発売日: 1993年10月12日
ジャンル: パワー・ポップ、オルタナティヴ・ロック、ポスト・グランジ
概要
『Aurora Gory Alice』は、米ボストン出身のバンド Letters to Cleo が1993年に発表したデビュー・アルバムであり、
90年代初頭の女性フロントを擁するギターポップ・ムーヴメントの象徴的作品のひとつとして知られる。
このアルバムは、インディー・レーベルCherryDiscからのリリース後、地元ボストンでの大きな支持を受け、
その後メジャーレーベルGiant Recordsにより再リリース。
結果的に、バンドは全国的な注目を集めることとなった。
ヴォーカルのケay Hanleyのクリアでパンキッシュな声と、
疾走感あふれるギターワーク、そして甘くも切ないメロディセンスは、
当時のポップ・パンクやオルタナ・ギターロックの流れと重なりながらも、
より洗練されたポップ・フォーミュラとして高く評価された。
タイトル「Aurora Gory Alice」は「A Roaring Glory Alice」との言葉遊びとも解釈されており、
少女的無垢と激しい感情との衝突を象徴するような、バンドの世界観にぴったりのイメージだ。
全曲レビュー
1. Big Star
アルバムの冒頭を飾るストレートなギターポップ・アンセム。
「私はビッグスターになるのよ！」というメタ的で挑戦的なタイトルに反し、
不安と希望が交差する等身大の願望が滲む。Hanleyのヴォーカルが初手から印象的。
2. I See
軽快なギターリフと跳ねるドラムが印象的な一曲。
「君を見てる」というタイトルながら、内容は喪失と未練にまみれた恋の後始末。
甘さの中に毒がある、Letters to Cleoらしい楽曲。
3. Here & Now
本作のハイライトにして、後にTVドラマ『Melrose Place』で使用されブレイクのきっかけとなる名曲。
どこまでも明るいメロディと、「今だけを生きる」という能動的なメッセージが重なる。
90年代女性ボーカル・ロックの金字塔的楽曲。
4. Awake
内省的で静かな立ち上がりから、次第に熱を帯びていく構成が秀逸。
“目覚める”という言葉が、感情の再起動として機能する。
5. Anchor
強い感情を“錨（Anchor）”に例えたバラード調のミディアムナンバー。
束縛と安定の境界を描く歌詞に、ケイ・ハンリーの繊細な語りが冴える。
6. Rim Shak
ややファンキーなギターリズムと重たいドラムが特徴的な変化球。
全体の中でも異色のグルーヴ感があり、バンドの演奏力の高さを印象づける。
7. From Under the Dust
ノイジーで荒々しいギターサウンドが、パンク的な初期衝動を感じさせる。
アルバムの中でも最も“地下室バンド”的な雰囲気が残る曲。
8. Mellie’s Coming Over
語りかけるような歌詞と、日常の情景を描写したストーリー性の強い一曲。
「メリーがやってくる」というタイトルに、若干のユーモアと甘酸っぱさがある。
9. Wasted
燃え尽きた恋とそれでも続いてしまう思いを描いた、アルバム中でもっともエモーショナルなトラック。
サビでのHanleyのボーカルの引き絞られた高音が心を突く。
10. Come Around
アルバム終盤に現れる明るめのギターポップ。
関係の再接続や友情の復活をテーマにしており、やや希望を取り戻すようなムードがある。
11. Step Back
ラストにふさわしい、疾走感あるメロディと余韻を残すコード進行が印象的。
“少し距離を取る”というタイトルが、自己肯定と前進の予兆を含んで終わる。
総評
『Aurora Gory Alice』は、Letters to Cleoの“ポップとパンクの間にある真実”を高い純度で結晶化したデビュー作である。
力強く甘いメロディ、切実な歌詞、そしてエヴァーグリーンな疾走感は、
90年代オルタナティヴ・ロックの中でも特に誠実で明快な輝きを放っている。
フロントウーマンであるケイ・ハンリーのボーカルは、
カリスマ性よりも共感と親密さに重きを置いており、
それがこのアルバムを“語りかけるようなギターロック”として成立させている大きな要因である。
『Here & Now』のヒットで知名度を上げたバンドだが、
本作の魅力はその一曲にとどまらず、あらゆる曲に“日常を抱える少女の声”が響いていることだ。
それは派手ではないが、リスナーの時間に寄り添い続ける力を持っている。
おすすめアルバム
- Veruca Salt『American Thighs』
同時期の女性Voオルタナ勢。甘さと攻撃性の共存。 - Juliana Hatfield『Become What You Are』
ボストン出身のシンガーソングライター。ケイ・ハンリーと似た空気感。 - Belly『Star』
ドリーミーなギターロックと女性的なリリックが共通。 - That Dog『Totally Crushed Out!』
パワーポップとガーリッシュな感性を融合させた良作。 -
Liz Phair『Exile in Guyville』
より生々しいフェミニズム的視点を含む、同時代の記念碑的作品。
ファンや評論家の反応
リリース当初からボストンでは爆発的な人気を博し、
ローカルラジオ局でのエアプレイやインディーチャートでの躍進を経て、
メジャーデビューのきっかけを掴んだ一枚となった。
批評家からも、**“メロディとエネルギーが高いレベルで融合した良質なデビュー作”**として評価され、
『Here & Now』は今なお90年代ロックを代表する1曲として回顧されることが多い。
Letters to Cleoはこのあとさらにポップ寄りの進化を遂げるが、
『Aurora Gory Alice』は**“あの時代だけの真っすぐなバンド感”が封じ込められた、青春の記録**として今も愛されている。
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