
1. 歌詞の概要
「Carpet Crawlers」は、Genesisが1974年に発表した2枚組コンセプト・アルバム『The Lamb Lies Down on Broadway』に収録された楽曲である。同作はPeter Gabriel在籍時の最後のアルバムであり、複雑な物語性を持つ大作である。この曲はアルバムの中盤に位置し、物語の主人公Raelが不思議な館に入り込み、その中で這い回る人々の姿を目撃する場面にあたる。
歌詞には「Carpet Crawlers(絨毯を這う人々)」が登場し、彼らは皆「The Chamber of 32 Doors(32の扉の部屋)」へ向かって進んでいく。彼らは疲れ果て、盲目的に進む存在として描かれており、人間の欲望や無知、あるいは宗教的な救済のメタファーと解釈されてきた。歌詞全体は寓話的で多義的だが、「螺旋階段を登り続ける」「赤い扉に導かれる」といった象徴的なフレーズが印象的であり、超現実的なイメージを喚起する。
この曲はアルバムの物語進行において重要な場面を担いつつも、単独の楽曲としても神秘的な魅力を放っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『The Lamb Lies Down on Broadway』は、ニューヨークのストリートに生きるプエルトリコ系の青年Raelを主人公とした壮大な物語であり、Peter Gabrielの退団前の最後のプロジェクトでもあった。その歌詞は寓話、宗教、心理的探求、社会批判が入り混じり、解釈が難解であることで知られている。
「Carpet Crawlers」はアルバムの中でも特にメロディアスで親しみやすい曲で、シングルカットもされている。楽曲構成はシンプルで、Tony BanksのキーボードとSteve Hackettのギターが浮遊感ある雰囲気を作り出し、Gabrielの神秘的なヴォーカルが全体を導く。
Genesisは後年、1976年の『A Trick of the Tail』以降、Gabriel不在でもバンドを継続していくが、「Carpet Crawlers」はライブでも長く演奏され続け、ファンから特に愛される楽曲となった。1999年にはPhil Collins、Peter Gabriel、Tony Banks、Mike Rutherford、Steve Hackettというクラシック・ラインナップが再結集し、「The Carpet Crawlers 1999」として再録音版を発表。この新録版は、Genesisの歴史を象徴する出来事ともなった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Carpet Crawlers」の印象的な部分を抜粋し、原文と和訳を併記する。
(歌詞引用:Genius)
There is lamb’s wool under my naked feet
裸足の下に羊毛が敷かれている
The wool is soft and warm, gives off some kind of heat
その羊毛は柔らかく温かく、不思議な熱を放っている
The carpet crawlers heed their callers
絨毯を這う人々は呼び声に従う
We’ve got to get in to get out
僕らは中に入らなければ、外に出ることはできない
Mild mannered supermen are held in kryptonite
穏やかな性格のスーパーマンたちはクリプトナイトに囚われている
この中でも「We’ve got to get in to get out(中に入らなければ外に出られない)」という逆説的なフレーズは、楽曲の象徴的な言葉であり、多くの解釈を生んできた。
4. 歌詞の考察
「Carpet Crawlers」は、『The Lamb Lies Down on Broadway』の物語の一場面でありながら、独立した楽曲としても深い象徴性を持つ。その最も有名なフレーズ「We’ve got to get in to get out」は、宗教的・哲学的な解釈が多い。つまり、救済や解放に至るためには、まず閉じ込められた世界の奥へと進まなければならない、という逆説的な思想である。
「絨毯を這う人々」は、人間の無意識的な従属、盲目的な信仰、あるいは欲望に取り憑かれた姿を象徴しているようにも見える。彼らは赤い扉を目指し、螺旋階段を登っていくが、その姿は救済を求める群衆の寓話的描写とも取れる。
また、羊毛に覆われた床や「mild mannered supermen(穏やかなスーパーマン)」といったフレーズは、聖書や神話的なイメージ、さらには当時の社会的アイロニーを重ね合わせたものとも考えられる。Peter Gabriel特有の寓意的な詞世界が強く反映されており、単純な物語描写ではなく、聴き手の解釈を誘う。
音楽的には、穏やかに流れるメロディと幻想的なサウンドが、歌詞の神秘性を増幅している。Gabrielの歌声は説教のようでありながらも優しく、聴く者を「這い回る群衆」の視点に引き込む。楽曲後半に繰り返される「We’ve got to get in to get out」は呪文のように響き、聴き手を半ばトランス状態へ導く力を持っている。
「Carpet Crawlers」は『The Lamb Lies Down on Broadway』という複雑な物語の中で、象徴的な要素を凝縮した曲であり、Genesisの歌詞世界の核心を体現する一曲である。
(歌詞引用:Genius)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Lamb Lies Down on Broadway by Genesis
アルバムのタイトル曲で、同じ物語の始まりを描く。 - The Musical Box by Genesis
寓話的で幻想的な物語を展開する大曲。 - Watcher of the Skies by Genesis
神秘的な雰囲気と寓意的な歌詞を持つGenesis初期の名曲。 - Epitaph by King Crimson
哲学的で寓話的な詞世界が共鳴するプログレの代表作。 - Supper’s Ready by Genesis
宗教的象徴や幻想的世界観を壮大なスケールで描いた大作。
6. Genesisにとっての意義
「Carpet Crawlers」はGenesisの楽曲の中でも特に人気が高く、1974年のオリジナル以降もライブで繰り返し演奏され、1999年にはクラシック・ラインナップによる再録音版も発表された。複雑で難解な『The Lamb Lies Down on Broadway』の中にあって、比較的親しみやすく、叙情的で普遍的なメッセージを持つため、単独で独自の生命を持ち続けている。
この曲は、Peter Gabriel期のGenesisを象徴する楽曲のひとつであり、プログレッシブ・ロックの「寓話性」と「神秘性」を最も美しく表現した例でもある。半世紀近くを経た現在でも、「Carpet Crawlers」は聴く者に「内へ進まなければ外へ出られない」という逆説的な問いを投げかけ続けている。



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