発売日: 2009年10月20日
ジャンル: メタルコア、カオティック・ハードコア、スラッジメタル、ポストメタル
概要
『Axe to Fall』は、Convergeが2009年に発表した通算7作目のスタジオ・アルバムであり、
過去最も野心的かつコラボレーション色の強い作品として、彼らの芸術性とハードコア精神の到達点を示した一作である。
本作は、前作『No Heroes』(2006)の激烈な怒りと対峙する形で、より多様なジャンルのエッセンスとドラマ性を導入し、
ゲストにCave Inのスティーヴ・ブロドスキー、Neurosisのスコット・ケリー、Genghis TronやHimsaのメンバーらを迎えたことで、
Convergeの音楽的世界が、地下ハードコアという枠を越えて“創造的共同体”のひとつとして広がっていることを証明している。
アルバムタイトル「Axe to Fall(落ちる斧)」は、刹那の判断と破滅の瞬間を象徴するメタファーであり、
Convergeが初期から一貫して追求してきた“破壊の中の真実”という主題を、改めて現代的な文脈で再構築している。
全曲レビュー
1. Dark Horse
重厚なドラムとうねるようなギターで幕を開ける、荒馬のごとき突進曲。
“不確かで侮られていた者が力強く走り出す”という意味での「ダークホース」は、本作のテーマを象徴的に表す開幕曲である。
2. Reap What You Sow
収穫=報いのメタファーを使いながら、暴力的な選択がもたらす破壊の連鎖を描く。
複雑なリズムとカオティックな展開が凄まじく、まさに音の鎌が振り下ろされるようだ。
3. Axe to Fall
タイトル曲にして、アルバムの感情的核。
ギターの鋭いカッティングと“burn, burn, burn”の咆哮が、破滅の美学と共犯意識を強烈に打ち出す。
Convergeの“現在”と“歴史”が交差する名曲である。
4. Effigy
ゲストにThe Hope ConspiracyのKevin Bakerを迎えた一曲。
「イメージ(Effigy)」が焼かれるように、理想や信仰が形骸化し、失望へと転化していくプロセスを爆音で突きつける。
5. Worms Will Feed / Rats Will Feast
本作屈指のスロー&ヘヴィな異色曲。
沈むようなベースラインと不穏な空間演出で、腐敗と終末、捕食のメタファーが浮かび上がる。
ポストメタル的アプローチが際立つ名トラック。
6. Wishing Well
一転してショートで攻撃的な疾走曲。
「願いの井戸」という詩的なタイトルとは裏腹に、信仰と希望を皮肉るアジテーションが炸裂する。
7. Damages
“損傷”という言葉そのままに、破壊された関係や精神を描いた実験的トラック。
不規則なリズムが混乱と動揺を可視化する。
8. Losing Battle
終始フルスロットルのカオス。
「負け戦」というネガティブなテーマでありながら、**反抗と持続の意志が込められた“負け方の美学”**が感じられる。
9. Dead Beat
本作で最もパンク色の強い短距離爆走曲。
ニヒリズムと社会批判を込めつつも、刹那的な生の美学を貫く痛快なトラック。
10. Cutter
タイトルどおり、切断・分断をテーマにした一曲。
ギターの切れ味が研ぎ澄まされており、**言葉や関係を切り捨てる“音のナイフ”**のように機能する。
11. Cruel Bloom
Neurosisのスコット・ケリーを迎えたスロウでドゥーミーな楽曲。
アコースティックな導入と咆哮の対比が強烈で、絶望の中にも咲く花=美と死の融合が音像化されている。
12. Wretched World
Genghis Tronを中心に複数ゲストが参加した、アルバムの壮大な終幕。
不穏なシンセとバンドの混沌が絡み合い、“ひどく歪んだ世界”に対するレクイエム的な深淵さを持つ。
終わり方はまるで音が崩れていくようで、破壊の果てに何も残らない虚無を提示しているかのようである。
総評
『Axe to Fall』は、Convergeが長年培ってきた**“激情と構築”という対立項を超えて、共闘と実験を全面に押し出した転換点的作品**である。
本作では、ゲストの参加が単なる装飾にとどまらず、それぞれの曲に異なる人格と物語性を与えている点が特筆される。
音楽的には、従来のメタルコア/ハードコアに加え、スラッジ、ポストメタル、ドゥーム、さらにはアンビエント的要素まで取り入れ、
まさに「Convergeという集合体」の現在形を提示した内容となっている。
同時に、「Axe to Fall」という表題に通底するのは、“選択と結果”“信念と崩壊”の狭間で揺れる存在者の苦悩であり、
その哲学的かつ情動的な重みこそが、聴き手に深い余韻と覚醒を与えてやまない。
おすすめアルバム(5枚)
- Neurosis – Given to the Rising (2007)
スコット・ケリー参加曲との親和性が高く、ポストメタルとの接続点として必聴。 - Cave In – Jupiter (2000)
メロディとカオス、叙情と破壊の対比が見事な、ゲスト陣との音的共通項を持つ一枚。 - Gaza – No Absolutes in Human Suffering (2012)
哲学的なリリックとカオティックな構築美がConverge以降の系譜にある。 - The Dillinger Escape Plan – Option Paralysis (2010)
テクニカルな暴力と情緒の交錯。コラボ的精神性の共鳴が見られる。 -
Kvelertak – Meir (2013)
Convergeメンバーとの制作歴あり。激情とメロディのバランスが本作と共鳴する。
制作の裏側
『Axe to Fall』では、制作スタジオとしてBallouのGodCity Studioが中心となり、
録音からミックス、マスタリング、アートワークまでをConverge自身が内製的にコントロールしている点が大きな特徴である。
また、ゲスト陣の録音にはそれぞれの地元スタジオも利用され、まるで**「ハードコア・コレクティブによる共同制作」**のような体制で完成された。
ジェイコブ・バノンは「これは“Converge”というより、われわれの信頼する音楽仲間による“叫びの合唱”だ」と語っており、
その精神性こそが『Axe to Fall』という作品を特別なものにしている理由なのかもしれない。
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