1. 歌詞の概要
「Burn the Empire」は、スコットランド出身のインディーロック・バンド The Snuts(ザ・スナッツ)が2022年にリリースした同名のセカンド・アルバム『Burn the Empire』のタイトル・トラックであり、バンドの政治的姿勢と反骨精神が最もストレートに表現されたアジテーション的楽曲である。
この楽曲は、タイトルの通り「帝国を燃やせ」と繰り返し主張し、支配構造・権威主義・政府・メディアといったあらゆる既存の体制への怒りと不信をぶつけている。特定の国名は出てこないが、その“帝国”とは旧来的な政治システム、階級社会、ポピュリズムに染まった支配体制の象徴であり、バンドの出自であるスコットランドの若者たちが感じる“疎外”や“無力感”に根ざした叫びでもある。
語り手は、嘘にまみれたニュース、抑圧される表現の自由、腐敗した権力に対して、「もう我慢できない」という怒りを音楽で爆発させている。だが同時に、「これ以上沈黙しない」「声を上げるべき時が来た」という**能動的なメッセージ=“闘いの宣言”**が、この曲の核となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Snutsは、2021年のデビューアルバム『W.L.』で全英チャート1位を獲得したことで、スコットランド出身のバンドとしてOasis以来となる快挙を達成した。
その成功の裏で彼らは、音楽業界やメディア、政治における構造的な不平等や操作性、SNSによる分断の加速を実感していたという。
「Burn the Empire」は、そのフラストレーションを爆発させる形で生まれた楽曲であり、特にジョンソン政権時代のイギリス政治に対する失望や、若者世代の声が無視される社会状況が、直接的な創作動機となっている。
バンド自身は、この曲をリリースするにあたり「俺たちは政治家じゃない、でも黙ってる理由もない」と語っており、あくまで若者目線からの率直な社会批判であることを強調している。
また、曲中には俳優兼社会活動家であるクリストファー・エクルストンによる**“Burn the empire”というナレーション**が挿入されており、アートとプロテストの融合を象徴する演出となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Burn the empire
帝国を燃やせ
このフレーズがリフレインとして何度も繰り返される。体制そのものに対する怒りの象徴的なスローガンであり、抵抗の意思表示と覚醒の呼びかけとして機能している。
They don’t wanna listen
あいつらは耳を貸そうとしない
支配層が市民の声に向き合わず、ただ無視し続けている現状への苛立ちが込められている。
This is not a warning
これは警告じゃない
これは宣戦布告だ、とでも言うかのようなこの一節は、**抗議活動やデモを超えた、“存在そのものによる反抗”**を表している。
They keep feeding lies on the evening news
夜のニュースでは嘘ばかりが流される
メディアの操作性、フェイクニュース、報道の偏りといった現代的な問題を鋭く指摘するライン。
※引用元:Genius – Burn the Empire
4. 歌詞の考察
「Burn the Empire」は、現代の若者たちが抱く“失望”と“怒り”を、音楽という手段で可視化したプロテスト・ソングである。特にイギリスにおいては、ブレグジット、格差、移民政策、気候問題、若者支援の削減など、さまざまな社会的背景がこの“帝国”という言葉に凝縮されている。
本曲の特徴は、抽象的でありながらも非常に直感的でキャッチーな言葉選びにある。具体的な政治用語を避けつつ、誰もが感じている“世界の歪み”をダイレクトに音楽に投影している点で、リスナーの共感を得やすい構造となっている。
さらに、トラックとしての構成もシンプルながら力強く、リズムセクションとサンプル的なボイス、そしてフックのあるコーラスが**“集団の叫び”としての性格を強化**している。これは、ライブでオーディエンスと一体になることを想定した、アンセム的機能を持つ楽曲でもある。
また、“This is not a warning”というフレーズが示す通り、この曲は単なる注意喚起ではなく、いまここで立ち上がるという行動の表明であり、その点において「Burn the Empire」は社会的無力感を突き破る“声”としての意味を持っている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- People by The 1975
社会の閉塞感と若者の怒りをそのままぶつけたアジテーション・ロック。 - If You Tolerate This Your Children Will Be Next by Manic Street Preachers
戦争と沈黙の危険性を描く、社会的メッセージソングの金字塔。 - Killing in the Name by Rage Against the Machine
権力構造と警察暴力への抵抗をラップとロックで叫ぶ反体制の象徴。 - Do I Wanna Know? by Arctic Monkeys
恋愛の曲に見えて、孤独や内省という“個人の帝国”を描いた作品。 - Revol by Manic Street Preachers
歴史上の指導者を皮肉交じりに並べ上げ、政治の腐敗を暴く前衛的な一曲。
6. 壊すことで、変える――現代のプロテスト・アンセムとしての「Burn the Empire」
「Burn the Empire」は、政治的かつ詩的、暴力的でありながら希望をはらんだ、新時代のアンセムである。
怒りを叫ぶだけでなく、“沈黙しないこと”の意味を伝え、“声をあげること”そのものが変革への第一歩であるという思想が込められている。
この曲を聴いて何を燃やすべきか、それは聴き手一人ひとりの中にある。信じられない制度か、嘘にまみれた情報か、無関心という名の壁か。
「帝国」はいつも、外ではなく内側にも存在している。
燃やすことで、ようやく言葉は生まれる。
The Snutsは、その火を音楽に込めて、私たちに投げかけている。
**「お前は何を燃やす?」**と。
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