発売日: 1971年11月
ジャンル: ハードロック、プロト・パンク、ガレージロック
概要
『Brain Capers』は、Mott the Hoopleが1971年にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの初期キャリアにおける“最も爆発的で過激な瞬間”を記録した異色作である。
前作『Wild Life』で見せたフォークやアメリカーナへの傾倒を完全に反転させ、本作ではハードロック、ガレージ、プロト・パンク的な衝動が前面に押し出されている。
その結果、Mottの持つロマンティシズムはより苛烈で暴力的な形をとり、まるで“ロックによる自傷行為”のような激しさを帯びている。
商業的には不振に終わったものの、バンド自身はこのアルバムを創造的なピークのひとつと捉えており、後のグラム・ロック時代への過渡期としても重要な作品とされる。
また、シンプルなロックンロールへの回帰、破壊的なギター・リフ、反体制的で熱量の高い歌詞などは、後のパンクムーヴメントの胎動を感じさせる内容となっている。
全曲レビュー
1. Death May Be Your Santa Claus
混沌と破壊から始まる強烈なオープニング。
曲名からして異様なこのトラックは、轟音ギターとイアン・ハンターのヒステリックなシャウトで構成され、まるで“クリスマスをぶち壊す”ような反祝祭的衝動が炸裂する。
ロックンロールという形式を意図的にぶち壊そうとする挑発的な楽曲。
2. Your Own Backyard
アメリカーナ風の前作の延長線上にあるような穏やかなナンバー。
しかし歌詞には、身近な場所でこそ怒りや絶望が育つという社会的メッセージが込められている。
メロウでありながら、内側に熱を秘めた一曲。
3. Darkness, Darkness
Jesse Colin Youngのカバー。
オリジナルのフォーク・サイケデリアを、重厚でハードなロック・サウンドに転換。
“闇よ、来たれ”というリフレインが、孤独と虚無を力強く表現する。
4. The Journey
アルバムの中心的存在。
10分近い組曲形式で、静かなピアノと語りから始まり、次第にドラマチックな展開へと至る。
人生の旅路、自己との対話、そして喪失の物語が交錯し、ハンターの詩的ヴィジョンが全開となる。
5. Sweet Angeline
スウィングするようなロックンロール・ナンバーで、バンドのルーツ的側面が強く表れた楽曲。
ライブでも人気の高い一曲であり、ピアノとギターの絡みが躍動感を生む。
6. Second Love
切なさと諦念が滲むバラード。
愛の“二番目”というテーマが、自己肯定と自己否定のはざまを漂う。
控えめなアレンジと繊細なヴォーカルが胸に沁みる。
7. The Moon Upstairs
再びテンションを高めるアグレッシブなトラック。
権力や制度への怒りをぶちまけるようなサウンドとリリックで、後のクラッシュやパンクの精神性にも通じる。
ギターの切れ味とリズムの鋭さが際立つ名演。
8. The Wheel of the Quivering Meat Conception
最後に配置された異様な短編。
語りとノイズを交えた実験的トラックで、カオティックなエネルギーの余韻を残してアルバムを閉じる。
まるで“ロックの脳内妄想”を聴かされているような感覚に陥る。
総評
『Brain Capers』は、Mott the Hoopleが商業性やジャンル的制約から完全に解放され、自らの内にある“暴力的なロマン”をむき出しにした作品である。
そこには整った構成や計算された演出はなく、ただ“伝えずにはいられない衝動”がある。
それは時に美しく、時に醜悪で、だが確実に“生きている”音楽であった。
このアルバムはまた、パンクの登場を5年先取りしたような爆発力と、ディラン的叙情の断片を併せ持ち、極めて特異な立ち位置を占めている。
商業的には失敗作とされたが、Mott the Hoopleの“最も自由で最も危険な瞬間”が詰まった一枚として、今なおカルト的な人気を誇る。
おすすめアルバム（5枚）
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The Stooges – Fun House (1970)
プリミティヴな怒りとサイケの混合。Mottの凶暴性と通底する精神性。 -
David Bowie – The Man Who Sold the World (1970)
不穏で哲学的なロック。グラム期の接続点として共通項が多い。 -
Lou Reed – Berlin (1973)
ドラマティックかつ内省的な構成。『The Journey』のような叙事詩との共鳴。 -
T. Rex – Electric Warrior (1971)
Mottが向かうグラム路線の到達点。対照的だからこそ聴き比べたい一枚。
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