
1. 歌詞の概要
「Battery(バッテリー)」は、Metallicaが1986年にリリースしたアルバム『Master of Puppets』のオープニングを飾る怒涛のスラッシュ・メタル・ナンバーであり、その激烈なテンポと破壊的なエネルギー、そして内面的怒りの爆発を象徴する重要作である。
タイトルの「Battery」は、単なる“電池”ではなく、“暴行”や“攻撃性”を意味する軍事用語・法的用語としての意味合いを持ち、さらにはサンフランシスコの音楽シーンの中心地「Battery Street」へのオマージュも含まれているとされる。
つまりこの曲は、「外からの抑圧に対する内なる力の爆発」「仲間との団結による力の誇示」、そして「音楽による精神の解放」をテーマとして内包している。
サビに至るまでのテンションの高まり、切れ味鋭いギターリフ、破裂するようなドラム――すべてが「精神的な攻撃力」のメタファーとして機能しており、その音の塊がリスナーを殴りつけるかのように迫ってくる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Battery」は、James Hetfield(ジェイムズ・ヘットフィールド)とLars Ulrich(ラーズ・ウルリッヒ)の共作によって誕生した。
本作が収録された『Master of Puppets』は、バンドの成熟と共に思想的深みを増したアルバムであり、「権力」「中毒」「戦争」「狂気」といったテーマが貫かれている。
「Battery」は、そのアルバムの幕開けとして、暴力性と連帯感、そして“破壊による創造”という逆説的な哲学を強烈に提示している。
この曲はまた、Metallicaが育ったカリフォルニアのベイエリア・スラッシュ・シーンへの誇りと結びついており、特にライブ会場やファンコミュニティでの“音楽による結束”というテーマを含んでいる。
一見するとただの破壊的なナンバーだが、その実、深くエモーショナルな精神的連帯の歌でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Lashing out the action, returning the reaction
行動を叩きつければ、反応が返ってくるWeak are ripped and torn away
弱き者は引き裂かれ、打ち捨てられるHypnotizing power, crushing all that cower
催眠のような力が、怯える者すべてを粉砕するBattery is here to stay
バッテリーはここにあり、消えはしないSmashing through the boundaries
境界線を叩き壊してLunacy has found me
狂気が俺を見つけ出すCannot stop the battery
バッテリーは止められない
出典: Genius Lyrics – Battery by Metallica
4. 歌詞の考察
「Battery」は、“怒りの浄化”とも言える楽曲である。
ここで描かれるのは、暴力による支配ではない。「破壊することによって初めて自己が解放される」という、パンクやハードコアにも通じる精神の反逆である。
特に印象的なのが、「Hypnotizing power(催眠のような力)」「Crushing all that cower(怯える者を粉砕する)」といったラインに表れる、“支配への反支配”という構造。
語り手は、外からの圧力に屈するのではなく、逆にその圧力を跳ね返す“攻撃的防衛”のスタンスを取っている。
つまりこれは、虐げられてきた者の怒りと、団結によって生まれる新たな力への讃歌なのだ。
また、「Battery is here to stay(バッテリーはここにあり続ける)」というラインには、音楽そのものが不滅の武器であり、信仰に近い存在であるという意味が込められている。
それは単なる自己肯定ではなく、現実と対峙し続けることへの決意表明であり、ステージでギターを構えるMetallica自身の姿とも重なる。
興味深いのは、曲の冒頭が美しいクラシック調のアルペジオで始まり、そこから一気に暴力的リフへ転調する構造だ。
この対比は、「怒りが常に突然現れるものではなく、抑圧された静けさの中に潜んでいる」というメッセージとしても読むことができる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Damage, Inc. by Metallica
『Master of Puppets』の締めくくりを飾るもう一つの破壊的名曲。暴力性と自由意志の交差。 - Fight Fire with Fire by Metallica
怒りには怒りをもって応える、破滅的でスピーディーな一曲。 - Raining Blood by Slayer
破壊、宗教、暴力のカタルシスを極限まで追求したスラッシュ・メタルの金字塔。 - Peace Sells by Megadeth
反社会的な視点からアメリカを批評した攻撃的かつ知的な一曲。 - Angel of Death by Slayer
歴史の狂気を描いた、音と言葉による精神的拷問。
6. 怒りは破壊ではなく、再生のためにある
「Battery」は、ただの“速くて重い曲”ではない。
それは、押し込められた感情の爆発であり、社会に対する異議申し立てであり、音楽を通じた精神の連帯なのである。
この曲の凶暴性は、無意味な暴力ではない。それは抑圧された個人が、自分を取り戻すために叫び、拳を振り上げるための“武器”であり、魂の再構築のための“火薬”なのだ。
そしてその火花は、ライブ会場でこそ最大限に発火し、聴く者すべてを“バッテリー”へと変える。
止めることなどできない――それがMetallicaの叫びであり、そして「Battery」の本質なのだ。
怒りの力を、破壊ではなく再生へと昇華するその姿勢にこそ、Metallicaの真の強さが宿っている。
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