
1. 歌詞の概要
「Call It Love」は、アメリカのカントリー・ロック・バンドPoco(ポコ)が1989年に発表したアルバム『Legacy』に収録されたシングルで、バンドにとって久々のチャート復帰を飾ったポップ寄りのロック・ナンバーである。
この曲の語り手は、自分のなかに芽生えたある感情に戸惑い、それが果たして“恋”なのかどうかを測りかねている。しかしタイトルが示す通り、「これを“愛”と呼ぶべきか?(Call it love)」と自問することで、感情に名前を与えようとする。
つまり、恋に落ちた瞬間の困惑、認めたくないけれど抗えない引力、そしてそれをどう捉えていいか分からない未確定な状態――“恋の入口”に立たされた人間の揺れ動く心理が、この曲の核である。
それは情熱というよりも、冷静さと衝動が入り混じった大人の恋愛の輪郭であり、青春の高揚というよりは、経験を重ねた者の慎重さと葛藤が滲む愛の一幕なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
1989年にリリースされたアルバム『Legacy』は、Pocoのオリジナル・メンバーであるJim Messina、Richie Furay、Rusty Young、Randy Meisner、George Granthamが再集結した作品として話題を呼んだ。
「Call It Love」はその中でも、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード・ホット100で18位を記録するヒットとなった。
作詞・作曲はバンド外部のソングライター、Ron Gilbeau、Billy Crain、Rick Lonowによるもので、サウンドには80年代後半のAORやポップ・ロックの影響が色濃く表れている。
これは従来のPocoの“カントリー・ロック”路線とはやや異なり、より都会的で洗練されたスタイルを取り入れた新たな試みとしても評価された。
またミュージック・ビデオのヘヴィ・ローテーションも手伝い、当時のMTV世代からも注目を集めた。結果的にこの曲は、Pocoにとって80年代以降の“第2の黄金期”を象徴する楽曲となったのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I can see it in your eyes
You want this even more than I
君の目を見ればわかる
君は僕以上にこれを求めている
Take me, baby, take me now
Before I change my mind
今すぐ連れて行って
僕の気が変わらないうちに
Call it love
Call it what you want
愛と呼んでいいさ
あるいは他の名前でもかまわない
It doesn’t really matter
It’s still the same old game
呼び方なんて関係ない
これはいつも繰り返される、あの“ゲーム”さ
引用元:Genius 歌詞ページ
歌詞全体を通して、“恋”を言葉で定義しようとする試みと、それを突き放すようなクールさが同居している。この距離感のある恋の描写が、従来のPocoにはない新しい世界観を提示している。
4. 歌詞の考察
「Call It Love」は、愛という感情をどう定義するか?という哲学的な問いをポップ・ロックのフォーマットに落とし込んだ曲である。
語り手は、「これが本当に愛なのか?」という問いに対し、最終的に「名前なんてどうでもいい。感じていることがすべてだ」という結論に至る。
これは一見投げやりなようにも見えるが、実は非常にリアルな心情である。
人は恋に落ちると、言葉で納得しようとする。
「これはただの一時的な情熱か?」「本気なのか?」――
しかし、理屈では説明しきれない感情が溢れたとき、最終的には「感じてしまった」ことを受け入れるしかない。
この曲は、その**“心が先に走り、言葉が追いつかない”という恋の瞬間**を、非常に巧みに描いている。
また、音楽的には、80年代後半らしい洗練されたサウンド・プロダクションにより、**Poco本来のアーシーな温かさとは異なる“スタジオ仕立ての恋”**が表現されているのもポイントである。
その結果、「Call It Love」はカントリー・ロックからAOR、ポップ・ロックへと変遷するPocoの進化を象徴する作品となった。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- I Can’t Tell You Why by Eagles
愛の理由を言葉にできないまま揺れる心情を描いた、都会的なバラード。 - Just the Way It Is, Baby by The Rembrandts
複雑な愛の“かたち”を淡々と語る、90年代初頭のポップ・クラシック。 - The Search Is Over by Survivor
長い旅の果てに見つけた愛の真実を歌う、力強いロック・バラード。 - Waiting for a Girl Like You by Foreigner
出会いと運命、求める愛がついに現れた瞬間の感情を歌う名曲。 - Love Will Keep Us Alive by Eagles
大人の愛と信頼を静かに歌い上げる、シンプルで深い一曲。
6. 名前をつけることで、愛は始まる――1989年、Pocoの“再定義”
「Call It Love」は、Pocoにとって単なるラブソングではない。
それは**“自分たちの音楽を、再び新しい時代に語り直す”ための再出発**であり、
過去のカントリー・ロックとは異なる、洗練されたサウンドで放たれた自己定義の歌でもあった。
タイトルにある“Call it love”という一言は、あいまいな感情に名前を与えることで、それを現実のものとする行為そのものである。
恋は、感じてしまったときに始まるのではなく、それを“愛”と名づけたときに、本当に始まる――そうこの曲は語っている。
恋を避けようとする自分と、それでも惹かれてしまう心のせめぎ合い。
それは若者だけのものではなく、大人になってもなお訪れる感情のドラマなのだ。
そして、この曲はその“ドラマの始まり”を、ポップに、洗練されたサウンドで、しかしどこか不器用に描き出している。
だからこそ、今もなお多くの人の胸に響き続けるのである。
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