発売日: 2023年10月20日
ジャンル: アダルト・コンテンポラリー、ポップ・ロック、シンガーソングライター
概要
『Body of Work』は、伝説的シンガーソングライターAlbert Hammondが2023年に発表した新作スタジオ・アルバムであり、音楽人生の“最終章”を祝福し、総括するかのような感動的作品である。
タイトルの「Body of Work（作品群）」は、彼がこれまでに生み出してきた膨大な名曲の集積を意味すると同時に、**「これはまだ終わりではない」という“現在進行形の意思表示”**でもある。
本作では、従来のアコースティック・ポップに加え、ロック調のエネルギーやシンフォニックな要素も導入。
メロディは端正で覚えやすく、詞は人生、愛、平和、そして音楽への深いまなざしに貫かれている。
そのどれもが、Hammondのこれまでと“これから”を結びつける、静かな感動に満ちた歌となっている。
全曲レビュー
1. Don’t Bother Me Babe
アルバムを勢いよく開けるロック・チューン。
軽快なビートとウィットに富んだリリックが光り、「昔のことはもう気にしないさ」という陽気な開き直りが心地よい。
70年代を彷彿とさせるギターサウンドも懐かしく新しい。
2. Gonna Save the World
“世界を救うのは、歌と愛”というHammondの信念をストレートに歌ったパワーポップ。
サビでの高揚感とコーラスの多幸感が、まるでスタジアム・アンセムのよう。
Albert Hammond流の“理想主義ロック”がここにある。
3. Shake a Bone
ブルージーで泥臭いビートが特徴の楽曲。
欲望と迷いをユーモラスに描きつつ、人生の抜け道を肯定するようなリリックが印象的。
ヴォーカルのしゃがれ具合がむしろ味わいを深めている。
4. Lay Down
人生の疲れを優しく抱きしめるようなバラード。
「少しだけ横になって、泣いていいんだよ」というテーマが、年齢を重ねた歌手だからこそ響く。
ストリングスのアレンジも抑制的で美しい。
5. One More Hallelujah
信仰や救済を暗に滲ませながら、愛の力を讃えるソウル・バラード。
クワイア風のバックコーラスが高揚感を与え、シンプルな言葉が魂を打つ。
“最後のハレルヤ”が、まだ終わらない音楽人生を祝福している。
6. Looking Back
アルバムのなかでも特に“回想”に重点を置いたトラック。
過去の恋、出会い、別れを優しく振り返る。
そのノスタルジーは湿っぽくならず、むしろ晴れやかで穏やかだ。
7. Under the Sun
軽やかなリズムとウクレレ調のギターが印象的なサマー・ポップ。
“太陽の下では誰もが平等”というリリックが、シンプルな平和主義を体現している。
8. Don’t Say You Don’t Remember Me
失われた恋を描いた哀愁漂うバラード。
「覚えていてほしい」という願いは、音楽という永続する“記憶の器”そのもののようだ。
9. Body of Work
タイトル曲にして、アルバムの精神的中核。
“これは自分の人生の記録であり、愛と悔いと希望のすべてが詰まっている”という、作家としての自己表現をストレートに歌う。
まさに“人生そのもの”を音に託した感動的な名曲。
10. You Can’t Take Me Away
ラストを飾るのは、抵抗と誇りに満ちたロックナンバー。
「音楽がある限り、私は生きている」というフレーズが突き刺さる、Albert Hammondの“生存宣言”。
総評
『Body of Work』は、Albert Hammondが自らのキャリアを慈しみながらも、まだ歌い続けることを宣言する強く静かな作品である。
このアルバムは、回顧ではなく進行中の自伝であり、かつての名曲に頼らず、“いまの自分が書く新しい名曲”を堂々と提示している点にこそ価値がある。
彼の声は少しかすれ、テンポも穏やかだが、そのぶんすべての言葉とメロディが真摯である。
“もう一度だけ歌わせてくれ”というような気配はなく、むしろ“これが始まりでもいい”という開かれた感覚がある。
だからこそ、リスナーはそこに**年齢ではなく“魂の若さ”**を見るのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- 『Keep Going』 / Tim Hardin（2000）
晩年のソングライターによる内省的なアルバム。成熟した詞世界が共鳴。 - 『This Path Tonight』 / Graham Nash（2016）
老境に達したシンガーによる誠実な“いま”の歌。 - 『Old Ideas』 / Leonard Cohen（2012）
時を超えて生きる作家としての表現が、Hammondと重なる。 - 『I Still Do』 / Eric Clapton（2016）
過去に耽らず、音楽と生きることを選んだベテランのアルバム。 - 『Flesh and Bone』 / Richard Marx（2014）
往年のポップス職人による誠実な大人のポップ・ロック。
ビジュアルとアートワーク
ジャケットには、黒いスーツに身を包んだAlbert Hammondが、やや微笑みながらこちらを見つめている。
背景はシンプルなグレー。
だが、その表情はまるでこう語りかけているようだ――
「これが私の音楽人生の“身体（Body）”であり、魂の記録（Work）なのだ」と。
音楽のなかに人の人生が宿るとすれば、このアルバムはまさにその証明である。
Albert Hammondはまだ歌っている。そして、それこそが最大の奇跡なのだ。
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