アルバムレビュー：Blood by Collective Soul

発売日: 2019年6月21日
ジャンル: オルタナティブロック、ポップロック、アメリカンロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
歌詞の深読みと文化的背景

概要

『Blood』は、Collective Soulが結成25周年を迎えた2019年にリリースした10作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの“血”＝本質、原動力、連帯をテーマにした、熟成されたエネルギーが凝縮された作品である。
『See What You Started by Continuing』（2015）での原点回帰を経て、今作ではさらにサウンドが磨かれ、過去・現在・未来のCollective Soulを同時に鳴らすような立体感ある一枚に仕上がっている。

タイトル『Blood』には、文字通り“血縁”や“血肉”の意味に加え、バンド内の絆や、音楽と生きることの切実さを象徴するスピリチュアルな含意が込められている。
エド・ローランドを中心とした不動のメンバーシップが、人間的な温もりと、時代に左右されない不変のロック・スピリットを見事に体現した作品であり、同時に初期ファンと新規リスナーの双方に向けた“開かれた音”でもある。

全曲レビュー

1. Now’s the Time

オープニングを飾る爽快なロック・ナンバー。
“今こそ動く時”という前向きなメッセージが、25年を経てもなお挑戦を続ける姿勢を鮮やかに示す。
ギターリフとコーラスの躍動感が心地よい。

2. Over Me

ややヘヴィでタイトなサウンドが印象的なミドルテンポのロック。
恋愛や人間関係における支配と自立のテーマが、シンプルながらも深く掘り下げられている。

3. Crushed

ファンキーで遊び心のあるリズム・セクションが楽しい異色曲。
愛や欲望に押しつぶされる感覚を、ユーモアとグルーヴで包み込むアプローチが新鮮。

4. Right as Rain

アルバム屈指のポップソング。
「雨のように正しい」という比喩が、自然体でいることの心地よさを爽やかに伝える。
キャッチーなメロディはラジオ向けでもある。

5. Them Blues

ブルースロックのテイストを大胆に導入したタフなトラック。
ロックンロールのルーツを感じさせる重厚感と風格が漂う、バンドの地力を感じさせる1曲。

6. Good Place to Start

シンプルなギターリフと伸びやかなサビが心に残る、リスタートをテーマにした希望のアンセム。
Collective Soulらしい前向きさと誠実さがにじむ。

7. Observation of Thoughts

内省的で静かなムードが漂う、哲学的なリリックが特徴の曲。
“思考を観察する”というメタ的な視点が、静けさと知性を帯びた印象を与える。

8. Changed

人生の転機や心境の変化を歌う叙情的なバラード。
ピアノとアコースティックギターが中心のアレンジが、感情の繊細な揺れを丁寧に表現する。

9. Big Sky

アメリカン・ロックらしい開放的なスケール感を持つミッドテンポの楽曲。
“空の広さ”が、自由、希望、逃避、あるいは新しい旅立ちを象徴している。

10. Porch Swing

ラストを飾る穏やかなアコースティック・バラード。
“ポーチのブランコ”というノスタルジックなイメージが、家族や故郷、過ぎ去った時間への優しいまなざしを描き出す。

総評

『Blood』は、Collective Soulというバンドの“血の中にある音楽”を、最も素直な形で提示した誠実で温かなロック・アルバムである。
そこには怒りも虚勢もない。あるのは、長く続けてきた者だけが持つ、音楽とともに生きる喜びと確信だ。

本作は、20代の反抗でもなく、40代の達観でもない、50代に入ったバンドが鳴らす“肯定”の音楽なのだ。
だからこそこの作品は、ジャンルや世代を超えて多くのリスナーに響く“人間の音楽”となっている。

歌詞の深読みと文化的背景

『Blood』に通底するのは、“絆”と“継承”である。
バンドという形態が20年、30年と続いていくなかで、音楽そのものが「血」として循環し続けることの意味を、このアルバムは静かに語っている。
歌詞には自我の暴発も政治的メッセージもない。
だが代わりに、“誰かを思うこと”“日常を肯定すること”という、小さくて強い価値観がある。

Collective Soulはここで、かつての自分たちを更新しながら、“血を通わせるロック”を今なお奏でている。