は年齢を隠さず、そのまま曲のテーマと結びついている。若さを装うのではなく、老いを受け入れた声で歌うことが、この曲の説得力を生んでいる。

歌詞では、愛する相手を手放すこと、あるいは自分の限界を認めることが描かれる。ここには自己憐憫だけではなく、相手の未来を考える成熟した愛情がある。Eagles時代のHenleyがしばしば欲望や幻滅を歌っていたことを思えば、この曲はその対極にある。年齢を重ねたからこそ描ける、静かな愛の諦念である。

11. Train in the Distance

Train in the Distance」は、列車の音を遠くに聞くような、記憶と旅のイメージを持つ楽曲である。列車はアメリカ音楽において、移動、別れ、自由、労働、時間の流れを象徴する重要なモチーフである。Henleyはここで、その古典的なイメージを自分の故郷と人生の記憶に重ねている。

音楽的には、穏やかなアメリカーナ色が強い。曲は大きく盛り上がるというより、遠くの風景を見つめるように進む。ギターやスティールの響きは控えめで、歌詞の情景を支える。遠くの列車というイメージ自体が、すでに過ぎ去った時間や、まだどこかへ行ける可能性を含んでいる。

歌詞では、遠くで響く列車が、過去への郷愁と未来への呼び声の両方として機能する。故郷にとどまる者、そこを出ていく者、戻ってくる者。『Cass County』全体に流れる帰郷のテーマが、この曲では旅の音として表現されている。静かながらアルバムの世界観を深める一曲である。

12. Where I Am Now

「Where I Am Now」は、現在地を確認する楽曲である。タイトルは「今、自分がいる場所」を意味し、アルバム全体の主題である過去と現在の対話を直接的に表している。Henleyは本作で故郷へ戻るが、それは単に過去に帰ることではない。長い人生を経て、現在の自分がどこにいるのかを確認する行為である。

サウンドは温かく、カントリー・ロックとしての自然な流れを持つ。過度に感傷的ではなく、前向きな響きもある。Henleyのヴォーカルには落ち着きがあり、過去を悔いるだけでなく、現在を受け止める感覚が表れている。

歌詞のテーマは、人生の途中で立ち止まり、ここまでの道のりを振り返ることである。若い頃に思い描いた場所とは違っていても、それが現在の自分の場所である。この受容の感覚は、アルバムの中で重要である。『Cass County』は郷愁のアルバムだが、過去に閉じこもる作品ではない。「Where I Am Now」は、故郷の記憶と現在の自己を結びつける曲である。

13. Too Far Gone

「Too Far Gone」は、失われたもの、戻れない場所、あるいは救いが届かない状態を示すタイトルを持つ。カントリー・ミュージックでは、愛や人生が「行き過ぎてしまった」状態を歌うことが多い。この曲もその伝統に沿いながら、Henleyらしい落ち着いた視点で描かれている。

サウンドは哀愁を帯びており、メロディには古典的なカントリーの感触がある。演奏は控えめで、歌詞の感情を引き立てる。Henleyの声は、後悔を語るのに適した深さを持っており、この曲のような諦念の表現に強い説得力を与える。

歌詞のテーマは、関係や人生が修復不能なところまで進んでしまったという認識である。しかし、Henleyはその状態を過剰に嘆くのではなく、静かに受け止める。ここにも本作の成熟がある。若い頃なら怒りや激情として歌われたかもしれない感情が、ここでは人生の一部として整理されている。

14. The Brand New Tennessee Waltz

「The Brand New Tennessee Waltz」は、Jesse Winchesterの楽曲として知られるナンバーであり、アメリカーナ/カントリー・フォークの繊細な系譜に連なる曲である。タイトルは有名な「Tennessee Waltz」を連想させつつ、「brand new」という言葉によって、古い形式の中に新しい感情を吹き込む姿勢を示している。

サウンドはワルツのゆったりとしたリズムを持ち、アルバム終盤に優雅な陰影を与える。Henleyの声は、曲の持つ郷愁を丁寧に表現している。派手さはないが、古い歌を新しく歌い直すことの意味が自然に伝わる。

