アルバムレビュー：Be a Girl by The Wannadies

発売日: 1994年11月21日（スウェーデン）、1995年10月16日（UK再リリース）
ジャンル: パワーポップ、オルタナティヴ・ロック、ブリットポップ、インディーロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
ファンや評論家の反応

概要

『Be a Girl』は、スウェーデンのパワーポップ・バンド The Wannadies にとって国際的ブレイクを果たした決定的サード・アルバムである。
1994年に本国スウェーデンでリリースされた後、UKのレーベルIndolent Recordsから再発され、
収録曲「You and Me Song」が1996年にイギリスの映画『ロミオ+ジュリエット』に起用されたことで、彼らの名は世界中に知られることとなった。

本作では、前作『Aquanautic』にあったノイジーなギターと疾走感を保ちながらも、
より明確にポップな旋律、美しいコーラス、洗練されたアレンジへとシフト。
同時代のブリットポップ・ムーヴメントとも呼応しながら、スウェーデンならではのメロディ感覚と叙情性が際立った作品となっている。

全曲レビュー

1. You and Me Song

バンド最大のヒット曲にして90年代ラブソングの象徴。
リリース当初は地味な存在だったが、映画での使用を契機に再浮上。
“Always and forever” のリフレインが、シンプルながら深い愛の形を軽やかに描く。
パンク的シンプルさと甘酸っぱいメロディの完璧なバランス。

2. Might Be Stars

前作『Aquanautic』からの再収録。
「僕らは星かもしれない」——希望と不安、青臭さと輝きが交錯する、青春のアンセム的1曲。
疾走するギターとコーラスの美しさが際立つ。

3. How Does It Feel?

こちらも再録ながら、ブラッシュアップされたサウンドで本作に見事に馴染んでいる。
浮遊感のあるサウンドと叙情的なヴォーカルが絶妙な距離感で並走する名バラード。

4. New World Record

ストレートなロックチューン。
「僕らだけの世界記録」というキーワードが、恋と逃避行の比喩として機能する。
明快なメロディと爆発力で、ライブ映えする一曲。

5. Dying for More

感情が高ぶるボーカルとバンドの一体感が凄まじい。
満たされない愛と欲望のスパイラルを疾走感で包む、切なさと激情の交差点。

6. Soon You’re Dead

皮肉と諦念に満ちた一曲ながら、メロディは極めて爽やか。
タイトルの毒気に反して、“今を生きろ”というメッセージにも読める。
ポップさと冷笑が共存する好例。

7. Do It All the Time

ピアノとギターが交互にリードを取り、リズムに跳ねがあるダンサブルな楽曲。
好きなことを“ずっとやり続ける”というシンプルな欲望の肯定が眩しい。

8. Dreamy Wednesdays

アルバム中最もスロウでメランコリックな楽曲。
「夢見る水曜日」は、日常と非日常が重なる曖昧な時間を描いた美しいバラッド。
ノスタルジックなキーボードと控えめなストリングスが印象的。

9. Kid

短く、勢いのあるポップ・パンク的楽曲。
子どもの視点を借りて、無垢な目線から世界を見つめ直すような構成。
シンプルでいて芯のある曲。

10. Lee Remick（The Go-Betweensカバー）

再録されたカバー曲。原曲への愛が伝わる演奏で、瑞々しいポップ感と軽妙なリリックの相性が抜群。
The Wannadiesが“メロディに敬意を持つバンド”であることがよく分かる選曲。

総評

『Be a Girl』は、The Wannadiesのキャリアにおける決定的作品であり、
90年代ポップロックの金字塔的アルバムである。
その魅力は、なんといってもキャッチーなメロディと青春のスピード感、そして無邪気さと少しの毒を絶妙に混ぜ込むセンスにある。

ブリットポップの全盛期、OasisやBlur、Pulpといった英国勢が脚光を浴びていた中で、
スウェーデンから現れたこのバンドが見せたのは、よりオープンで感情的、そして普遍的なラブソングのあり方だった。
「You and Me Song」だけでは語り尽くせない、アルバム全体に息づくユースカルチャーとギターポップの理想こそが、この作品の真の魅力である。