アルバムレビュー:Baby 81 by Black Rebel Motorcycle Club

発売日: 2007年5月1日
ジャンル: ガレージロック、オルタナティヴ・ロック、ハードロック、サイケデリック・ロック


喪失からの帰還、そして再起動——“黒き鼓動”が再び轟いた瞬間

2007年、Black Rebel Motorcycle Club(BRMC)は、前作『Howl』のアコースティックなルーツ回帰路線を経て、再び轟音とドライヴ感を取り戻す形で『Baby 81』をリリースした。
このアルバムは、単なる“原点回帰”ではない。
むしろそれは、内省を経た後の“進化した爆音”、つまり魂を通過したノイズの帰還なのである。

タイトルの“Baby 81”は、2004年のスマトラ沖地震で発見された、生存者の赤子(識別番号が”81番”)に由来する。
混乱と破壊、そして生への希望を象徴するこの名前は、BRMCが自らの崩壊と再生を重ねたメタファーとも読める。
実際、ドラマーNick Jagoが一時的に脱退した後に復帰し、バンドは混乱から再構築の時期を迎えていた。
本作はその痛みと闘争、そして新たな連帯の記録である。


全曲レビュー

1. Took Out a Loan

分厚いギターと反復するリズムがアルバムの幕を切って落とす。
ローンという日常的な言葉を通じて、現代人の焦燥や負債感を象徴的に歌い上げる、タフで乾いたロックンロール。

2. Berlin

ニューウェーブ感をにじませた軽快なトラック。
どこか冷たく無機質な印象を持ちつつも、コーラスにはBRMCらしい湿度が漂う。
タイトルの都市名が示すように、分断と再生の物語を感じさせる。

3. Weapon of Choice

本作のリード曲にして、最もアリーナ映えするアンセミックなナンバー。
「自分の武器は何か?」という問いかけに、ギターとビートで答える強烈なメッセージソング。

4. Windows

サイケデリックなエフェクトと陰影あるコード進行が印象的な、アルバム中屈指の深遠トラック。
「窓の向こうに何が見えるか」を問いながら、心象風景を浮かび上がらせる。

5. Cold Wind

タイトル通り、冷たくも鋭い風のように吹き抜ける一曲。
スロウでヘヴィなリズムが、孤独と憂鬱を増幅させる。

6. Not What You Wanted

内省的なバラード。
期待とのズレ、関係の終わり、すれ違いといった“現代のメランコリア”を、静かな語り口で描き出す。
後半にかけての感情の高まりが美しい。

7. 666 Conducer

悪魔的なタイトルに反して、グルーヴィでメロディックな展開。
“導く者”が堕天使か救世主かは不明なまま、サイケとロックの境界を揺らがせる。

8. All You Do Is Talk

抑制された導入から徐々に熱を帯びていく構成が見事。
タイトルの「君は話してばかりだ」という冷笑的なフレーズが、皮肉とも哀しみとも取れる。

9. Lien on Your Dreams

ドリームとローンが交差するようなタイトルが象徴的。
スモーキーでスローなブルース・ナンバー。
夢を担保に生きる苦さが滲む。

10. Need Some Air

バーストするような爆音と、息苦しさからの脱出願望が直結する楽曲。
感情が爆発する瞬間の焦燥と歓喜が同時に詰まっている。

11. It’s Not Enough

本作随一のメランコリックな美しさを持つバラード。
「それでも足りない」という諦念が、逆に人間の愛と希望を際立たせる。

12. Killing the Light

終盤にふさわしいダークでエモーショナルなトラック。
光を殺すというセンセーショナルなタイトルの裏に、喪失と再生の感覚が滲む。

13. American X

10分を超える大作にして、本作のサイケデリック・ピース。
アメリカという国、または“自我”そのものを問うような重層的構成。
映像的な音像と壮大なスケールに圧倒される。

14. Am I Only

静かな幕引きを担当するクローザー。
問いかけるようなタイトルに込められた“自己の境界の揺らぎ”が、BRMCの内面性を象徴するラスト。


総評

Baby 81は、BRMCがノイズと内省、政治性と感情性のバランスを取ろうとした野心的なアルバムである。
B.R.M.C.』や『Take Them On…』のノイジーなロックンロールに、『Howl』のスピリチュアルなエッセンスがにじみ、“過去作の統合体”としての完成度を感じさせる。

混乱と崩壊のあとに、BRMCは“かつての自分たち”に戻るのではなく、“変化したままの音”で前進した。
その結果が、この力強く、しかしどこか傷を引きずるような作品だ。
それはまるで、“焼け跡に咲く黒い花”のようである。


おすすめアルバム

  • The Black Angels – Passover
     サイケと政治的メッセージが融合した重厚なロック。『American X』が刺さったら必聴。
  • The RaveonettesPretty in Black
     ノイズとメロディ、50’sリヴァイバル感が同居する。BRMCの柔らかい側面と好相性。
  • Silversun Pickups – Carnavas
     轟音と感情のミックス。BRMCのエモーショナルな面と共鳴。
  • Black Keys – Attack & Release
     ブルースルーツとモダンロックの融合。『Lien on Your Dreams』的質感と親和性あり。
  • Dead Meadow – Feathers
     幻想と重量感が溶け合うサイケ・ロック。BRMCのローファイ志向とマッチ。

 

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