歌詞では、過去の恋、旅、南部的な情景、失われた時間が交差する。ワルツという形式自体が、回ること、戻ること、同じ場所を巡ることを含んでいる。『Cass County』全体が過去と現在を行き来するアルバムであることを考えると、この曲の配置は非常に意味深い。古い舞曲の形式が、記憶の循環を象徴している。

15. She Sang Hymns Out of Tune

「She Sang Hymns Out of Tune」は、Jesse Lee Kincaidの楽曲として知られる、どこか奇妙で詩的な曲である。タイトルは「彼女は調子外れに賛美歌を歌った」という意味を持ち、宗教的な歌、個人の不完全さ、そして愛おしいずれを同時に示している。『Cass County』の締めくくりに近い位置で、この曲はアルバムに素朴で幻想的な余韻を与える。

サウンドは穏やかで、フォーク的な質感が強い。歌詞のユーモアと哀しみを生かすため、演奏は控えめにまとめられている。Henleyの声は、ここでは説教者ではなく、過去の人物を思い出す語り手のように響く。

歌詞の中心には、完璧ではない歌の美しさがある。調子外れの賛美歌は、音楽的には正しくないかもしれないが、その人にしかない真実を持っている。これは『Cass County』全体にも通じるテーマである。故郷、家族、土地、記憶は、決して完全で美しいものばかりではない。しかし、その不完全さこそが人間的な価値を持つ。この曲は、アルバムの終盤で、完璧ではない人生への愛情を静かに示している。

16. Here Come Those Tears Again

デラックス版などに収録される「Here Come Those Tears Again」は、Jackson BrowneとNancy Farnsworthによる楽曲であり、1970年代ウェストコースト・シンガーソングライターの繊細な感情表現を代表するナンバーである。Don Henleyがこの曲を取り上げることは、Eaglesと同時代のロサンゼルス音楽シーンとのつながりを想起させる。

サウンドはカントリー・ロック寄りに整えられ、Henleyの声によって曲の感情はより低く、苦みを帯びる。Jackson Browneの原曲が持つ若い痛みや詩的な自己省察に対し、Henley版はより長い時間を経た後の涙として響く。

歌詞のテーマは、繰り返し戻ってくる悲しみである。涙は一度流して終わるものではなく、記憶や関係の中で何度も戻ってくる。この反復性は、本作のテーマである過去との対話にも深く関係している。アルバム本編の流れを補強するボーナス的な楽曲として、Henleyのルーツと同時代的な文脈を示す意味を持っている。

総評

『Cass County』は、Don Henleyが自身の故郷と音楽的原点へ向き合った、成熟したルーツ・アルバムである。Eaglesやソロ期の大ヒット曲で知られるHenleyのイメージは、しばしば洗練された西海岸ロック、都市的な批評精神、緻密なプロダクションと結びついてきた。しかし本作では、その洗練の奥にあるテキサス出身者としての記憶、カントリー・ミュージックへの親近感、南部的な語りの伝統が前面に出ている。

本作の大きな特徴は、カントリーへの回帰でありながら、単純なジャンル作品に収まっていない点である。伝統的なカントリー・デュエット、アメリカーナ、フォーク、ゴスペル、カントリー・ロック、ソフト・ロックが自然に混ざり合い、Don Henleyというアーティストの長いキャリアを通じて再構成されている。Eaglesの初期作品にあったカントリー・ロックの影は確かに感じられるが、『Cass County』ではそれがより個人的で、より土地に根ざした形になっている。

歌詞面では、老い、記憶、失われた時間、故郷、労働、愛の再燃、後悔、祈りといったテーマが中心である。若い頃のHenleyは、アメリカ社会の虚飾やメディア文化の空虚さを鋭く批評することが多かった。本作にも批評性は残っているが、それ以上に目立つのは、人生の後半に立った者の受容と省察である。「A Younger Man」や「Where I Am Now」では、若さを失った自分を否定せず、その位置から歌う姿勢がある。「Praying for Rain」や「Waiting Tables」では、故郷の土地と労働者の現実が描かれる。『Cass County』は、成功したロック・スターが単に懐かしい田舎を美化するアルバムではなく、土地と人生の重さを受け止めようとする作品である。

