アルバムレビュー：Broken Barricades by Procol Harum

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1971年6月
ジャンル: プログレッシブ・ロック、アート・ロック、ブルース・ロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Broken Barricades』は、Procol Harumが1971年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、ギタリストのロビン・トロワーが在籍する最後の作品である。
ブルース・ロック色の強化とプログレッシブ・ロック的展開の両立が図られた本作は、クラシカルなバロック路線から一時的に距離を置き、“鋭さ”と“内省”を同居させた異色のアルバムとなっている。

特筆すべきは、トロワーが2曲でリード・ボーカルを取り、ギタリストとしての創造性と主張を大きく押し出している点である。
ブルッカーのピアノ主導の美学とトロワーのヘヴィなギターとの緊張関係が全編に渡って表れ、バンド内部の音楽的分岐を象徴する作品としても知られる。

アルバムタイトル「Broken Barricades（壊れたバリケード）」は、象徴的に読めば、創造と破壊、安定と分裂といったテーマを浮かび上がらせる。
それは同時に、この作品がProcol Harumの第一期を締めくくる、ひとつの“転機”でもあることを暗示している。

全曲レビュー

1. Simple Sister

本作を象徴するハード・ロック寄りの楽曲。
重厚なギターリフとエネルギッシュなドラミング、そしてブルッカーの厳しい歌唱が、怒りや違和感を爆発させる。
女性に対する暴力的な支配や支配欲への皮肉とも読めるリリックは、Procol流の反抗精神を感じさせる。

2. Broken Barricades

静謐かつメランコリックなタイトル曲。
サウンドは柔らかで、淡々としたブルッカーの歌唱が、過去と向き合うような痛みを優しく描き出す。
“壊れた防壁”というモチーフは、人間関係の崩壊や信念の揺らぎのメタファーとも取れる。

3. Memorial Drive

ファンク寄りのリズムが特徴的なミッドテンポ・ロック。
都市の通りの名を借りて、暴力や破壊の記憶を辿るような詩世界が展開される。
トロワーのギターがリズムを牽引しつつ、鋭いリフで曲に重さを与える。

4. Luskus Delph

耽美的なメロディとストリングスを伴ったバロック調のラヴ・ソング。
しかし歌詞は極めて倒錯的かつ官能的で、性的メタファーや二重性に満ちている。
クラシカルな響きと背徳的リリックのギャップが鮮烈な印象を残す。

5. Power Failure

ライヴでも定番となるアップテンポなロック・ナンバー。
電力の喪失という現象を比喩に、制度や社会の崩壊、精神的混乱をユーモラスに描いている。
ドラマーのB.J.ウィルソンによるドラム・ソロが炸裂する唯一無二の構成。

6. Song for a Dreamer

ロビン・トロワーが作詞作曲・ボーカルを担当した、ジミ・ヘンドリックスへのトリビュート曲。
サイケデリックなギター・エフェクトと空間性の高い音響設計が、夢と現実の境界を溶かしていく。
トロワーの内省的で霊的な一面が顕著に表れた名曲。

7. Playmate of the Mouth

エロティシズムと幻想が絡み合う、やや実験的な楽曲。
変拍子の導入やテンポチェンジが特徴で、性的なテーマと非現実的な語りが絡み合うアート・ロック的展開。
ヴォーカルとギターの掛け合いもスリリング。

8. Poor Mohammed

トロワーが再びリード・ボーカルを担当する、ブルース色の強い楽曲。
宗教的アイロニーと差別への批評性を内包するが、直接的な政治性よりも哀愁の情感が勝る。
ギター・ソロの悲痛な咆哮が心に残る締めくくり。

総評

『Broken Barricades』は、Procol Harumが芸術性とロック的衝動の狭間で揺れ動く、極めて“生々しい”アルバムである。
それは単にクラシックとロックの融合を図るだけでなく、内面の分裂、創作の衝動、そしてバンド内の音楽的な異化作用そのものを記録した作品でもある。

ブルッカーの構築的美学と、トロワーのギター主導の表現欲求――この二つの極の間で本作は絶妙なテンションを孕み、Procol Harumの多面性をこれ以上ないほど浮き彫りにした。
その意味で『Broken Barricades』は、終焉と新章のはざまに佇む“音楽的内戦”のようなアルバムなのかもしれない。