アルバムレビュー：Bad Luck Streak in Dancing School by Warren Zevon

アルバムレビュー

2025.05.04

発売日: 1980年2月
ジャンル: ロック、ハードロック、シンガーソングライター

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
歌詞の深読みと文化的背景
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概要

『Bad Luck Streak in Dancing School』は、ウォーレン・ジヴォンが1980年に発表した4作目のスタジオアルバムであり、
大成功を収めた『Excitable Boy』の次作として制作された、よりダークで個人的な作品である。

前作のキャッチーさやポップさを期待したリスナーにとっては意外な方向性だったかもしれないが、
ここではジヴォン自身の内面の苦悩、怒り、諧謔（ブラックユーモア）が、
より鋭利に、より生々しく表現されている。

制作にはイーグルスのメンバー（グレン・フライ、ドン・ヘンリー）、
デヴィッド・リンドレー、J.D.サウザーら豪華ゲストが参加。
また、ストリングスやクラシック音楽の要素も導入され、
ジヴォンの作曲家としての幅広さと野心が窺える作品となっている。

全曲レビュー

1. Bad Luck Streak in Dancing School

アルバムタイトル曲。
激しいギターリフに乗せて、人生の運命の皮肉を短く痛烈に歌い上げるオープニングナンバー。

2. A Certain Girl

ニューオーリンズのR&Bクラシック（オリジナルはErnie K-Doe）をカバー。
ジヴォン流にひねりを加えた、軽快でシニカルなロックナンバー。

3. Jungle Work

傭兵たちの戦争ビジネスをテーマにした、緊張感あふれるハードロック。
戦場の狂気を、乾いた筆致で描き出している。

4. Empty-Handed Heart

リンダ・ロンシュタットとのデュエットによる、切ないバラード。
愛の終わりと喪失感を、静かに、しかし深く滲ませる。

5. Play It All Night Long

アメリカ南部の荒廃と退廃を、ブルース調の重厚なサウンドに乗せて描いた異色作。
ニール・ヤングの名を直接歌詞に出すなど、
大胆な引用とリアルな描写が光る。

6. Jeannie Needs a Shooter

ブルース・スプリングスティーンとの共作。
哀愁漂うメロディに乗せて、
不穏な愛と暴力の影を描く、ジヴォンらしいダークな叙情詩。

7. Long Arm of the Law

不条理な運命と社会の冷酷さを、皮肉たっぷりに描くミディアムテンポのナンバー。

8. Gorilla, You’re a Desperado

都会に生きる哀れなサラリーマンの悲哀を、
コミカルかつ風刺的に歌ったユニークな楽曲。

9. Bed of Coals

愛の燃え殻の中に取り残された心情を、しっとりと描く内省的なバラード。

10. Wild Age

アルバムのラストを飾る、成熟と喪失をテーマにした美しいナンバー。
ジヴォンのシンガーソングライターとしての力量が、静かに、だが確かに響く。

総評

『Bad Luck Streak in Dancing School』は、
『Excitable Boy』のポップな成功に続く道を拒否し、
ウォーレン・ジヴォンがより内省的でダークな表現に挑んだ野心作である。

ここには、
一筋縄ではいかない人間の弱さ、愚かさ、そして哀しみが詰まっている。
ロックンロールの快楽よりも、
現実の荒涼とした風景を描くことを選んだジヴォンの選択は、
商業的には賛否を呼んだが、
アーティストとしての誠実さと独自性を強く印象づけることになった。

『Bad Luck Streak in Dancing School』は、
壊れたアメリカン・ドリームの時代に生きる者たちへの冷ややかで優しいレクイエムなのである。

歌詞の深読みと文化的背景

1980年――
ベトナム戦争後、ウォーターゲート後のアメリカは、
政治的不信、経済の停滞、そして社会の分断を深めていた。

『Bad Luck Streak in Dancing School』に通底するのは、
そうした理想の喪失と個人の孤立感である。

「Play It All Night Long」では、
農場の荒廃と家族の崩壊を淡々と描き、
「Jungle Work」では、
傭兵ビジネスに堕ちていく人間の姿を冷徹に捉える。

ウォーレン・ジヴォンは、
単なる憂国の士ではない。
彼は、
世界が壊れていく様子を、哀しみと皮肉の両方で見つめることのできた、
数少ない語り手だった。

『Bad Luck Streak in Dancing School』は、
そんなジヴォンの、
壊れた時代に対する不器用な優しさを刻んだアルバムなのである。