1. 歌詞の概要
「Born in the U.S.A.」は、Bruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)が1984年にリリースした同名アルバム『Born in the U.S.A.』のタイトル曲であり、彼のキャリアの中でも最も誤解された楽曲のひとつとして知られている。
曲調は力強く、アメリカの国威発揚を思わせるようなアンセム的なサウンドを持つが、実際の歌詞は戦争の傷跡と社会の冷淡さを描いた批判的な内容となっている。
歌詞の主人公は、ベトナム戦争に従軍し、帰還後も社会から見放され、居場所を失った男であり、「生まれながらにしてアメリカ人(Born in the U.S.A.)だが、祖国からは見捨てられた」という皮肉が込められている。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、1981年にスプリングスティーンが書いた未発表曲「Vietnam」が元になっており、当時のアメリカ社会が直面していたベトナム戦争帰還兵の苦境を描いたものだった。
スプリングスティーンは、戦争に駆り出された若者たちが帰国後に直面する現実(失業、貧困、社会からの孤立)をテーマにした。しかし、曲のパワフルなサウンドが愛国的なメッセージとして誤解され、多くの政治家がこの曲を「アメリカ賛歌」として利用しようとした(特にレーガン政権時代)。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Original Lyrics:
Born down in a dead man’s town
The first kick I took was when I hit the ground
和訳:
死んだ街に生まれ落ちた
地面に転がったとき、最初の痛みを知った
Original Lyrics:
Got in a little hometown jam
So they put a rifle in my hand
Sent me off to a foreign land
To go and kill the yellow man
和訳:
地元でちょっとしたトラブルを起こしたら
ライフルを手に持たされ
外国の地へと送られた
黄色い肌の男を殺すために
Original Lyrics:
I had a brother at Khe Sanh
Fighting off the Viet Cong
They’re still there, he’s all gone
和訳:
ケサンで戦っていた兄貴がいた
ベトコンと戦っていたけど
奴らはまだそこにいるが、兄貴は帰ってこない
Original Lyrics:
I’m ten years burning down the road
Nowhere to run, ain’t got nowhere to go
和訳:
10年が過ぎたけど
どこへ行けばいいのか分からない
逃げ場なんてないんだ
引用元:Genius
4. 歌詞の考察
「Born in the U.S.A.」は、力強いコーラスが一見、アメリカ賛歌のように聞こえるが、実際にはアメリカ政府の冷酷な現実を鋭く批判する楽曲である。
- 「地元でのトラブルが原因で徴兵された」
- 「戦争に送り込まれ、祖国に戻っても何の助けも得られない」
- 「兄は戦死し、戦争は終わったのに敵はまだそこにいる」
これらの描写は、ベトナム戦争帰還兵が直面した苦しみや、アメリカ社会が彼らをどのように扱ったのかを痛烈に表現している。
また、「I’m ten years burning down the road(10年が過ぎたけど、どこへ行けばいいのか分からない)」という最後のラインは、戦争から帰還した後も希望を見出せず、未来を描くことすらできない主人公の絶望を象徴している。
スプリングスティーンは、この楽曲について「これは誇りの歌ではなく、怒りの歌だ」と述べており、アメリカ社会の持つ光と影を浮き彫りにする作品であることを強調している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “The River” by Bruce Springsteen – 夢と現実のギャップを描いた切ないバラード。
- “Fortunate Son” by Creedence Clearwater Revival – ベトナム戦争の社会的不平等を批判した楽曲。
- “This Land Is Your Land” by Woody Guthrie – アメリカの不平等を訴えたフォークソング。
- “Blowin’ in the Wind” by Bob Dylan – 平和と社会問題を歌った象徴的な楽曲。
- “Pink Houses” by John Mellencamp – アメリカの夢とその現実を対比した作品。
6. 楽曲の影響と特筆すべき事項
「Born in the U.S.A.」は、ロック史の中でも最も誤解された曲のひとつとして有名である。
- レーガン大統領の誤用
- 1984年のアメリカ大統領選挙中に、ロナルド・レーガン大統領がこの楽曲を「アメリカの誇りの象徴」としてスピーチで引用した。
- しかし、スプリングスティーンはこの解釈を否定し、楽曲のメッセージが「アメリカの現実を批判しているもの」であることを明言した。
- 商業的成功と文化的影響
- 『Born in the U.S.A.』は、スプリングスティーンの最大の商業的成功を収めたアルバムであり、全世界で3,000万枚以上を売り上げた。
- 表題曲「Born in the U.S.A.」は、アメリカの国歌のように扱われることもあるが、実際には社会批判の視点を持つ楽曲として、今なお多くの議論を呼んでいる。
- ライブでの演奏スタイル
- スプリングスティーンは、この楽曲をアコースティック・バージョンで演奏することも多く、そうすることで歌詞のメッセージにより焦点を当てる意図がある。
7. まとめ
「Born in the U.S.A.」は、単なるアメリカ賛歌ではなく、戦争帰還兵の苦悩とアメリカ社会の矛盾を描いた社会派のロックソングである。
力強いサウンドとキャッチーなメロディとは裏腹に、その歌詞は痛烈な批判を込めており、スプリングスティーンの音楽が持つ「リアルなアメリカの姿を伝える」という意義を象徴する楽曲となっている。
誤解されやすいがゆえに、多くのリスナーがこの楽曲を深く掘り下げることで、スプリングスティーンの真のメッセージを理解する機会となるだろう。
コメント