ゲスト陣の存在も、本作の価値を大きく高めている。Merle HaggardやDolly Partonの参加は、Henleyがカントリーの伝統に敬意を払っていることを示し、Miranda LambertやMartina McBrideは現代カントリーとの接続を担う。Mick Jaggerの参加は意外性を持ちながら、ロックとカントリーの境界を越えるアルバムの性格を強めている。こうした声の集合によって、『Cass County』はHenleyの個人作でありながら、アメリカン・ルーツ・ミュージックの広い共同体を感じさせる作品になっている。

音楽的には、非常に丁寧に作られている。現代カントリーにありがちな過剰なロック化やポップ化には向かわず、アコースティック楽器と声の重なりを重視している。一方で、完全な伝統主義にも閉じていない。Henleyのメロディ感覚やプロダクションの精度は、やはりEaglesやソロ期を通じて培われたものであり、その洗練が本作を聴きやすくしている。土の匂いと高い録音品質が共存している点が、『Cass County』の大きな魅力である。

日本のリスナーにとって本作は、Eaglesのカントリー・ロック的側面を好む人、Jackson BrowneやLinda Ronstadt、Emmylou Harris、Vince Gill、Dolly Parton、The Band、Willie Nelsonなどのアメリカン・ルーツ系作品に親しむ人に適している。また、Don Henleyのソロ代表曲から入ったリスナーにとっては、彼のより深い原点を知るためのアルバムとして重要である。『The Boys of Summer』の都市的な郷愁とは異なり、『Cass County』には、より実際の土地に根ざした記憶と時間がある。

『Cass County』は、革新的な新境地を切り開くアルバムというより、長いキャリアを経たアーティストが、自分の根を掘り下げた作品である。だが、その行為は非常に重要である。ロック・スターとして世界的成功を収めたHenleyが、最後に向き合う場所として選んだのは、巨大なステージではなく、故郷の郡名だった。そこに、本作の核心がある。『Cass County』は、成功、老い、記憶、土地、そして歌の継承を静かに結びつけた、晩年の充実作である。

おすすめアルバム

1. Desperado by Eagles

1973年発表のEaglesの2作目。アウトロー、西部神話、カントリー・ロックをテーマにしたコンセプト性の強いアルバムであり、Don Henleyのルーツ志向を理解するうえで重要である。『Cass County』がより個人的な故郷回帰であるのに対し、『Desperado』は若いバンドがアメリカ西部の神話をロックとして再構成した作品である。

2. The End of the Innocence by Don Henley

1989年発表のソロ代表作。社会批評、個人的喪失、都市的なメランコリーを洗練されたプロダクションで描いたアルバムであり、『Cass County』とは異なるHenleyの顔を示す。両作を比較すると、彼が時代批評から故郷と記憶の省察へ移っていく流れがよく分かる。

3. Pieces of the Sky by Emmylou Harris

1975年発表のEmmylou Harrisの重要作。カントリー、フォーク、ロックの橋渡しとして非常に優れたアルバムであり、Eagles周辺のカントリー・ロックとも深く関連する。『Cass County』の伝統的なカントリーへの敬意と、現代的な解釈のバランスを理解するために有効な一枚である。

4. The Gilded Palace of Sin by The Flying Burrito Brothers

1969年発表のカントリー・ロック名盤。Gram ParsonsとChris Hillmanを中心に、ロック世代がカントリーを自分たちの感性で再解釈した歴史的作品である。『Cass County』にあるカントリー回帰の背景をたどるうえで欠かせない。Eagles以前のカントリー・ロックの精神を知るための基本作である。

5. Will the Circle Be Unbroken by Nitty Gritty Dirt Band

1972年発表の歴史的コラボレーション・アルバム。ロック世代のミュージシャンが伝統的なカントリー、ブルーグラスの巨人たちと共演し、世代を越えた音楽的継承を記録した作品である。『Cass County』におけるMerle HaggardやDolly Partonらとの共演と同じく、アメリカン・ルーツ・ミュージックの継承と対話を理解するうえで重要なアルバムである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました