Can’t Stop the Spring by The Flaming Lips(1987)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Can’t Stop the Spring」は、The Flaming Lipsが1987年にリリースしたアルバム『Oh My Gawd!!!The Flaming Lips』に収録された、初期の彼らならではのサイケデリックで破天荒な世界観の中に、自然と生命の不可避なリズムを重ねた、風刺的かつ楽観的な楽曲である。

タイトルが示すように、この曲の中心にあるのは「春(Spring)」という季節。春は古来より“再生”“希望”“生命の目覚め”の象徴として扱われてきたが、The Flaming Lipsのこの曲では、どれだけ社会が混沌としていようと、どれだけ世界が狂っていようと、春はやってくる——という“自然の摂理”がユニークに強調されている。

政治的、社会的な状況を冷ややかに見つめつつも、最終的には「でも春は止められないよ」という、人智を超えたリズムへの諦念と祝福が織り込まれている。皮肉と希望が同居した、非常にThe Flaming Lipsらしいポジティブなニヒリズムが光る楽曲だ。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲が収録された『Oh My Gawd!!!The Flaming Lips』は、バンドの2作目のスタジオアルバムであり、まだインディペンデントでノイズ色が強く、アンダーグラウンドな実験性を強く打ち出していた時代の作品である。

1987年当時のアメリカは、レーガン政権末期。冷戦の緊張と新自由主義の影響のなかで、政治的混乱や文化的変革が進行していた。そのような状況のなかでこの楽曲は、どんな体制も政策も、自然の流れ=春の訪れには抗えない、という脱政治的でありながら根源的なテーマを掲げている。このメッセージは、体制批判を通しても、希望の讃歌としても受け取ることができる。

タイトルの「Can’t Stop the Spring」は、**旧東欧圏の反体制スローガン「You can crush the flowers, but you can’t stop the spring(花は踏みにじれても、春は止められない)」**にインスパイアされたとも言われ、**自由や再生の象徴としての“春”**が主題として繰り返し用いられる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“In the morning / When the sun is on the rise”
朝になって 太陽が昇るとき

“You will wake up / And you will open up your eyes”
君は目を覚まし 目を開く

“I know that everything / Everything is gonna change”
すべてが変わる 僕にはそれが分かるんだ

“But you can’t stop the spring”
でも、春だけは 止めることなんてできない

“You can crush the flowers / But you can’t stop the spring”
花は踏みつぶせても 春の訪れは止められないんだよ

歌詞引用元:Genius – The Flaming Lips “Can’t Stop the Spring”

4. 歌詞の考察

この曲の最大の魅力は、「春(Spring)」という自然現象を、社会的・文化的状況に対する反抗、あるいは人間の営みに対するユーモラスな皮肉として機能させている点である。花は人間の力で壊せるけれど、季節の移ろいそのものは止められない。人間の支配欲や破壊的行動に対する、自然からの静かな反撃のような寓意がそこにある。

同時にこの曲は、どれだけ世界が酷くても、目の前の現実がどうしようもなくても、「春は来る」という受動的でありながら確実な希望の在処を指し示している。つまりこれは、理想主義的な“闘争”の歌ではなく、**ニヒリズムに見せかけた“肯定の歌”**なのである。

また、“You will open up your eyes(君は目を開ける)”というフレーズには、目覚め・覚醒・新しい視点の獲得といった意味も読み取れ、ただの季節の歌を超えて、精神的変化や成長の象徴としての春が描かれている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • It’s the End of the World as We Know It (And I Feel Fine) by R.E.M.
     カオスな社会状況を羅列しながらも、“でも大丈夫”と楽観を手放さないロックアンセム。

  • The Times They Are A-Changin’ by Bob Dylan
     歴史や社会の転換点における希望と警鐘を歌い上げたフォークの金字塔。

  • Waiting for a Superman by The Flaming Lips
     何も変わらない現実の中に、それでも“誰かを信じたい”という切実な希望を描いた名曲。

  • Tomorrow Never Knows by The Beatles
     サイケデリックなサウンドと哲学的メッセージが融合した“新しい知覚”への扉。

6. “変わらないものの中に、確かな変化がある”

「Can’t Stop the Spring」は、The Flaming Lipsがまだ粗削りで実験的だった時代に放った、哲学的メッセージとユーモアが共存する初期の傑作である。大きな力が人間や社会をどうにかしようとしても、春はやってくる——**それは自然の摂理であり、私たち一人一人の心にも当てはまる“再生の力”**を象徴している。


「Can’t Stop the Spring」は、希望とは戦うことではなく、訪れるものに気づくこと——そんな静かなレジスタンスの歌である。花は踏みつぶされても、春は必ずやってくるのだから。

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